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22 会戦 1

 ◆◇◆◇◆◇


 《連合軍野戦陣地/クララ・シャンセオン》


「よーし、こんなもんだろ。土嚢どのうで補強しといてくれ!

 お前ら、次行くよ!」


「はッ、整列! 前進!」 

 アイアンゴーレム……、いえ、マキナ装甲機兵が列を組み、歩いていくのを眺めている。


「「「……」」」 

 シャンセオン・マフラル・アスワムの指揮官達はポカーンとして、もはやただ立っているのが精一杯でした。


 ・

 ・

 ・


 各宮に集結時に持ってきて欲しいものがあると要請された際、財務担当者はいかほどの資材や資金を要求されるのかと身構えていましたが、要請された物は麻袋かそれに類する丈夫な袋であり、安堵していたものです。


 そして安堵しながらも、なぜに袋なのか? と疑問に思うと共に、要請された枚数に驚愕していました……。なんとその数、最低でも五千袋。

 しかも一定以上の大きさの指定がされており、膨らました際に最低でも人の胴回りほどはあるようにとの事なのです。

 こんなものを何故持って来いというのかと首をかしげていたのですが、これで用途がわかりました。

 陣地構築用の資材として、『土嚢』というものを作るために用いるのです。


 ベルザル領侵攻のための進軍中に、ここに野戦陣地を構築すると説明された際には、各宮の指揮官達は怪訝な表情を浮かべて周囲を見回してしまいました。


 ここは多少の起伏があるとはいえ平原地帯なのです。

 そんな平原のど真ん中に『陣地を構築する』という事も不可解でしたが、陣地を構築しようにも周囲には資材となる森林がないのです。

 確かに近くに川はありますが、その川は浅い。

 飲料水になるのはありがたいのですが、とても堀の代用にはなりません。


 平野部に布陣することは騎兵の展開には有利でしょうが、野戦であるならば本来丘陵の頂上部や山などに陣をおいて高低差により見通しを確保し、兵の采配をしやすくするものだと思うのですが……。


 最初は、「このような平野部に陣を構築する? そのための資材を持って来ていない上に、調達しようにも無いではないか! 馬鹿にしているのか!」と指揮官全員で詰め寄ったのですが、イザヨイ宮の面々は逆に不思議そうにしているのです。

 そして説明していない事に気がついたのか、土嚢というものを説明してくれたのです。

 だが、これは正直説明というほどのものでもないでしょう。

 なにせ、ただ単に袋に土を詰めて縛って積み上げるだけなのです。

 このあまりにも、単純すぎる仕組みに不安を覚えてしまったのは仕方がないとおもうのです。


 事実、皆が不安な表情を浮かべていたのですから……。


 そこで、土嚢の堅牢性を実証するために、土嚢を互い違いに積み上げただけの二重壁を構築して公開試験を行ったのですが、あまりにも頑強なので驚いてしまいました。


 まずは弓で至近距離から射掛けたのですが、貫通はしません。

 次に、剣で斬りつけても土がこぼれるだけ。

 槍で突きをいれても、投げつけても貫通はしません。

 ならばと、騎兵に槍で突撃させてみたのですが無駄でした。

 ここで、マフラル殿がムキになって魔術師を呼び寄せ、攻撃魔法の火球で撃ってみても衝撃で多少形が崩れるだけ。

 たとえ炎上したとしても元が土塊なので、崩壊するという事もないのです。


 あまりの頑強さに、これはシャンセオンでも採用しようと密かに考えていたのですが、チラリとマフラル殿とアスワム殿を見やると、あちらもこちらをチラリと見て慌てて視線をはずしていました……。

 どうやら、考える事は同じようです。


 しかし、これはなんというか発想の転換の勝利と言うべきなのでしょうか……。

 資材が土と袋だけいうのが、あまりにも斬新というべきなのでしょうか……。

 土ゆえに周囲には無尽蔵にあり、ただ積み上げているだけなので撤去も補修も容易であることは明白なのです。

 欠点らしい欠点がないのが、素晴らしい!


