第6話 部屋は電気をつけとこう!
「例の娘の件だが、連絡はあったか?」
「今は一切繋がっていない。おそらく交戦状態だ」
「全く。これだから日本の暗殺者は嫌いだ。所詮はチンピラ上がりか」
「荒くれ者はみんなゾンビになっちまうご時世だ。国は奴らを合法的に駆除出来て満足だろうよ」
暗闇の部屋に十数人ほどの男が集う。報告には苛立ちや落胆の声が多い。
「霧ヶ峰茜が群馬の拠点から脱走して三日。厄介なことに、公安の手先らしい『ゾンビ推薦生』とやらに保護されたとな」
「北関東ならまだ手を回せたが、所沢まで逃げられては末端の警官に指示を出す程度だ」
「構わんさ。いざとなれば、あの二世議員に尻拭いでもさせよう」
「計画は順調。例の薬が到着すればこの国は崩壊する。さすれば我々の支配も容易くなる」
「あの佐喰と言う女学生はマークしておけ。今後一番の脅威になるかもしれん」
「そうだよね~。やっぱウチって敵だとメンドいよねぇ」
「……は?」
音も気配も消していた『何か』が今、円卓の上にいる。
男達が闇に目を凝らして――佐喰莉子を知覚した。
「お邪魔♪」
悪魔の笑みを添え、闇で暗器が踊る。
「貴様ッ、どうしてこコ――」
携帯ナイフで喉を捌かれ、追い打ちの打撃で意識を刈られる。
悪党衆は暗い部屋で会議をしたばかりに、何も抵抗できず倒れていった。
「京都製良いねぇ~。耳かきで大きい垢取れたみたい」
「貴様、こんなっ、一方的な虐殺! ゾンビ推薦生だからって許されるのか!?」
「刃先に再生薬塗っといたから時間で治るよぉ。それに……」
莉子は入口のスイッチに投擲ナイフを放つ。
明かりが付くと、床には気絶した男達が転がっていた。
「もう、オジサン一人だけだから」
莉子の恐ろしさを彼は知っている。銃口の前に、欧米顔のブロンド男はそっと両手を上げた。
「……どうやって場所を割り出した」
「聞き出して来たー。みんなバイト代安いからすぐ口割ったよ~」
「チクショウ! 最低賃金の四倍時給じゃ足りなかったか!!」
「てか雰囲気出したいのは何となく伝わるけどさぁ……マフィアがレンタルの会議室で集まるの流石にダサくない? それも電気付けないで」
「うっせぇ、やってみたかったんだよ!!」
その幼稚な考えで首を絞めた彼らの滑稽さは莉子の腹筋を刺激した。
伸びているマフィアのほとんどが拳銃すら握れていなかったことが余計に笑いを誘う。
「だがどうする気だ? 俺達は会議をしてただけだ。何も証拠は――」
「さっきからヌコ生で配信してたよ? はい証拠」
『草、自滅ワロタ、お坊ちゃん議員オワタwwwwww、中二病のオッサンたちチィース、普通にコワーキングスペースにいて草、給料どんぐり族だろ』
「き、貴様ァァァァァァァァァァァァァ! なっ、オイ、とりあえずコメントの読み上げ機能を止めろッ!!」
『効いてて草、【悲報】マフィアさん JKに理解らされるwwwww、ぷぎゃあの極みァー!』
「ファァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
マフィアは爆発しそうなほど顔を赤くして狂乱した。
そんな悪党に生配信という羞恥プレイを施しつつ、莉子は尋問を始める。
「で、おじさん達どうやって日本に来たの? 多分、不法入国してきた人だよね」
「お、泳いで……」
「弾丸の踊り食いしてみたい?」
「ほ、本当だ! ゾンビ化して、大陸から渡ってきたんだ!」
「マジのマジ? 海外でゾンビ化すると感染進行早いし、上陸前には末期で戻れなくなってそうだけど」
「お前、昨年に太平洋で輸送船が沈没した事故を知っているか?」
「ああっ、あったよね~。確か海上自衛隊が大騒ぎで救助向かってたとか……もしかして?」
「察しが良いみたいだな」
「なんか上から目線でヤ」
