21 戦火への序曲
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《イザヨイ宮領 領域境界線付近》
「全軍前進!」
号令と共に各隊が前進を開始する。
イザヨイ宮と各宮の連合軍が前進し、中立無人地帯へと行軍を開始。
最短でベルザル大公国領内への道程を進んでいく。
四日後には、大公国領内への直接侵攻を開始することになる。
この作戦の『目的』と『目標』を一致させるために、何度も事前の軍議がもたれていた。
『目的』は、
ベルザル領内で集結中の敵兵力に打撃を与え、各宮への侵攻を断念させること。
『作戦目標』は、
第1目標:集結中の敵兵力の撃滅。
第2目標:可能であればベルザル領の要衝地である『ラルキ市城塞の攻略』。
に決まった。
イザヨイ宮を含めた各宮開闢【かいびゃく】後、初めての大規模侵攻作戦に参加する正面兵力は、総勢約一万四千が集結。
その内訳と言えば
◆《イザヨイ宮》 約一万一千 指揮官/十六夜 凛
・スケルトン歩兵隊/約七千
・スケルトン騎兵隊/約八百
・スケルトン弓隊/約五百
・志願兵大隊/約一千二百
・偵察情報隊/約三百三十
・整備隊/約二七〇 【整備用マキナ五機含む】
・マキナ装甲機兵一個連隊 【一〇九機及び随伴歩兵隊約九百】
【マキナ装甲機兵連隊正規編成】(増産に伴い定数充足/正規編成へと増強改組)
・一個大隊三四機【大隊長機含め三一機と大隊付一個小隊三機編成】×三個大隊
・連隊長機一機と連隊付二個小隊六機(現編成では第一大隊長が連隊長を兼任する一機は予備機扱いとなる)
◆ 《シャンセオン宮》 約一千八百 指揮官/クララ・シャンセオン
・獣戦士隊/九百
・獣騎兵隊/一百
・弓兵隊/二百
・魔術士隊/一百
・獣操術士・剣歯虎【サーベルタイガー】隊/五百
◆ 《マフラル宮》 約九百 指揮官/ザムル・マフラル
・獣戦士隊/三百
・獣騎兵隊/一百
・弓兵隊/一百
・魔術士隊/五十
・獣操術士・大狼【ダイア・ウルフ】隊/三百
同 ・黒尾狐【ナイト・フォックス】隊/五十
◆《アスワム宮》 約五百七十 指揮官/ルイム・アスワム
・獣戦士隊/三百
・弓隊/一百
・魔術士隊/七十
・獣操術士・大蠍【ジャイアント・スコーピオン】隊/一百
各宮特有の獣操術士とマキナ装甲機兵隊などを除く従来の正面戦力の合計でいえば、
歩兵・戦士/約八千五百
騎兵/約一千
弓隊/約九百
魔術士/約二百二十
このほかに、補給を担当する輜重隊と護衛隊が付き従っていた。
この準備のための四カ月間で、できうる限りの準備を行う。
ゴブリン勢力の帰順を受け入れ、武具を供給することで大蟻との戦いに参加してもらう事になった。
もともと、いま大蟻のいる地域はゴルリン達の領域であったが、大蟻の数とその甲殻に阻まれ劣勢に陥り敗北、その地を失って放浪を余儀なくされたしまったようだ。
当初、アスワム宮・マフラル宮はゴブリンたちがイザヨイ宮に帰順する事に難色を示していたが、マフラル宮領内の占領地を返還する事、及びアスワム宮領内の大蟻の撃破で合意した。
さすがに旧ゴブリン全域を奪還する事は時間的に無理なので、アスワム領内にいる前衛の大蟻をマキナで撃破後、砦を築いて防御に徹する事にした。
その砦建設にもマキナは活用され、性能を遺憾なく発揮し短期間で砦を三つ構築。
ゴブリンの軍勢とアスワムの部隊が、各々駐屯する事になる。
ゴブリンたちはいまはイザヨイ宮の領内で暮らしているのだが、食糧事情の改善と領内での安全な暮らしからか、ゴブリンの総数が増え始めている。
イザヨイ宮にも、魔力の供給がなされる事になるので相互に益が出ている状態なのだ。
しかし領内での暮らしは一時的なもので、大蟻との戦いで失ったかつての住処の奪還を目指し訓練に励む者も多い。
そして、ベルザルとの戦いの趨勢を決めるであろうマキナ装甲機兵は、第三次生産分までが配備されている。
