74話
ダンジョンに現れた異変、異常個体と呼ばれる理性あるモンスターをダンジョン外の神殿に引き渡すという任務をこなした拳児達が次に辿り着いたダンジョンは「夕闇迷宮」と呼ばれる、夜の静けさが常に広がっている通路型の構造をしたダンジョンだった。天井には星が瞬く夜空が広がり通路の床は石畳、壁は大理石のようにツルリとした質感を持つ黒に近い色の通路がフロアいっぱいに広がっていた。拳児達はそんな通路に入り、順路と思われる石畳の上を進んでいく。
「それにしても暗いわね」
「闇属性のダンジョンだからかな」
魔法のライトで周囲を照らしながら進む恵の言葉に、ニアが応じて自分の意見を述べる。その内容に納得を示しながら拳児達は前へと進んでいた。そうして少し進んだ所で、このダンジョンに入ってから何度も聞いた足音が進行方向から聞こえてきた。拳児達は気持ちを切り替え魔法のライトを頭上高くに上げて視界を確保しながら武器を構えて敵が姿を表すのを待った。足音がはっきりとした頃合いでその正体がライトに照らされた。全身が木で作られた人型の人形としか言いようのないモンスターが、金属で出来た剣と盾、そして槍を構えて複数体走ってくる。視界に入った段階でニアが素早く矢を射出し、他のメンバーも魔法で遠距離から攻撃を開始した。矢のいくつかは人形の額を打ち抜き倒れさせたが、他のマネキンはそれに構わず全力で走り続け、拳児達前衛に接敵する。
「何度見ても気持ち悪いな!」
「見た目がデッサン人形なのよね」
剣で踊りかかってくる人形に合わせて動く拳児とフランがそんな事を言いながら相手の剣を弾いてそのままの勢いで頭を破壊してマネキンを停止させる。フランが言う通り人形の作りはデッサン人形と同じく球体関節を用いた造型をしており、サイズも170センチ程度の人間とほぼ変わらないサイズで造られている。表面に木目が浮かんでいる事から木製であると思われるが、人と同じサイズの木目人形の攻撃は受け止めると中々重い感じを受ける。受け止めるのでは無く反らすか弾く形で相手の攻撃を流してから頭を潰して倒すという方向で全員が対処していた。
「これで終わり!」
「よっし完了!」
綾子が言いながら自分の担当していた人形の頭を潰し、マリエルも人形の頭を魔法の岩石で砕いてから終了を告げる。全員が迫ってきた人形の全てを倒してみれば、周囲にはかなりの数の人形が倒れていた。その様子を眺めてから拳児がふぅ、とため息を吐いた。
「毎度毎度、数が多いな。まだ4回くらいしか遭遇してないけど、毎回二桁の数で来られるのは面倒くさい」
「資料の通りであれば基本的にはこの人形が大量発生しているエリアのようですからね」
拳児のちょっとした愚痴にレテスが苦笑しながら同意しつつ、眼の前に倒れた人形の胴体部に見える小さな宝石のようなものを解体ナイフで人形からくり抜いて、自分の荷物袋へとしまう。拳児も小言もそこそこにレテスと同じように他の人形から宝石を取り出していた。
「魔石って呼ばれるものの主な原産地がここという事が良く分かるわ。これだけ大量に出てくるなら鉱山で掘るよりこっちで人形倒した方が早いもんな」
「ダンジョンの坑道は本当に金属が主体だものね」
作業をしながら拳児とマリエルが言いつつ全ての人形から宝石をくり抜いた所で、拳児達は小休憩をする事として地面に外で使う用のカーペットを敷いて、各々の荷物袋から水袋と軽食を取り出し休憩を開始する。喉を潤して軽く腹に食事を入れながら、フランが誰へとなく問いかける。
「そういや月鉱石、そろそろ終わりだっけ?」
「先週辺りから毎日算出される数が減少しているそうですから、今週には尽きると予想されてましたね」
「お祭りも終了になったら、やっぱり坑道以外のフロアだと他の冒険者に遭遇するようになるのかしらね」
