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迷宮白書  作者: 深海 蒼
49/56

49話


 冒険者ギルドにて砦のゴーレムおよび収集物全ての鑑定が完了した事で、拳児達の用事は全て完了となった。一部収集した書物はマジックアイテムにてコピーをされて全てギルドが受け取り済み、冒険者ギルドへ展示する騎士ゴーレムと馬ゴーレムの代金と書物のコピー代でかなりの額の報酬を貰った拳児達は、綺麗に等分して分配した。とはいえ現金で分け合った訳では無く、ギルドが窓口となっている口座上で分配しているので、金銭の実物はギルドが保有したままだ。全員でホクホクとしながら窓口処理を終えると、奥から再びグレスが歩いてやってきた。


「全て済んだか?」

「はい、お陰様で」

「そうか。ではマリエル、ニア。君達に手紙と依頼が届いている」

「手紙と依頼、ですか?」


 拳児の返答に笑顔で返した後で、グレスはギルド職員として一つの封筒と一枚の紙を差し出す。それを困惑しながら受け取ったマリエルはまず封筒の差出人を見て一瞬で嫌そうな表情を浮かべた。


「え、どうかした?」

「……パパからの手紙」


 フランの問いかけにマリエルがやはり嫌そうな表情を浮かべながら封筒を開き、中から2枚の折り畳まれた紙を取り出して一瞥して、1枚をニアに差し出した。


「これはニアのお母さんからね」

「あー、2人分なら一緒に出した方が安上がりだもんねー」


 マリエルの言葉に納得しながらニアは手紙を読み進め、少し嬉しそうな表情を浮かべている。それとは対象的にマリエルは終始嫌そうな表情を浮かべながら手紙を読み進め、次に手渡された紙を読んでから、はぁ~と深い溜息を吐いた。


「本当に、村長が何やってんのよ……」

「内容は?」

「見る?」


 深くため息を吐いたマリエルに興味を見せた恵がそのまま手紙を受け取ると、手紙には以下のように書かれていた。


『マリエルちゃん、おっは〜。今日のお昼が美味しくて、それと一緒にマリエルちゃんのことも食べちゃいたいナ〜。なんてね。今日はどんな一日だっタ?そろそろ一緒にご飯行こうよ。ご要望とかはあるのかナ――』


「キモッ!!うわキモッ!!!!」


 背筋を這う悪寒に震えながら恵は手紙をマリエルに突き返す。冒頭だけでやられてしまった恵に代わり、マリエルが内容を説明した。


「村に近い内に戻ってきて現状説明が欲しいって事みたい。ギルドに依頼として村周辺の探索およびモンスターが居た場合の殲滅の依頼を出すから、冒険者として受領して帰ってこいって事よ」

「ウチのお母さんからの手紙もそうだったよ、どんな様子か確認したいから一度帰ってきなさいって」

「なるほどね、そういう事なら一度帰った方がいいわね」


 マリエルとニアが手紙と依頼の内容を簡単に説明すると、フランが納得いった表情で頷く。それを横目で確認してから再びマリエルは手紙に視線を移し、はぁ~と再び大きな溜息を吐いてからポツリと呟く。


「帰りたくないなぁ」

「うーん、でも近況報告は必要じゃない?」

「手紙は毎週送ってるじゃない」

「でも3ヶ月以上は顔を合わせてないのは事実だし」


 マリエルとニアがそんなやり取りをしていると、マリエルがはた、と何かに気付いたように依頼書類に視線を向けてから呟く。


「依頼、人数制限が無いわ。依頼料は人数の増減で変動無しだから、私とニア以外も受けられる」

「そうだな、ギルドとしては不合理では無い指名依頼ならば可能な限り受けて貰いたい所だ。それに王家へゴーレムを献上するのも、属性球の情報を交換するのも時間がかかる。余程長くなければ半月ほどはこの街を離れても大丈夫だろう」

「じゃあみんなで受けましょうこれ!ガティさんは鍛冶のお仕事があるけど私達はマリエルパーティーだから!」

「別にこっちとしては構わないけれど、というかマリエルとニアの実家の村ってどんな所なの?」

「牧草地にある村だよ、主に麦と野菜の栽培と牛と羊、ヤギの飼育をしてるんだ」


 マリエルが何か力強くパーティーである事を強調してから恵が問いかけると、ニアが故郷を思い出しながら説明をしてくれる。牧草で牛などの飼育という事で一気に長閑な農村というイメージで一致した日本組で視線を合わせて頷く。


「じゃあ、行こうか」

「では依頼受領という事だな。出発の際にはこの木札を馬車駅に出せばエライ村を経由する馬車に乗車出来るので忘れないように」

「ありがとうございます!」


 拳児が行く事を決めた事でグレスが依頼受領と判断し、依頼人から出されていたエライ村を経由する行商の馬車の乗車券をマリエルに渡す。マリエルはそれを受け取ってから、全員に視線を向けた。


