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迷宮白書  作者: 深海 蒼
58/77

58話


 神殿での混沌の力の持ち主、高木が行方不明になった事でその原因と思われる古代魔導王朝時代の魔法を理解する事を強いられた拳児達。既にタイトルの時点で怪しい書籍である該当文明の書籍『魔導技術による完全なる魂の具現化の可能性と魂の従属、支配の方法』の1ページ目には、こう書かれていた。


【天を知り地を知り、光の速度すら自在に操れる文明を築いた現代でも、魂の具現化には未だ到達出来ていない】

「なに言ってんだコイツ」


 のっけから拳児の常識ではおかしい出だしが書かれていた書籍に思わず拳児が小声で突っ込みを入れると、それを隣で聞いていたフランが小首を傾げて問いかけてくる。


「どうかした?」

「いや、なんか光速度不変の原理がいきなり崩壊してるんだけど」

「は?なにそれ?」


 拳児の言葉の意味が本気で理解出来なかったフランが隣から本を覗き込むが、拳児と同じく文章を読んで心底不思議な顔をしてから、達観した表情に切り替えて呟く。


「細かい所を真面目に相手する必要は無いから、魔法の原理とか手段が分かる項目だけ読むようにしましょ」

「そうだな、そうした方が良さそうだ」


 ある意味見なかった事にするという現実逃避の一種を発動させながら胡乱な文章を読んで行き、最初から展開される古代文明の優秀さ素晴らしさの持論を流し読みして、魔法に関して具体的に言及する項目に到達する。


【魂と肉体の分離に対する一つの解】

「ふぅん、一つの解ねぇ」


 魔法の原理が書かれているその文章を読み込んで行くと、魂と肉体が分離した一つの到達点がアンデッドであるという結論となっていた。原理としては魂と肉体、精神という三体の内、肉体が一番外界に接している存在である為その肉体を切り離し、外界からの影響を遮断する事で魂と精神の劣化を防ぐという構図である。その結果肉体が腐乱したり崩壊したとしても魂と精神が残り意思を持っている存在が、レイスやリッチーといった上位のアンデッドであると結論付けられていた。原理としては分からなくも無いな、と拳児もこの論調に関しては同意した、実現の可能性があるのかどうかは置いておいて。


 この世界におけるリッチー、レイスという幽体が本体のアンデッドはゾンビやグール等の腐乱死体や骨が動くアンデッドより上位とされている。それは肉体を持たないが故に完全な物理攻撃が通用しないという脅威が原因であった。幽体を相手とするには魔法で攻撃するのが大前提であるのは現代でも同じで、他にも武器に聖銀と呼ばれる金属が用いられたりと、やはり魔導的な技術を用いられて創られた武具でなければダメージを与えられないという条件が、幽体であるリッチーとレイスの存在の格を上げている1要因であった。


 ではそんなリッチーとレイスは魂が具現化した存在なのか?となるとそれに対しては否とこの設問では解答が出ている。リッチーやレイスを構成するのは魂と精神、そして魔力であり、魂単独で活動している訳では無く、肉体が無くなった両アンデッドが世界に干渉する手段として、肉体の代わりに魔力が利用されている為、肉体がただ魔力に変わっただけであり、それでは魂の具現化と呼ぶには不十分であるという結論がされていた。


 ここで言う『魂の具現化』という文言が何を表すのかと言うと、単純に言えば『魂単体での完全独立』である。魂を完全に独立化した物質として持ち歩き、肉体や精神が崩壊しても魂さえ無事であれば再構成が可能となる、一種の永遠を体現する為の手段として、魂の具現化を追求しているのだった。その内容を読んで拳児が軽く頭を振る。


「だめだ、知性を感じるのにどこまでもおかしい文章を読んでるとこっちまで頭おかしくなりそうだ」

「それは完全に同意」


 首を振りながら呟いた拳児の声に恵も呆れを含みながら同意し、再び自分の担当書物に目を通す。全部こんだけヤバい内容が記載されているのかと思うと辟易するが、今後の為にも拳児も真剣に文献を読み進めた。文献の中で話は進み、魂の具現化を模索している中で副産物として他者の魂の支配、従属を可能とする手段が発見され、それを活用する方法が記載されてきた。魂を支配、従属するメリットとしては完全な自身への服従者を作成可能になる事であり、命令があれば文字通り死んだとしてもアンデッドとして復活し命令を完遂するという絶対服従が可能となる点で、従来の奴隷よりも遥かに利便性が勝るという点にあった。


 この時点でだいぶ読み進めたく無くなった拳児だが我慢をして読み進めると、方法として魔法による契約手段と手順、術式が記載されていた為それらを理解出来る範囲のみ覚えておき、理解不能な部分は飛ばして読み進める。するとこの魂の従属を可能とする術式を、この星に試行した記録がそこには記載されていた。


 『世界』というモノはこの星のみでは無く数多にある星々も含めた全てが『世界』であり、自分達が存在しているこの星は世界のただ一部の一惑星でしかないという事を既にこの文明は理解していた。なので原理として『世界』を構成するのは数多の星、生命であり、その一部としてこの星が存在し、自分達が存在する。それは自分達と同じ『多数の細胞で構成された生物』と同一であると定義し、ならばこの世界自体にも魂が存在し、その一部であるこの星も自分達人間を含めた数多の細胞を抱えている為魂が存在するのだという理屈である。そうした理屈で、この文明はこの星の魂【ガイア】とコンタクトを開始した。