 そんなことを考えていると……、


「クララ様、そこにおられては危険でございます」

 お付の副官が私の腕を引っ張りながら、注意してくれました。


 土嚢を作るのに何の危険があるのか? と、ふと我に返って周りを見ると……、アイアンゴーレムの集団が一斉に土を掘り始め、スケルトンたちが排出された土を詰めて土嚢を製作するという異様な光景が、眼に入ってきました。


 土を掘れば、そこに穴が出来る。……まさに必然といえるでしょう。

 ならばアイアンゴーレムが並んで土を掘れば、堀が出来るのもまた必然といえるでしょう……。


 ・

 ・

 ・


「よーし、こんなもんだろ。土嚢で補強しといてくれ! お前ら、次行くよ!」


「はッ、整列! 前進!」

 マキナ装甲機兵が列を組み、歩いていくのを見送る。


 そして周囲を見回せば『 ――――――〕▲〔―――――― 』の形状で、中央に陸橋がある堀が出来上がり、陣地内の堀の辺側には土塁と土嚢で防壁が作られています。

 陸橋の内側開口部には、マキナ装甲機兵が持っていたタワーシールドがまるで門のように立てられており、開閉自体はマキナ装甲機兵が行っているのです。

 また破られそうになった場合は、陸橋に土嚢を大量に投げ込み閉鎖するとのことでした。

 そして陸橋の外側開口部には、これまた土塊と土嚢が▲【三角錐】状に積まれており、破城槌が設置できないようになっているのです。


 そんなことを考えている間にも、遠くでまたもや堀ができたのでしょう。

 マキナ装甲機兵が隊列を組んで移動していくのが見えます。 

 どうやら、この陣地の全体形状は大規模な四角形状になっており、そして各辺に門が作られるようです……。


 ……思うのですがこれは陣地ではなく、もはや砦なのではないでしょうか?


 アスワム宮領内の大蟻との前線で、三つの砦が短期間に構築されたと聞いたときは、『何を大げさな事を言っているのか』と呆れ返っていましたが、これを観ては信じざるを得なくなりました。



