47話
砦の守護者であるゴーレムとの激闘の末、拳児達は全員生存して帰る事が出来るようになった。全てのゴーレムを全滅させた事で光と共に宝箱と転移装置が砦の屋上に現れたのだ。やはりイベントボス戦で攻略しないと帰れない仕様だったか等と思いながら、拳児は座り込んだままレテスによる回復魔法での治療を受けていた。
「暫くはミミズ腫れのように残りますが、時間が経てば消えると思います。身体を洗う時とかに擦らないように注意して下さい」
「ありがとうございます、レテスさん」
安心したような声でそう教えてくれるレテスに拳児は素直にお礼を言って、荷物袋の中から予備の上着を着る。それからゆっくりと立ち上がってからまず自分が倒したボスゴーレムの傍に寄った。ボスゴーレムの状態をガティが興味深そうに観察している所に拳児が声をかける。
「どう?」
「ん~、やっぱ触った事ねぇ金属だが、他の金属鎧の奴らより頑丈に出来てやがる。合金だとは思うが機材で詳しく調べてみねぇとわかんねぇな」
「そっか」
鎧を満面なく調べたガティの言葉に拳児が頷くと、ガティがそのゴーレムの胴体を触る。そこには深々と内部に刺さった棍であった物があった。
「金属としちゃ硬度で負けてたが、良く貫いたもんだ。もっとも胴体に刺さってる部分以外は崩れちまってるけどよ」
「勢い良く投げたからね。この棍じゃなかったら負けてただろうなぁ」
「良くやったぜ本当に」
拳児の言葉にガティは苦笑を浮かべながらゴーレムを荷物袋に仕舞って立ち上がり、今度は宝箱の方へと歩いていく。宝箱の前ではマリエルとニア、恵とフランの4人が中身を取り出して地面に並べて首を捻っていた。
「どういう事かしらこれ」
「延べ棒は別にいいんだけど、問題はコレよね」
「なんか魔力がグルグル回ってるよね」
マリエルと恵、フランで不思議な物体を観察する。見た事の無い金属の延べ棒は十中八九月鉱石だとは思うので、問題は一緒に入っていたかなり大きい水晶玉のような物体だ。黄色に光り内部で渦を巻き魔力が水晶玉から止め処なく溢れている。何か危害がある訳では無いが、何だか重要そうなアイテムの登場に一同困惑しているのだ。
「それが何なのかは分からないよな」
「そうね、このダンジョンの資料でもこんなアイテムが出てくるなんて記述は無かったし、何か重要な何かだと思うわ」
「何の為のアイテムでどんな重要な何かがあるのか分からないのがアレよね」
拳児の言葉にマリエルと恵が苦笑を浮かべながら答える。正体不明の謎の物体という事でどうすべきかを色々考えていたが、結局見なかった事にする訳にもいかないという結論に至った。
「じゃ、仕舞っておくわ。後で……いや明日ギルドに持ち込んで鑑定して貰いましょ。今日はもうクタクタだから速く帰って収穫物は明日改めて鑑定に来ましょう」
「その方が良いわね、あたしももうヘトヘトだし」
「ちょっと指先の感覚無くなってきてる位には弓撃ったなぁ」
マリエルに同意するようにフランとニアが言い収穫物の鑑定に関しては明日以降にお願いするという事で話が纏まり、全員で転移装置で聖堂へと帰還する事にした。全員で静かに転移装置に乗り込み光に包まれて、いつもの聖堂の転移部屋に到着した所で全員ではぁ~と大きなため息を吐いた。
「本当に大冒険だったな」
「俺ぁ普通に鉱石が取れれば良かったんだがなぁ」
「まぁまぁ」
拳児とガティの言葉にニアが苦笑しながら慰めるように言い、全員で一旦ギルドカウンターへと向かう。普段通りギルドの窓口担当者の人にマリエルがギルド証を差し出して告げる。
「マリエル・ベル・エライのパーティー、帰還したわ」
「承知いたしました、少々お待ち下さい」
提示されたギルド証を受け取った受付担当者は帳簿を捲ってからペンで何かを記載してから、再度マリエルに視線を向ける。
「グレス教官から戻った際に報告が欲しいとの旨が記載されていますが、今連絡いたしますか?」