 最初は魔導的な儀式を行い10名程度の魔導士で儀式を執り行い、全員が精神崩壊を起こして失敗に終わった。当時の魔力信号等の計器ではキチンと反応があった事は確認出来たが、相手からの返答が大声過ぎた為に鼓膜が破れたような形で、儀式を行った人間の精神が崩壊した。ならばと人数を増やし50名、100名と加算していき最終的に友好的なレイスやリッチー、アンデッドすら混在させた1024名による交信にて、この星の魂との対話は成立した。


 この星の魂との対話により成立した技術の一つが『魔導晄炉』であり、魂が生み出す一部エネルギーを人が使えるように転化させた、文字通り星が成立している間無限に供給可能なエネルギー生成施設となった。そうした星の魂との交渉では数多の偉大なる成果が生まれたが、結果としてそれがこの世界における『汎自然的存在』との間で諍いを生み、文字通り『汎自然的存在』との全面戦争へと発展しているという事であった。この『汎自然的存在』に対しても魂の従属を行い敵対していた存在を無理やり味方に引き入れたりと、かなりやりたい放題をしていたようだが、最終的に『この戦争が終わった後、この世界はまた新たなる進歩へと到達出来るだろう』という文言で本は締め括られていた。拳児はそこまで読んで額に滲む脂汗を手の甲で拭ってから呟く。


「なんだこいつら、頭おかしいよ」

「発想が完全に階級社会構造なんだよね、根本的に」

「そりゃあ滅びますわ」


 拳児と同時に文献を読み終えたフランと恵も呟きながら既に温くなったお茶を飲み込み、溜息を一つ吐く。それから恵が会話の口火を切った。


「この本に出てくる『汎自然的存在』って、神々とかドラゴンとか、精霊とかの事だよね」

「そうだと思われます」

「呼び方が厭味ったらしくていやだわ」


 恵の問いかけに司書であるセーナが答えると、フランも溜息を吐きながら応じる。『汎自然的存在』という呼び方は完全に「相手はただの自然現象である」と見下した呼び方だ。上位存在というモノを認めないその呼び方で、いかに古代魔導王朝の人間が傲慢であるかが伺い知れるという物だった。全てを支配出来ると驕り高ぶった結果、今の時代に遺蹟や古い問題のある資料として残されている時点で、滅ぶのは仕方ないとしか言いようが無い。きっと神々やドラゴンも全力でぶち殺すつもりで戦ったんだろうなぁと拳児は軽く遠くを見ながら思っていた。


「星の魂が生み出す一部のエネルギーが混沌の力、か。そりゃ超新星爆発で混沌の力がばら撒かれる訳だわ」

「それを利用したいっていうのも理解できる話ね。高木さんを誘拐した存在の目的は混沌の力を持つ存在に直接魂とのコンタクトを行わせる事かしら?」

「あー、混沌の力を通じてなら負荷がほぼ無くなるとかそういう話か。光ケーブルで高速通信可能みたいな」


 拳児が呟いた混沌の力に対する見解について恵がその利用法に一つの提案を示し、フランもそれに納得する。その推測通りだと割と問題がある状況なんじゃないのか今、と拳児達が思い至った所で、ギルド長とグレスが口を挟んできた。


「その、本の内容を理解出来たのか?」

「え?はいある程度は。俺達の世界でも常識だった事とかが記載されていたりもしたので」

「そうですね、エネルギーを生成する為の工場とか施設なんて、私達の世界の技術にも存在していますし」

「俺はその本を読んでも、その文明がどの程度の力を持つのか全く理解出来なかったぞ」


 ギルド長とグレスの呆れ混じりの言葉に拳児達も苦笑を浮かべて応じる。今のこの世界はまだ馬車を移動手段に活用している文明レベルなので、この古代魔導王朝時代の文明よりは遥かに技術として劣っているのは間違いない。恐らく神々とドラゴンが本当に徹底的にぶっ壊したであろう事が透けて見えるこの世界の状況が、この時代の文献を問題視するのは当然であった、何しろ根本的に技術力に差があり過ぎるのだから。


「とりあえず、魂の従属に関する理屈自体は分かるけれど、今この術式を行使するとすぐ神とか竜が飛んでくると思うわ」

「そうね、止めておきましょう。こちらも一部魔力を用いた特殊な術式は理解できたから後で共有するわ」

「私もそうするけれど、書類には残さないで口伝だけにしましょう。使用可能な形で術式を残したら世界に殺されそうだわ」

「そうだな、そうしよう」


 フランと恵、拳児の三人で魔導理論の話を行い具体的な術式に関しては口頭のみで残す事とし、文献等では残さないという形で収める事とした。そうして今後の知識の運用方針を決めた所で、恵がシャルミスへと視線を向ける。


「ではシャルミス先生、早速ですが現代用に再現された古代魔法を教えて頂いても良いですか?」

「そうね……では訓練所へ行きましょう。実際に見せた方が良いと思うわ」

「それは是非お願いします」


 シャルミスの言葉に恵は実際に見せて貰う事をお願いし、一同は聖堂内の訓練所へと移動する事となるのであった。

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― 新着の感想 ―
異世界魔導理論の説明開示良いですね…。 作者さんの考える異世界設定の一端に触れる感覚が好きです。
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