48話
ゴーレム砦を攻略した翌日、昨夜ガティの自宅兼仕事場へお邪魔した拳児達パーティー一行はそのまま宿泊もさせて貰う事になり泊まっていった。翌朝には全員が身体の軋みで目を覚ましガティの母親、マルタさんお手製の筋肉痛に良く効く軟膏を身体の節々に塗りたくってから朝食も頂く事となった。朝食は既にノリシラが作ってくれており、土鍋に雑穀を入れた粥となっていた。
「筋肉痛が酷いそうですから、穀物の方が良いですからね」
「助かる~。パンだと喉を通らなかったかも」
ノリシラの気遣いに恵が少し涙ぐみながら粥を食べつつ、その優しい味をじんわりと楽しむ。例に漏れずガティも筋肉痛となっていた為全員が食事を終えた後にはまた風呂に入り軟膏を落として、大分ラクになった筋肉の調子を確かめつつ全員でテーブルを囲んだ。
「あー、冒険者ギルドに行かなきゃいけねぇんだよな」
「ガティさんが一番アイテムとかゴーレム保管しているからね」
「だわな、じゃあ行くかぁ」
ガティの呟きにマリエルが同意すると、ガティも諦めがついたような形で席を立ち全員で冒険者の聖堂へと移動をする。朝の聖堂までの道は相変わらず屋台とつるはし等を持つ人が大量に冒険者の聖堂へ向けて歩いていてまだまだ月鉱石の祭りが続く気配を感じながら、拳児達は聖堂へと入場した。入場してすぐカウンターへ直行しようとした拳児達より先に、中央のモニュメントでグレスが老齢のウィードランナーの男性と一緒に待ち構えていた。
「お前達、こちらだ」
「あ、はい。おはようございますグレスさん。それと、その……」
誰ですか?と直接聞くのも失礼だからどうしようか、と拳児が考えているとウィードランナーの老人はほぅほぅと頷きながら呟いた。
「随分謙虚な性格のようだのう」
「性格というか、国民性というか」
「なるほどなるほど、ワシはマルクエル・シューヘン。一応このフィーリアス冒険者ギルドの長をしておるよ」
「あ、ギルド長でしたか。失礼しました、小林拳児です」
マルクエルギルド長からの挨拶に拳児は畏まってから返事を返すとギルド長はまたもや頷きながら口を開く。
「ま、ここで話をするのも周囲が喧しいからの。鑑定室へ移動するか」
「はい、分かりました」
ギルド長が促すままに、拳児達は並んでカウンターを通り過ぎ鑑定室への入り、鑑定室の更に奥、普段は開かれていない部屋まで誘導された。そこは大型モンスター等を解体、鑑定する為の部屋となっており、凡そ砦のトロール程度の高さがある広々とした部屋だった。そこに既に3名の鑑定師が集まっており、ギルド長とグレスに向けて頭を下げる。その様子を見てからグレスが拳児に向けて喋る。
「では、ここに置いてくれるか?どの程度の量があるかは分からんが、ある程度の量はあるのだろう?」
「えっと、倒したゴーレム全部持って帰ってるんで、12体と馬3体ですね」
「馬?どういう事だそれは」
「へぇ、見た方が早いかと思いやす」
グレスの言葉に拳児が返事を返すが馬という単語に疑問を呈したグレスに向けて、ガティはしたり顔で荷物袋の中から金属の馬を取り出して横倒しに寝かせる。その馬の姿を見てグレスもギルド長も驚きに目を見開いた。
「な、なんじゃこれは」
「馬のゴーレムですね、はい。上の人形ゴーレムと一体となっていたんですけど、倒しました」
「馬のゴーレムを現実で目にするとは思わなかった」
ギルド長の驚きの声にフランが返事をすると、グレスが何だか感慨深そうに呟く。この国では馬車を引く馬のゴーレムというのはおとぎ話の一つであるのだが、現実では馬のゴーレムを作るより本物の馬を飼育した方が安上がりなので用いられず、馬のゴーレムは豚に真珠と同じようなニュアンスで用いられるスラングとして定着していた。そんな世界に本物の馬のゴーレムが現れたのでグレスとしては中々衝撃を受ける出来事であった。そうしてゴーレムを順に並べた後は箱ごと持ち帰った木箱を並べ、次に魔力増幅結晶の入った布袋と、魔力の渦巻く黄色い水晶を取り出す。その全てを見て、鑑定師もギルド長もゴクリと生唾を飲み込んだ。