現在も、なお生産が継続されており順次イザヨイ宮の防衛、領内警備と補給線の警護につく事になる。
生産性を上げる為に、現在は一機種のみの生産であり、また装甲形状も全て同じにする事で整備性向上と補給面が考慮されている。
第一次生産分の二十機については、整備時や損傷時に順次改修がなされていく事になっている。
また、操縦士訓練課程はノリス中心に組み上げられた。
肝心の操縦士達は、最初は機体の大きさと操縦感覚のズレに困惑していたが、猛訓練でなんとか形にはなったと、ノリスは言っている。
この操縦士達は全員が志願制となっていたのだが、あまりにも応募者が多数に上り選抜過程が急遽設定され、篩ふるいに掛けられる事になった。
当然ながら、訓練時間が長くは取れない事から従軍経験・実戦経験があるものが優先される事になる。
ノリスは、この訓練課程での操縦士の育成こそが必要不可欠であり、継続的に育成していく事こそが肝要であると力説している。
そのため、イザヨイ宮の外に訓練場を設置する事を熱望していた。
その願いをかなえるためにも、この戦に勝利しなければならない。
出戦【でいくさ】となるため各宮に参陣を要請した際、やはり最初は猛反対であった。
だが、もはやベルザルとの対立は不可避であり、受動的防御のみでは短期的には耐えられても長期的には耐えられずに『衰亡は必至である』と説明し、出兵に同意を取り付けたのだ。
このときに各種の情報と情勢分析が示され、現実であると納得した各宮は必要最小限の防衛戦力を残し、最大限の兵力を投入している。
『負けられない』と判ったのだろう。
余談だが、このとき初めてイザヨイ宮の情報収集能力と分析能力が示され、『各宮の宮主とその首脳陣は眼を白黒させていた』とハンゾウさんが教えてくれた。
部下達が『その動揺している様子を情報収集してきたのだ』と笑いながら言っていたのが印象的だ。
部隊編成で、各宮の混成部隊を創設するか議論になったが、訓練時間が満足に取れ無い事から、今回は見送られる事になった。
現在は各宮の編成に準じているが、総指揮権についてはイザヨイ宮が掌握する事になっている。
ただ各宮にも配慮した結果、各宮の指揮官が各々に兵種毎に大まかに管掌する事になった。各宮の指揮官は各部隊指揮官としても配置されることになる。
陣容としては以下の通りである。
・連合軍総大将/十六夜 凛
・連合軍副将/ノリス
/クララ・シャンセオン
/ルイム・アスワム
/ザムル・マフラル
・騎兵隊総監/ザムル・マフラル
・戦士隊総監/ルイム・アスワム
・弓兵および魔術士隊総監/クララ・シャンセオン
因みにマキナ装甲機兵については、集結地点で各陣営に披露されてはいるが、あまり関心が無いのか大半が「大きいですね」の一言で終わっていた。
おそらく、アイアンゴーレムの一種と考えているのだろう。
それでも、関心を持つものも若干はいるのだが、話を聞いても半信半疑という表情を浮かべていた。
軍議の時間が優先されるので、こちらも詳しく説明したり模擬戦でその性能を示したりする猶予もない。
いきなり、ぶっつけ本番でその性能を示す事になる。
そして、そのぶっつけ本番の作戦名が、軍議で決まった。
――「夜明けの明星」作戦――
軍議で、リリムルさんが提案し「夜明けの明星」の意味を説明したら満場一致で決まった。
その際リリムルさんが、俺に向けて軽くウィンクしてきた。
この戦は、負けられない!
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《ベルザル大公国 ラルキ城塞伯爵執務室》
「なんだと! 敵?!」
「はッ! 《イザヨイ宮》へと向かっていた冒険者どもが発見したとの事です。その数一万以上との事ですが、これは真偽があやふやです」
「……そいつらは、どこの軍勢だ?」
「所属は不明ですが、行軍の経路から逆算するにダンジョンの軍勢かと」
「なに!? ダンジョンの軍勢?