「あががががが!? すす、すまんすまん! コブラツイストを止めろ!」
上下関係がハッキリさせられると同時に、配信のコメントが加速した。
「とにかく、その輸送船は外国へ薬を運んでたんだ。だが俺らの組織が現地の海賊と組んで船を襲ったんだよ」
「で、その運んでた荷物がゾンビワクチンだったってわけねぇ……」
「ハワイは良かったさ。日本より蒸し暑くはねぇ」
「バカンス楽しむ暇あるんだね」
「逃げてきただけだ。本部は北米ごとゾンビに飲み込まれたからな」
「そんな組織がオハピッピの効力いじって、日本にここまでおクスリ撒いてたなら確定だねぇ~」
頻発するドラッグ製ゾンビ、茜を攫いかけた警官、カフェで襲ってきた集団。加えてこの尋問で莉子は推察した。
「敵は、オハピッピを作り出した麻薬カルテルの残党。不法入国って来たついでに日本をヤク漬けにしてまた裏社会を支配~ってとこでしょ」
「……勘の鋭いガキってもの悪くない。説明のストレスがないな」
「――しかも敵の頭が国際指名手配犯とは、これまた派手な筋書きだな」
「っ!」
レンタル会議室の壁を突き破り、特殊機動隊が流れ込む。
ライフルを構える隊員たちの先頭で、立花はマフィアの男を睨みつけた。
「なあ、アレックス・ナニソレスキー。カルテル最高幹部のお一人よ」
本名を聞いて莉子だけが噴き出した。
「いやー立花さん、ウチが振り切った割に早かったですね」
「お前が異常なんだよ。ワイヤーでアメコミヒーローみてぇにビル跳んで行きやがって」
「アメ?」
「これも伝わんねぇ世代かよ……それより配信見たぞ。政府上層も動き出した」
立花は部下にマフィアを拘束させる一方で、ナニソレスキーを怪訝な表情で見下ろす。
「けど妙だな。俺はお前の顔、南米で死んだってニュースで見たぜ?」
「……腐ってもゾンビ技術の元締めだ。分身ぐらいいる」
「複製人技術……! 日本もギリギリの倫理で踏み留まったゾンビ技術も、マフィアには関係ねぇってか」
立花は嫌悪を顔へ露わにした。
「複製人と言っても人間だ。オリジナルの思想とカリスマ以外、独立した個に過ぎない」
「じゃあ受け継がれる遺志ってので、お前は死が怖くねえってか?」
「逆だバカ、普通に怖いわ! クローンあるあるだけど、俺も元のボスも普通に死ぬの怖いっての!」
「ハッ、人間臭ぇな。悪党なら佐喰ぐらい人間辞めなきゃカッコつかねぇぜ?」
「立花さんそれ遠まわしにディス?」
尋問と拘束を終えマフィア衆を連行しようとしたその時、ナニソレスキーは手錠の掛かった手を上げて叫んだ。
「さあ、これで知ってる情報は吐いた。だから恩赦をくれ!」
「あ?」
「日本はこうすれば極刑は免れるって話じゃねえか。現に人殺しはまだこっちじゃしてねぇしな」
ナニソレスキーは勝ち誇った笑みで余裕の態度を見せる。反省の情などない。
「それどころか世界でもなかなかの好待遇だって聞くぜ、日本の刑務所はよ。いやあ、隠居暮らしには持ってこいかもな」
「……佐喰、配信切っとけ」
「はーい。普段ならウチがやっちゃうとこだけど、たまには大人の顔も立ててあげなきゃ~」
「おう。お前は下がってな」
スマホを回収して莉子は会議室を出る。
扉が閉まると同時。立花はライフルをナニソレスキーの額へ口付ける。
「じょ、冗談だろ? 日本人は、無抵抗の人間には発砲できないって――」
「日本人はなァ、助っ人外国人も海外オタクもウェルカムなんだよ」
「い、いきなり、何を」
「だがテメェんとこの土地荒らされて、ガキまで手ぇ出されたら話は別だ。国も身分も関係ねぇ」
対人ライフルは獲物を待っている。
ナニソレスキーは眺めていた裁判記録が、二十年前のものからアップデートされていないことに今更気が付く。
「日本を舐め過ぎた……それだけがお前らの計算ミスだよ」
冷たい金属音が一つ、会議室に響いた。




