【第26閑】 「剣で岩をバターのように切る」を斬る! 後編
ジョジョ以前に創作で、"like a hot knife through butter"が用いられた例として、筆者が唯一見つけたものがある。
「ターミネーター」と並ぶアーノルド・シュワルツェネッガーの出世作たる、主演映画「コマンドー」の作中において、"Slitting a little girl's throat is like cutting warm butter"(翻訳『小娘の喉を切るのは、温かいバターを切るようだぜ』)というセリフがあり、これは元の慣用句を踏まえた上でのセリフであろう。
つまりこの場合、「バターナイフを熱するまでもなく、溶けたバターのように柔らかいから切るのは容易い」といった感じの意味になるのだろうか。
話は変わるが――「その意味するところを西洋人であれば、誰もが正しく理解出来ている」と前編で書いたが、実は必ずしもそうではないらしい……と言うような、ちょっと面白い事例を見つけた。
Where does the expression "hot knife through butter" come from?
Where does it come from and what exactly does it mean? I was thinking about it and it seems to me that "knife through HOT butter" would make more sense. If ease is implied with the original expression, the new expression would imply even greater ease- hot butter is basically liquid!
これは質問サイトのYahoo!知恵袋の英語版にあった質問である。
意訳すると――「 "hot knife through butter"ってなんなのさ? 暖めたバターってドロドロの液体じゃね? そこにナイフ? それ全然意味わかんねーし!」……といったところか。
つまりこれ、元の慣用句の単語を削り過ぎたせいで意味を曲解してしまい、分からないと質問しているものらしい。
でその質問に対するベストアンサーがこちら――
Best Answer: The expression comes from the relative ease of using a hot knife to cut butter as opposed to a cold knife through butter. Yes, the other way would make some sense, but it would be difficult to control liquid butter using only a knife.
これを意訳すると――「それちゃうねん。ドロドロに溶けたバターにナイフを刺すっていう意味やあらへん。暖めたバターナイフで硬いバターを切るっていう意味の慣用句なんやで」……みたいな感じの当たり障りのない回答でして。
さて斯様な盛大な勘違いは論外としても――バターで『剣で岩をバターのように切る』みたいな状態を実現するには、バターナイフを暖めるか、バターをある程度の時間を掛けて、常温に晒して柔らかくしないといけない訳だが……そのどちらも不要な方法が一つだけある。
それはずばり、マーガリンだ――バターとの違いや製造法については割愛するが、そもそもマーガリンはバター不足を補う為に発明された、バターの代用品である。
冷蔵庫に入れた低温下のマーガリンは、そのままでもバターより柔らかい。また常温に5分ほど晒しておけば十分に柔らかくなるので、簡単に『滑らかに』切れることだろう。そうマーガリンであれば、だ……。
近年バターの価格が高騰しているせいで、皆さんのご家庭の冷蔵庫に入っているのはバターではなくマーガリン……という方も多いかもしれない。
であればこのマーガリンばかりに触れ、その柔らかさを見て『剣で岩をバターのように切る』という表現を何も考えずに書いてしまっている人も、ひょっとしたら中にはいるのかも知れないとか思ってみたり……。
まあそんな訳で、『暖めたバターナイフでバターを切る』というスタイルが一般的ではない(と思われる)日本においては、『剣で岩をバターのように切る』と書くのはかなり紛らわしいので、ここは『剣で岩をマーガリンのように切る』とするのが、実は正解なのではないかと(笑)
ま、そんな冗談は置いておいて……『暖めたバターナイフでバターを切る』という習慣が日本で定着していないのは、我が国では西洋に比べてバターが高価であり、マーガリンのシェア率が高いこと。
また前編でも書いたように、日本で食パンを食べる習慣が一般化したのが戦後だったこと……そういった事情が関係しているのかも?
……ってことで、これまで説明した理由により『剣で岩を容易く切る』という表現に関して、安易に『バターのように切る』と書くべきではないと思いますし、そこはもうちょっと違った表現で工夫すべきではないかと思う次第。
或いは「炎を纏った剣で以て、岩をバターのように切る」とかであれば、まだ意味が通じるのかも知れないが……。
なおジョジョ以前に、日本の創作の世界でこの表現を使った作品を知っているよ、という方がいれば筆者にこっそり教えて下さい。
最後に――漫画やアニメなどの日本の創作の世界において、強キャラのサムライが振るう日本刀でスパスパと人やモノを斬るという表現……これってどう考えても、「ルパン三世」の石川五エ門の斬鉄剣からの影響だろう。
今更言うまでもなく現実の日本刀や居合の剣術で、あんな風に鮮やかに鉄板とか斬れたりしません。いやでも、カッコイイから真似したくなる気持ちも分かりますし、多分筆者が書く小説でもやると思う……つまり、斬鉄剣は偉大なりってことにして、もうこれ以上は何も言うまい。
因みに「斬鉄剣はコンニャクを切れない」という有名なトリビアがあるが、あれは第2シリーズ(通称「新・ルパン」)の一話限りのネタであり、一貫した公式設定ではないので勘違いしてはいけない。
……以上。今回のお題もいつもどおり「またつまらぬモノを切ってしまった」ってことで、おあとがよろしいようで。
蛇足――ちょっと昔話をしよう。
平成も終わりが近づき、遠くなりけり昭和時代。あの頃、クリスマスや誕生日に食べたデコレーションケーキは、激マズいやゲロマズだった。それこそ猫……もとい子供も跨ぐほど不味い、と言われるほどに、だ。
昔は生クリームが高価だった為、代用品としてバタークリームがもっぱらケーキに使われていたのであるが……そもそもこのバタークリーム、今でも洋菓子などにも使われているが普通に美味しいハズだ。
だが昔、デコレーションケーキに使われたバタークリームは檄マズだったのである。それは何故かと言えば、実は昔のバタークリームは紛いモノであり、原料がバターではなくショートニングだったからである。
ショートニングの製法の詳細は省くが、詳しく知りたい人はWikipediaを見て頂くとして……このショートニング、マーガリンの製造工程で出来た副産物であり、簡単に言えば脂肪分の塊である。
因みに駄菓子のヨーグルの主原料は、ショートニングだったりもします。
つまり昔は生クリームどころかバターも高価だった為、安価なショートニングで代用して不味いバタークリームを作っていたという次第でして。
あとショートニングで作られたバタークリームケーキは、冷蔵庫で数日間の保存が出来るというメリットもあったのだが、そもそもクソ不味い為に数回に分けないと食べ尽くせなかっただけだったり……。
後年――これは確か昭和の終わり頃だったと思うが……生クリームをつかったショートケーキを筆者が人生で初めて食べた時、「ケーキって美味しいんだ」と感激したことを覚えている。
ああ、懐かしやあの忌まわしき思い出の激マズなバタークリームケーキ……でもあれをもう一度食べたいかと問われれば、答えは否である(笑)
件の質問の出展元はこちら。
https://answers.yahoo.com/question/index?qid=20090706195720AAkuaWG