……ふ、ふはは……あ~ははは! 奴等は間抜けだ! これは好機だぞ!
大人しく震えながら防衛に徹していれば良いものを、のこのこと穴倉から出てくるとはな!
よし、我らも全軍で打って出るぞ!侵攻軍に合流するのは癪しゃくだが、ちょうど良い。
軍の馬鹿どもに、貴族の戦いというものを見せてやるのだ! 準備せい!」
「全軍ですか? それでは少数の警備しか残らない事になります。ラルキは物資集積と補給を司る重要拠点ですが……」
「馬鹿者! ここでダンジョンの軍勢を打ち破れば、もはや勝ったも同然ではないか! 所詮は石と骨と獣。なにを恐れる事があるか! ふはは、そうだ石と骨と獣。これは戦ではない、狩りだ。もう勝っているといっていいだろう! これは愉快! あ~ははは」
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《ベルザル大公国ラルキ市郊外 侵攻軍集結地点 司令部幕営》
「なんだと! 軍勢?!」
いきなりの副官の報告に、思わず声を上げてしまう。
「はッ! 《イザヨイ宮》へと向かっていた冒険者が発見。その数一万以上との事です」
「その冒険者は、まだラルキにいるのか?」
「はい。ラルキに一報を届けた後、ラルキより離れるため旅装を調えているところを見つけ、事情を聞くため駐屯地へと連れて参りました。外で待たせてあります」
「ふむ。では、その冒険者をここへ連れてくるのだ」
「はッ! おい、冒険者を中に通せ!」
・
・
・
「では、ダンジョン方面からの行軍。そして一万以上で間違いないのだな?」
「ああ。あ、はい閣下。丘陵を登ったところで見かけた……ました。遠目だったので、ちょうど見下ろす形になったので間違いないと思う……ます。遭遇した地点は中立地の中間よりイザヨイ側だ。それから数だが、もしかしたら一万五千はいたかも知れません。じっくり見て観察する暇が無かったが、間違いなく軍勢だ……です」
「普段通りの口調で良い。編成がわかるか? それと斥候は出ていたのか?」
ただの演習や移動なのかもしれないが、斥候を出しながらべルザル方面に移動しているとすれば、明らかに侵攻の意思があるだろう。
「感謝します、閣下。え~、編成か? 骨が多かったから、あれはイザヨイの軍勢が中核かも知れんな。それとサソリもいた。サソリがいるって事はアスワムもいるって事だろう。おそらく、シャンセオンとマフラルの軍勢もいる筈だ。
それと斥候だが、出していたな。俺のほうにも来たので慌てて離れたんだ。じっくり見て観察する暇が無かったのは、そのためだ。すまん。
だが、見た感じかなり統制が取れている感じだった。整然と行軍していた印象だな。
それと、かなりの数のアイアンゴーレムがいた。遠征にアイアンゴーレムを連れてくるのが妙に思えてな、よく覚えている」
「アイアンゴーレム? 遠征にか? 数はわかるか?」
「そうだな、五十はいたような気がしたな。おれもこれは変だと思って、急いで帰ってきたんだ。
そんで領主様のところに報告したんだが、あまり信じている様子じゃなかったな。ま、あの領主様じゃな……。そんで、悪いがこの町を一旦離れようと思ってな」
「そうか、軍に残らんか? 歓迎するぞ?」
「すまん、遠慮しておく。
だが、何か変だ。いままで防衛に徹していたダンジョンが、一転して遠征してくるなんてな……。
こいつは冒険者の勘だがマズイ気がする。この勘には随分助けられているんでな。今回も従うことにするよ。
そうそう、あの領主様な、打って出るつもりだぞ。領軍全軍に出動命令を出すつもりなのか、大層息巻いているそうだ。
そんなわけで、冒険者に従軍命令を出されるとマズイ事になるとみて、急いでこの町を離れようとした訳なんだが、なぜか運悪くここにいるという訳だ」
「情報に感謝する。旅の準備は、もう終わっているのか? ……そうか。これは情報の礼金だ。もって行け」
退出する冒険者を見ながら、斥候を出す命令を副官に下す。
まずは相手方がどこにいるのかを探さねばならないが、冒険者が戻ってくるのにかかった日数も考慮しておかねばならない。
時間の猶予はないかも知れんな……。
警戒態勢を強化し、いつでも出陣できるようにしておくほうがいいだろう。
「閣下。領主殿と会談を行い協議したほうが良いかもしれません」
副官が進言してくるが、その眼は憐憫の色をたたえている。
おそらく、侵攻軍が宿営する際に挨拶にいった際の事を思い出しているのだろう……。あれほどの見下げた領主がいたことに、瞠目した事を覚えている。
なにせ、大公閣下肝いりの侵攻作戦に参加するために移動してきた軍勢から、入市税を徴収しようとした御仁だ。
……あれほどの頭痛を覚えた事は、長い軍歴でも無かった……。
「……ああ。しかたないか……」
気が重いが仕方ないとあきらめ、できるだけ遅い足取りで領主館へと向かった。
・
・
・
あの馬鹿領主、こんどは侵攻軍に合流するから指揮権を寄こせといってきたが、明確に拒絶してやった。
なにが「本当の戦い方を教えてやる」だッ!?