 ◆◇◆◇◆◇



《ベルザル大公国 ラルキ城塞郊外 侵攻軍軍中》


 篭城策か持久戦が一番の上策にもかかわらず、落城という最悪の結果をもたらしかねない。

 入城せずに郊外で待つという手もあるが、ダンジョンの軍勢が三日の距離で行軍を停止し陣地構築に入ったという報せがあった。

 そのため、増援を待つための時間稼ぎの策すら取れなくなってしまったのだ。


 待ち続ければその陣地はより堅固になり、恒久的に設置されようものなら周辺の通商交易路を抑えられる恐れがあり、さらには開拓にも支障をきたす可能性がある。

 そして、自分達が侵攻する予定の相手から逆に侵攻され、至近距離に陣地を構築されるのを黙って見過ごすというのは、なによりも士気に響くことだろう……。


 しかも伯爵が自分の配下の近隣諸侯に、自分と共に出陣して「狩」をしないかと持ちかけ、近年の度重なる出征と開拓で資金繰りが厳しくなってきた諸侯が派兵して来たのだ。

 その数、中小の八諸侯合わせて総勢一千。


 数だけみればたしかに立派ではあるが、その実は年少兵や老兵が多く、壮年の兵達が少ないのが見て取れる。

 徴兵と相次ぐ戦による戦死や戦傷で、労働人口としての壮年層が減り始め、年齢層が歪いびつになっているのだ。

 そこでダンジョン勢に攻撃を仕掛けて、奴隷を獲得し労働力として充当しようとする考えであることは容易にわかるのだが、これは戦争であって断じて「狩」なのではないのだ。


 この馳せ参じた諸侯達は、ただ黙って仕留められるのを待つ獲物が来たとでも思っているのだろうか。

 相手は獲物ではなく武装している「軍勢」であり、反撃されて自分達が戦死するかもしれないという考えは、全く考えていないようなのだ。


 この浮ついた雰囲気では、城外で待機し迎え撃つなどは、もはや論外になってしまった。

 加えて軍議での諸公勢の言い分といえば「ただただ即時攻撃あるのみ!」という考えが、最初から決定されている始末。

 軍の指揮権は軍将にあると主張すれば、ならば物資の管理・補給はラルキ伯爵にあると強く主張し、これに賛同するように諸侯に伯爵が無言の圧力を掛ける。


 諸侯達も奴隷も欲しさに同調し始めて、最後には侵攻軍内でも戦うならば早く出陣をするべきだ! と言い募られてしまい、軍議は『即時攻撃』に決してしまう。

 即時攻撃に決したからと言って、そのまま即時出陣できる訳ではない。

 なんとか物資を用意するという名目で出陣を一日ひき延ばすが、それが精一杯だった。 

 結果的に野戦という事になったのだが、伯爵の命令無視の独断専行という不安要因が内包されている。


 どうすればよいのか? と行軍中に考えこんでいたのだが、ある良案を思いついた。


 対峙するだけで、本格的に戦端を開かなければよいのだ。

 小競り合いを繰り返すのだ。

 そうすれば、増援が到着するまでの時間稼ぎにはなるだろう。

 

 また野戦という事になれば、指揮権は軍将たる私にある。

 伯爵も軍将の指揮下に入る事を、了承はしている。

 内心どう思っているかは、わからないが……。


 まずは交渉をおこない、次に軽く一当てしてみる。

 そして、その際に伯爵が命令無視の行動を行えば、それを理由に処断する。

 もしくは、戦闘中の不慮の事故(・・・・・)で戦死してもらうのも、良いかもしれない……。


 なにせ戦闘中なのだ。

 偶然・・に後方からの流れ矢に当たる事や、戦場に不慣れゆえになぜか(・・・)軍馬から落馬してたまたま(・・・・)首を折ってしまわれるかもしれない。

 もしくは戦傷が元で、どういう訳か(・・・・・・)急病などを患われ、あえなく落命されてしまうかもしれない……。


 戦闘中のことゆえ、何が起こるかわからない……。

 案外、本当に戦死なされるかもしれない……。


 伯爵家にとっても、周辺諸侯にとっても、ラルキにとっても、軍にとっても、そしてベルザル大公国にとっても伯爵が自然に戦死してくれるのが、一番よい結果を生むのではないだろうか。


 ……伯爵当人にとっては、とても不運かもしれないが、それは『武運拙【つたな】きゆえの討ち死』と諦めてもらうしかない。


 そんな昏【くら】い考えに浸っていると、敵陣が見えてきた。


「前方に、敵陣! 数、約一万四千! 距離――」

 そんな報告を聞きながら、愕然としていた。


 ここまで会議と準備で一日、行軍で三日しか掛かっていないにも関わらず、砦が出来上がっているのだッ! 


 斥候の報告では『陣地』ではなかったか!?


 周囲を堀で囲み、薄い茶褐色の城壁らしきもので囲われている。

 そして周辺をアイアンゴーレムが動き回っているのが、遠目にも判る。

 更には斥候だろうか? 砦周辺から急いで戻ってくる騎兵などが、砦内に慌しく入って行くのが見えた。


 これはマズイぞ……。

 こちらは、大型の攻城兵器は伴っていない。

 まともにぶつかれば、兵の損耗は増大するだろう。

 やはり、ただ対峙して時間を稼ぐのが上策だ……。


「伯爵閣下より伝令! 先鋒として伯爵指揮の下、諸侯軍が『戦の何たるかを軍に教示する』とのこと!」


「なんだと!?」

 あまりにも馬鹿げた伝令に、思わず馬上から落ちそうになる。


「先鋒隊たる伯爵軍及び諸侯軍が、前進を開始しております!」


「やめさせ――」


「伝令! 先鋒隊、交戦を開始! 歩兵隊は盾を押し立てて漸進しております。また我が軍の弓兵による援護射撃が開始されております。ですが、敵弓兵の射程が長く劣勢! 歩兵隊の更なる進出のために、本軍による支援を求めています!」