フランの問いにレテスが答え、綾子が新たに疑問を浮かべる。その言葉にレテスは軽く笑みを浮かべながら頷いた。
「完全に出土されなくなれば冒険者もダンジョン全体の探索に戻るでしょうね。もちろん自分が熟知したエリアに定住する事が多いでしょうけれど」
「やっぱりそういうものなんだぁ」
「色んな場所を探索するより、固定の場所でモンスターから素材を獲得した方が安全と稼ぎが両立されますから」
レテスの説明にニアが重ねるが、現実のダンジョン探索の実情を知るレテスからの答えにニアが少し残念がる。ダンジョンという文字通り命を賭ける場所を探索する人間が冒険者なのだが、その誰もが当たり前に自分の命が最優先で動いている。稼ぎと安全をダンジョンで両立させる方法の一つとして、自分の対応しやすいエリアに固定で通い詰め、良く知るモンスターから素材をいただくというのがあるのだ。いつもの場所、いつものモンスター、いつもの報酬。これで生活が成り立つ冒険者が多い為、多くの冒険者はどこか一つのエリアに定住するのが当たり前の事となっている。これが冒険者の現実だった。
「将来的に、私達もどこか固定で入るエリアを決めた方が良いのかしら」
「危険性の低いエリアが良いわよね、今までのエリアだと坑道より森林の方が安全と報酬の面では良いかな」
マリエルの言葉に合わせてフランが応える。今まで拳児達が訪れたエリアで言えば坑道より森林の方が確かに素材という面では美味しいというのはある。坑道で出てくるモンスターはゴーレムが主力であり、報酬は基本的に金属だ。今回のような月鉱石というレアアイテムが出土される事もあるが、月鉱石は8年後しの出土なので、毎回そのレベルのレアアイテムを求めるのは難しい。その点先日まで通っていた森林の場合、薬草などの植物に樹の実、出てくるモンスターの肉など、食べられる物も多い。最悪お金に変換しなくともダンジョン内の肉や樹の実などで生活が可能になっているのだ。鬱蒼と生い茂る樹木が視界を悪くしているが、それでも坑道よりも稼ぎが安定して、危険度は低いだろう。
「将来的にね。今はまだ他のエリアにいかないとだし」
「あとニ箇所、2つの属性球を集めないとだからな」
割と真剣に考え始めたマリエルにニアが苦笑しながら言い、拳児もそれに答える。拳児達の都合上、原状はどこかで安定して狩りを行うという事は出来ない為、その将来を考えるのは少し先になるだろうと拳児は思っていた。属性球を集めてダンジョンの機能を利用してなんとかする、というのが拳児達の目標であり、最終的にその機能で元の世界に帰るというのが最後の目標となっている。今の拳児達には進むべき道がある為、寄り道をしている訳にはいかないのだ。とはいえそれはそれとして、将来のダンジョンでの狩りを先に考えておくのはアリではある。
「マリエル達は、私達が元の世界に帰った後はどうする感じ?」
「ガティさんの同郷の冒険者になってる人達と組む予定。だから心配ないわよ」
「そうなのね」
フランの疑問にマリエルが正直に答えると、フランが軽くほっとした表情で頷いた。先の事を考えた時に一番気になっていたのが自分達が元の世界に帰った後の事だった為、そこにそれほど懸念は無いという事でフランは安心出来ていた。マリエル達の魔法の腕であれば、他にも人がいればそこいらのモンスターにはやられないだろう。
「何にせよ先の事だし、今はまだ眼の前の事に集中しましょうね」
「分かってるよ」
マリエルの軽く発破をかけるような言葉に、拳児は苦笑しながら頷く。先の事を不安視しているのは、この世界に残されるマリエル達ではなく自分達だという事を理解させられた。本当に元の世界に戻れるのか。今は高木が持っている情報に縋るしかない自分達の方が、将来が不透明なのだから。