このラルキは重要拠点であり、補給物資が集積されている。そして、これからも更に物資が送られてくるのだ。
その物資集積場の防衛という大任を領軍に任せたいのだと何回言っても、迎撃に参陣すると言い張る。
こちらが領軍の参陣を渋ると、領軍の指揮権は領主にあるのだから声高に唱えて単独で迎撃に出ようとし、最後には領主の統治権云々まで言い出して、参陣を認めないと補給を拒絶するとまで言い出す始末。
このくだらない会談の間にも、ダンジョンの軍勢は迫ってきているというのに……。
仕方なく参陣を許しはしたが、今度は侵攻軍司令の指揮下に入る事を承諾させるのに時間がかかってしまった。
しかも、これとて内実は全く承諾していない様子が、ありありとわかる。
こいつ……隙あらば、命令を無視して単独行動を行う算段なのだと悟った。
領軍は、戦力として勘定に入れない方が良いかも知れん。
予測できないならば、最初から戦力として頼りにしなければ良いのだ。
そうなると、現有戦力は約八千。国境警備についていた精兵達だ。
幸いラルキには物資が集積されているので、装備類と補給面は充実している。
本来のダンジョン侵攻作戦に投入される兵力は約一万五千が予定されていた。
ここラルキに集結しているのは現状八千であり、残りの七千は現在移動中か訓練中の新兵。
そしてここは城塞都市なのだから、本来は篭城策か持久戦が上策なのだが、あの領主は危険だ。
篭城中でも持久戦の最中でも戦功に逸り、門を開けるなり単独行動で打って出ようとするかもしれない。
いや、するだろう、確実に……。
そして、多数のアイアンゴーレムがいるとの情報があるのも気になる。
確かに動きは鈍いが、その膂力は折り紙付きだ。
「アイアンゴーレムか……、ふむ? ……ま、まさか狙いはラルキ本城か!?」
攻城兵器たる破城槌代わりに、アイアンゴーレムを伴っていることに思い当たり驚愕してしまう。
その大きさや重さ故に持ち運ぶのに難儀する攻城兵器を、アイアンゴーレムで代替し自走させる事で、その欠点を克服するとは……。
そんなことを考えていると、
「報告! 敵部隊を発見しました!」
斥候部隊が戻ってきたようだ。
「いまどこだ!」
「すでに、国境を越えラルキ本城より四日の距離に迫っています。確認した地点は、『この地点』であります。またその数、一万四千ほどかと!」
地図のある地点を指差しながら、答えている。
「四日……一万四千」
斥候が戻ってくる時間を考慮しても、三日というところだろう。
その三日とて、通常の行軍速度で三日。急進すれば二日と掛かるまい。
そのうえに、一万四千!?
しかもこの地点という事は、周辺の町村等には立ち寄らずに、まっすぐ接近してきている。
「閣下! 一万四千ともなると、実質的戦力は我が軍と同等……。いや、これは我が軍は数的劣勢に陥っています。
ここはラルキ本城で篭城をし、大公閣下に増援を要請。そののち篭城勢と増援とでダンジョン勢を挟撃するのがよろしいかと」
「ぐッ?!」
あの領主のもとで篭城……だと?!