「こりゃすごい……全身金属のゴーレム、しかもこれはルナヘルム鋼と見える」
「高純度の月鉱石を鋼にしたルナヘルム鋼かと、詳細は鑑定をしますが」
ギルド長と鑑定師が唖然としながらゴーレム達を見ている所に、別の鑑定師が木箱を開けて中身を確認する。その中に纏められた紙束を取り出して何が記載されているのかを確認した。
「ヒーリングポーションとマジックポーションの作り方、それと金属加工の方法、初級編」
「こちらは中級編と書いてあります、結構な分量がありそうですね」
「それ用の道具と材料の一部が入っているんですね、鉱石と乳棒にすりこぎや秤か」
箱の中身を吟味しながらふむふむと早速鑑定を始めた人達に向けて、ギルド長がコホンと咳払いをしてから言う。
「ではの、鑑定を頼む。わしらは少し別室で歓談でもしてようかの」
「分かりました、お任せください」
ギルド長の言葉に鑑定師が頭を下げながら返事をし、ギルド長に促されるまま拳児達はギルド内部を進んでギルド長の執務室へと入り、そこで来客用の席に座った所に受け付けをしていたギルド員の1人がやってきて冷たいお茶を出してくれた。それにぺこりと頭を下げてから拳児達が一口飲み込むと、グレスが口を開いた。
「しかし、ルナヘルム鋼のゴーレムと戦闘とは、中々無い状況だな」
「随分贅沢なゴーレムじゃな」
「そうなんですか?確かにレアな鉱石とは聞いてますけれど」
グレスとギルド長の言葉に恵が疑問符を浮かべながら問いかけると、グレスが苦笑しながら応じる。
「普通の月鉱石自体が希少金属の一つだからな、それにあのルナヘルム鋼は月鉱石の成分が多い。普通の鋼を作る工程に、ほんの僅かに月鉱石を含ませてルナヘルム鋼にするだけでも金額にしたら10倍に跳ね上がるような金属をあの純度で作成されたゴーレムとは、人の手で作れば一体いくら掛かるか計算したくもない」
「普通の鉄で人形を作るのも並の金額じゃ出来ねぇから、自分で作ると考えるとゾッとしますわ」
グレスの正直な感想に自身も金属を扱うガティが苦笑しながら同意する。そういうものなのか、と拳児達が感想を思い浮かべていると、ギルド長がお茶を飲んでから真面目な顔で切り出した。
「で、じゃ。まずあの数のルナヘルム鋼のゴーレム、騒ぎになるのは目に見えておる。馬のゴーレムなんぞも出てきたとなれば好事家や貴族が物珍しさに欲するなど想像に容易い。なのでまず、わしからいくつか提案がある」
「伺いましょう」
ギルド長の真剣な言葉に恵も真剣に身構えて受けて立つと、ギルド長はまた一口お茶を飲んでから口を開く。
「まず馬のゴーレム1体と金属鎧のゴーレムを1体、王家に献上する。献上された品であれば王家は受け取るだろうし、王家に献上した物と同様の物を自分にも、と厚かましく言うような貴族はそうおらぬ。なので1セットは王家に献上する事で王家を防波堤とするのじゃ」
「なるほど、確かに貴族に個別に押しかけられるよりはマシですね。それに我々は所詮庶民なので、貴族に面と向かって歯向かうには立場が弱すぎる」
「そういう事じゃ」
ギルド長の言葉に恵が理解を示すと、それを見たギルド長が軽くほっとしたような表情を見せてから、再び提案をする。
「して、もう1セットをギルドの中央広場に置こう。誰でも見られる場所に展示し、ダンジョンの探索をすれば手に入れられるチャンスがあると冒険者にも一般市民にも示す事で、自分達で手に入れようとする者が増えるだろう。貴族も冒険者に依頼を行い自分達で手に入れる算段を行うはずじゃ」