「馬鹿が! 戦闘序列【戦力編成に伴う指揮統率・命令系統の確立とその優劣】も理解できずに突出したあげく、何が支援だ!?」



 ◆◇◆◇◆◇



《連合軍野戦陣地/クララ・シャンセオン》


 私は、敵影が見えたとの報告を弓兵指揮所で受け、土塁と土嚢で作られた防壁の近くに構築された物見櫓【ものみやぐら】の上に登るべく走り出したのですが……、


「クララ様! クララ様! あれを!?」

 マメルが陣地中央部に位置する本営のかなり上を指差しながら、私に追いつかんと走ってくる。


「あれはなにッ?! 旗? 随分と大きわね。意味はッ?」

 立ち止まり、翩翻と翻る【《へんぽん》と《ひるがえ》る/旗などが風で、はためく】大旗を見やりながらマメルに問いただす。


「お待ちください……。えー~、これは!?」 

 マメルが事前に渡された旗旒【きりゅう】信号簿のページを捲りながら、はためく本営の旗と見比べ、そして絶句している。


「寄越しなさい! まったく、たかが旗で……」

 旗旒信号簿を渡されて、該当のページを見ると、


 ――『我ラノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ』――


 辺りでは各隊の中級指揮官から伝わったのか、鬨ときの声があがり始め、次第に大きく唱和されていく。

 そして私もいつの間にか、鬨の声を皆と共に上げていた。

 スケルトン達でさえ心なしか動きが機敏になり、戦意が上っている様に見えるのは気のせいなのかしら……。


 ・

 ・

 ・


「マメル、あれは何の真似なのかしら? 軍使にしては大勢ね?」

 物見櫓に登り、遠くに見えている集団が徐々に接近してくるのを眺めている。


「クララ様。僭越ながら開戦前に軍使を立てて交渉を行うのは人間同士の戦、乃至は国同士での習わしではありますが、その……我らは人間ではありませんので……」

 苦い表情を浮かべてマメルが応える。


「あー~、そういうことなの……。人間同士の戦ではないから、いきなり打ちかかって来るというわけね。加えて、我らは国ですらないという認識なのね。なるほど、そういうことだったの。いままでの各宮に対する行動や、交渉のための使者が来ないことが不思議だったのだけど、これでわかったわ……。さすがの私でも、毛無し猿(・・・・)の考える事は理解できないということが! あのような傍若無人【ぼうじゃくぶじん/身勝手な振る舞い】な毛無し猿(・・・・)の手にかかって、お兄様は戦死なされたのね!」


「クララ様……」

 彼我の距離を測るために、白く塗られた置石と陣地に平行して百メルトルごとに浅く掘られた数条の溝に、無造作に接近してくる敵集団を見やる。


「ふん。あいつ等、もう勝った気でいるようね? 

 いいでしょう。

 では、この私が戦争というものが何たるかを、教育してさしあげましょう!」


 無造作に接近してくる敵集団を見やりながら、各弓隊に指示を出し攻撃開始の命を飛ばすために、通信兵が背負っているイザヨイ宮から貸し出された短距離無線通話装置Ⅲ改型【短距離魔力送受信通信装置Ⅲ改型から機密保護のため名称変更】に手を伸ばす。


「『魔術士隊、「風の加護」と「送風陣」を弓兵隊にかけ、射程を延ばせ!

 そののち接近してくる敵兵を警戒!


 弓兵隊、射撃準備。

 攻撃指向、正面の敵集団!

 規定線四百にて射撃を開始する。

 五斉射ののち、各個自由射撃に移れ! 


 この長距離で狙おうなどと思うな、散布界を形成すれば良い!

 まだよ……まだ……。

 用意! 撃ちィィ方……始めッ!』」  

 

お読み頂きありがとうございました。

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