「じゃあ、明日出発しましょう!まだ昨日のダンジョン攻略用の物資は残っているし、エライ村は基本平和だからダンジョンより遥かに安全よ!」

「そうだねぇ~。拳児さんの棒を新しく用意すれば問題無いと思うよ」

「アレと同じモンなら予備で何本か作ってるからすぐ渡せるぜ」

「じゃあ、明日行こうか」


 マリエルの決定にニアも同意し、ガティが既に拳児が使っていた棍と同一の物を用意してある事を説明したので全員でマリエルとニアの故郷へと向かう事が決まった。その様子を見ていたグレスがマリエルとニアに言う。


「村長によろしく伝えてくれ」

「はい、グレス様のお心遣い感謝いたします」


 グレスの言葉にマリエルが笑顔を浮かべながら礼を述べると、グレスは頷いてから拳児達に視線を向ける。


「では俺の方はこれで。これからルナヘルム鋼のゴーレムとその砦に関する情報共有や考察など、やる事が山積みなのでな」

「お仕事頑張ってください」

「あぁ、ではな」


 グレスの言葉にフランが苦笑をしながら応援すると、グレスも苦笑をして踵を返す。それを拳児達が見送った後で、ガティが拳児に告げた。


「じゃ、この後は俺の自宅だな。予備の棒を渡してやる」

「うん、頼むよガティ」

「後は、月鉱石を使った新しいお前達の武具の製作をするか。今使っている武具よりも頑丈さや性能が格段に上がると思うからな、アイデア出しをしてくれ」

「分かったわ!」


 ガティの心強い言葉と共に、全員で冒険者の聖堂からガティの自宅兼仕事場へと戻り、今後に役立つ道具や武具を手に入れた月鉱石で作ってもらう算段を全員で始める事となった。


 一夜明け翌日。朝に『小鳥の羽音亭』に寄って朝食を頂き、昼食用のバスケットも購入したマリエル達は揃って馬車駅へとやってきた。正面玄関のターミナルと呼ぶべき出口に馬車専用の出入り口が用意されており、そこで交易で往来する馬車を全て管理しているのだ。拳児とフラン、恵は初めて見る馬車の大群に感心しながら見て回っていた。


「すごい馬の数」

「うん、凄い馬、馬車の数ね。それに」

「すごいクサい!」


 拳児と恵の言葉に続けてフランが周囲の臭さを強く訴える。荷物の搬入や荷下ろしもしている場所だから馬車も停車している物ばかりで、馬は生き物だ。馬の体臭もある上にトイレがある訳もないので馬は遠慮無くフンを垂れ流す。定期的に小姓のような清掃員が馬の糞を片付けに来るのだが、かき集めてからフンのあった場所に水をかけ流すだけの簡易清掃なので臭いはどうにもなっていなかった。水洗トイレが常識の日本人からすればこのフンの臭いは耐えられなかったのだ。そんな彼女達を置いてマリエルとニアが馬車駅から戻ってきて番号を告げてくる。


「私達の乗る馬車は8号車よ」

「早く行きましょう、早く」


 戻ってきたマリエルをせっつくように背中を押してフランはさっさと目当ての8号馬車に乗り込み素早く着席すると、荷物袋の中から小さな布袋を取り出してその中に鼻を突っ込んで深呼吸をしていた。


「何やってんだ?」

「ポプリよ。この世界じゃ香水は貴族の嗜好品だから庶民は地道に花を集めてポプリを作ってオシャレするんですって」

「なるほど、馬のフンが酷かったからなぁ」


 恵の答えに納得がいった拳児は半分呆れた視線でフランを見ていたが、そんな事を気にしていないフランは目一杯ポプリの花の香を楽しんでから顔を上げた。


「鼻が生き返った」

「元々死んでないからな」

「村の牛舎はここよりも臭うけれど大丈夫かしら?」


 花の香りで復活したフランだがマリエルの言葉にギクリと硬直してから、再度ポプリに鼻を突っ込んで答える。


「牛舎ではこうしているわ」

「それでどうにかなるならそれでいいんじゃないかしら」


 間抜けはフランの格好に苦笑しながらマリエルは言いながらフランの隣に座り、その横にニアが座る。フランの対面には拳児が座り、その隣に恵とレテスが座った事で、荷物等も積んでいる馬車の座席は全て埋まった。その状態を見て、御者台に座っていた馬車の持ち主が声をかけてくる。


「集まったようだし、行きやすよぅ」

「お願いするわ」


 御者のおじさんの声にマリエルが応じるとすぐに馬の嘶きと共に馬車が静かに動き出す。所々ガタガタと揺れる馬車の中から見える外の景色にふと、恵が呟く。


「そういえば、この街を出るのは初めてか」

「では色々景色を眺めながら、旅を楽しみましょうか」

「通常であれば夜には到着するから、時間はいくらでもあるからね」


 恵の言葉にレテスとマリエルが楽しそうに言いながら周囲の景色を眺める。確かに街を出るのは初めてだな、などと拳児も周囲の景色を楽しみながら旅は始まるのであった。


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