「買い付けるより規定の金額を成功報酬として冒険者に依頼して手に入れた方が貴族としても懐具合は良い、ですか」
「そういう事じゃ、残りについては全てお主らで使えば良かろう。多少の損はするが欲張りすぎると腹黒い貴族に食い物にされるぞい。それよりは王家に媚を売り防波堤となって貰うのが良かろう」
「分かりました、冒険者ギルドもこちら側という事を見せる為にも2セットはギルド長にお預けします。で、いいよね拳児君」
「ハイ」
ギルド長と恵の『こうどなじょうほうせん』をボーッと聞き流していた拳児が、突然話を振られカタコトで機械音声のように返事を返す。その様子に恵が苦笑をしてから、グレスが口を開いた。
「それといくつか書物があったようだが、それらも可能であれば模写をしても良いだろうか。既存の物以外の珍しい資料となるのであればギルドの資料として情報を受け取りたい。勿論それに報酬は支払う」
「模写でしたらいくらでも」
グレスからの提案にマリエルが笑顔で頷く。確かに木箱の中には結構な数の紙束が入っていたので、その中に色んな製法書が混ざっているのを確認している為、書物を丸ごと没収では無く模写であれば報酬を貰えるならいくらでも歓迎だ。そうして書物の行き先もある程度決まった所で、執務室のドアがノックされ鑑定師の1人が部屋に入ってきてギルド長に紙を2枚差し出した。
「こちら、ゴーレムの月鉱石の含有割合の表となります。人形1体にしておよそ、3000万は下らないかと」
「じゃろうなぁ」
鑑定師の言葉にギルド長が遠い目をしてから表を受け取り、それからグレスに回り、グレスがガティに差し出す。
「驚く事に、8割が月鉱石だ」
「本当に、いくら金があってもそんな量をゴーレムにするなんて馬鹿げてやすね」
「ダンジョンでは何があってもおかしくはないが、金銭感覚を疑うな」
ガティが書類を受け取りながら苦笑すると、グレスも同意見と大きく頷く。ほぼ希少鉱石で出来たゴーレムと通常の岩石ゴーレムを比較したら、その価格差は歴然であろう。個体性能差はあれど、戦いは数で決まる部分もある為、同じ金額を出すなら月鉱石ゴーレム1体分で岩石ゴーレムなら一万体は作れそうだ、余りにも贅沢な使い方としか言いようが無かった。そして鑑定師は2枚目の紙をギルド長に差し出す。
「こちらは同時に確認した書物の内容です。いくつか失伝された薬品の製造法と主に鍛冶と建築に関する記述がありました。あとは昔の創作小説と思われるシリーズものが」
「創作小説?」
「はい、こちらです」
鑑定師の言葉にギルド長が疑問を呈すと、鑑定師が一冊ギルド長に差し出す。それを受け取りギルド長がタイトルを見て少し眉を顰めてからパラパラとページを捲るとパタンと静かに書物を閉じた。
「官能小説か」
「はい」
「いやなんでやねん」
書物の内容を改めたギルド長の言葉に思わず拳児が突っ込みを入れるが、それを華麗にスルーして鑑定師は続けた。
「希少な資料に関しては模写をお願いします。報酬につきましてはギルド長のご指示にて」
「了解した、それで残りの物については?」
「あの黄色の魔力が渦巻く水晶ですが、得体が知れません。魔力反応として大地の属性魔力である事は分かりますが、それ以外は何も。書物に記載が無いか確認しましたが一つだけこの魔力球については記載がありました」
「なんとあった?」
魔力球についての記述についてギルド長が尋ねると、鑑定師は少し気を張ってから口を開いた。
「書物には『属性球については王家に尋ねよ』とだけありました」
どうやら面倒な物体を拾ってきてしまったようだな、と少し遠い目をしてフランが壁へ視線を向けるのであった。