「いえ、詳細な報告は明日で。グレス様には目標は達成、詳細は明日鑑定と同時にとお伝え下さい」
「承知いたしました、それではダンジョン探索お疲れ様でした」
マリエルの報告にギルド職員が頷いたのでマリエルも返却されたギルド証を持って拳児達の元に戻ると、ガティが口を開く。
「とりあえずお前ら、ウチに来い。ノリシラ達が酒と飯を作って待っててくれてるだろうからな」
「それじゃ、お邪魔しましょうか」
ガティの言葉にフランが嬉しそうに言うので全員でガティの自宅兼仕事場へ戻る為に聖堂から街へ出ると、辺りは夕日が差し込む時間となっていた。
「今日はかなり時間かかったなぁ」
「やっぱり砦を攻略するのが一番早い帰還方法だったんですね」
拳児の言葉にレテスが頷きながら自分達の選択の正しさを認識し、全員でガティの家へと帰る。そうしてガティに先導されて店内に入ると、カウンターに居たノリシラが笑顔で言ってくる。
「あ、お帰りなさいガティ、皆さん!成果はどうでしたか?」
「まぁ、予想外の成果になっちまったが、キチンと収穫はあったぜ」
「わぁ!じゃあ本当に今日はお祝いですね!お料理はすぐに食べられますけどすぐ食べますか?」
「閉店しちまって、全員で食おうや」
「分かりました!」
ガティの言葉に嬉しそうに頷いてからノリシラが店の入口の看板を閉店に変更し、出入り口の鍵をかけてそのまま鍛冶場の方に声をかける。
「皆さん、ガティが帰ってきたのでご飯にしますよー!」
「ういーっす」
ガティの弟子達に声をかけてからノリシラは拳児達へと笑顔を向ける。
「じゃあ皆さん先に食卓で待ってて下さい!あ、先にお風呂の方が良いですか?」
「そうね、お風呂を頂戴」
「分かりました、じゃあお風呂使って下さい!二つあるので両方使って大丈夫ですよ!」
ノリシラの言葉にフランが風呂を要求するとノリシラは笑顔で応じて風呂場へとみんなを促す。元々ガティの家族とその弟子が住む用に買った自宅の為、風呂場は二つ用意してあったのだ。ガティと拳児、そして女性陣で分かれて風呂に入り、湯船で少しゆっくりしながらガティが呟く。
「明日筋肉痛になりそうだなこりゃ」
「今日結構歩いたり走ったり忙しかったからな」
「鍛冶場も力仕事だが、今日は普段使ってねぇ筋肉を使っただろうからな」
ガティの言う通り筋肉痛が明日は怖いなと拳児も思い、そのまま湯船から上がって荷物袋の着替えを着てから食卓へと向かうと、ノリシラ達がせっせとテーブルの上に大皿料理を載せている所だった。そこに現れた拳児達を見てノリシラが微笑む。
「あ、上がったんですね!じゃあお弟子さん達お風呂入ってきてください!」
「ういーっす」
ノリシラの指示で手伝いをしていた弟子3人が拳児達と入れ替わりで風呂に向かい、そこに追加で女性陣達がやってくる。女性陣はテーブルの上に並べられた肉と魚、そしてフルーツに喜びの声を上げた。
「疲れた時に甘い物は助かるわぁ」
「だと思って多めに用意してますから!いっぱい食べて下さいね!」
山盛りのフルーツに笑顔を浮かべた恵の言葉にノリシラが応じて女性陣が更に笑顔になる。そうして全員が席に座り、弟子達も風呂から上がって着席した所で、ガティがエールの注がれた木のジョッキを持ち上げて口を開く。
「色々言いてぇ事はあるが、とりあえず、みんな生き残って良かった、乾杯」
「乾杯」
ガティがしみじみと、感慨深そうに言うと一緒にダンジョンに潜った全員で疲れた笑顔を見せてからジョッキを掲げ、エールを飲んでプハーと声を出す。その様子を見てノリシラが不思議そうな表情を浮かべた。
「あの、何かあったんですか?随分お疲れみたいですけど」
「色々あってなぁ。なんつーか、割と本気で死んでもおかしくない状況になったんだわ」
「詳しく教えて下さい!なんか楽しそうです!」
興味深そうに問いかけてくるノリシラの言葉に、ガティは苦笑を浮かべながらダンジョンに潜る前から始まった色々な事をゆっくりと語り始めるのであった。