選択肢としては篭城が正解なのだろうが、その選択肢は取れない。
取ってはならないのだ。
急使が公都に達し、増援の部隊が編成され糧秣を初めとした物資を用意し、出発してラルキにたどり着くのに、最短でも十五日はかかるだろう。
幸いラルキには物資が溢れているので、篭城自体は問題ない。
だが、あの領主は……危険極まりない。
そして篭城策をとるとなると、ラルキの城壁を頼るために市内へと駐屯する事になるのだが、これが問題となる。
ラルキ伯爵領の城塞に入るという事は、ラルキ伯爵の指揮下に入るという事を意味しているからだ。
単に通過するために立ち寄るのではなく、篭城するためには市城内へと入るからだ。
これがグランとの国境地帯なら、なんら問題はないのだ。
グランとの国境地帯に接するところは大公の直轄地となっており、そこを軍に委任する軍管区となっているので、妙な横槍は入りようがない。
さらに、軍管区の後方に位置する貴族領に対しては、軍管区が軍の指揮に対して優越的指揮権を有すると明示されているのだ。
これは指揮権を単一で確立させて、別の指揮系統からの指示による混乱が発生しないようにするために設けられた。
ところが、ここラルキは各地の豪族・貴族が東進拡張政策により開拓するための前哨地点である。
そして物資集積場となる事を前提として、大公家に近い貴族が治める地となっているからだ。
有体【ありてい/率直に】に言ってしまえば、開拓資金を豪族・貴族に負担させ資金を浪費させるために、このような取り決めとなっている。先の入市税もこの絡みから設定されているのだ。
対してこの事はその地の優先的指揮権は、その地を収める大公家に近い貴族家にあることをも意味していた。
しかし、これには大前提が存在している。
つまり、ダンジョン方面から侵攻されないという大前提の下に立脚しているのだ。
ところが、いまその大前提が崩れてしまい機能不全に陥ってしまっている。
ダンジョン勢力からの侵攻という危急の時に、 指揮系統が二系統存在している事になるからだ。
ラルキ郊外に駐屯する侵攻軍の指揮権は、大公閣下からの指揮系統ということで軍司令官にある。
一方で、篭城のためにラルキに入城するとなると、ラルキに責任を持つラルキ伯爵に優先的指揮権が発生する事になる。
これは大公閣下も想定していない事態となっていることを、意味している。
しかも、本来の機能が後方支援となるラルキは、あまり篭城に向かない造りになっている。交易路を抑えるための城塞として造られているのだ。
そのため、武人気質の貴族よりも文人気質の貴族が治める地となっていた。
つまり、あの馬鹿領主だッ!
そうであるとはいえ野戦を行うとなると、領軍約二千三百は貴重な戦力となる。
集結している侵攻軍八千と合わせれば一万以上。
加えてこの八千は国境警備に就いていた精兵である事をも勘案すれば、なんとかダンジョン勢とも伍することも可能なのだろうが……。
……侵攻軍指揮下に入ることに同意した際に、浮かべていたあの含み笑い……。
さきほどは、『予測できないならば、最初から戦力として頼りにしなければ良い』等と考えていたが、こうなると予測できない故の危険性のほうが大きくなってしまい、逆に不安定要因でしかなくなってきた。
「斥候、戻りました! 最終確認地点は、ラルキより三日の地点。現在陣地構築中です!」
なに? ラルキの至近に陣地を構築?
……誘っているのか!?
こちらが打って出なければ、この地域を切り取り恒久的陣地を構築してラルキに圧力を加える。そしてこちらが打って出れば、野戦で戦を決するつもりか?
奴らとて、こちらの戦力は算定済みだろうに……。
このまま力押しで攻城戦を仕掛けると思ったのだが……不可解な……。
「は、伯爵! お待ちください! 伯爵!」
なんだ? 外が騒がしいが……。
「将軍! 奴等はこの『私』を恐れて、その歩みを止めたぞ!
いまこそ、進撃して戦いが何たるかを、あの石と骨と獣どもに教えてやるべきだ!」
威勢良く天幕に入ってきたラルキ伯爵を見て、言い知れぬ不安を覚えた……。
お読み頂きありがとうございました。




