↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

第2話 ガールミーツガール&ゾンビミートボール

 小さい頃、お父さんよくウチに大事なことを言い聞かせてた。


『莉子は困ってる人を助けられる人になるんだよ』


 二回目の結婚詐欺に引っかかった時だったと思う。



『誰かを傷つけるようなことをしてはいけないよ。自分にいつか返って来るから』


 担当のキャバ嬢に別のお店行ってたことバレて出禁になった時、半泣きで言ってたっけ。



『そしてこれが一番大事だ。この激動の時代、お前は芯の強い人になれるようコレを覚えててくれ――』


 庭にゾンビを下半身だけ埋めて、芝刈り機で轢きながら教えてくれた言葉。



『法律が許す範囲で、気に入らない奴はぶちのめせ!!』



 今でも心の支えになってる、大好きなお父さんの教え。


 ※


「……っていうのが、ウチのお父さんとの思い出」


「クレイジー過ぎるよ。アンタも父親も」


「あ、店長ラッシーおかわり~」


 インドカレー屋の店主はドン引き顔のままラッシーを注ぐ。

 莉子はちょうど二枚目のナンを完食するところだった。


「で、リッコのお父さんも今は元気してるノ?」


「うん。この前もマチアプの子にドタキャンされてメソメソしてたよー」


「本当にロクでもない親父だネ!」


「にしても店長って日本語上手いよねぇ。検定何級?」


「上手いってアンタ、ワタシ生まれも育ちも日本だもの。父ちゃんがインド人なだけ」


「へぇ~初耳!」


「もう言うの四回目だヨ」


 笑顔がデフォルトな筈のインドカレー屋の店主も、莉子の前では目が死んでいる。ゾンビの瞳がまだ生き生きしているほど。



「ひっ、ひィィィ、だ、だだ、誰かぁ!」


 耳をつんざく少女の悲鳴が響いた。


 道路の真ん中には制服姿の娘が腰を抜かす姿と、彼女に群がる無数の男ゾンビがいた。


「あの子どうしたんだろ? ゾンビ見ただけであんな慌てて」


「このご時世でも至近距離のゾンビは怖いでしょうヨ」


 残っていたマッサマンカレーを莉子は飲み干す。


「店長、リッコちゃん行ってきます!」


「ハァ……支払いは遅いクセに、ゾンビ狩りだけは行動早いヨ」


「いつもツケでお願いしてるじゃ~ん。推薦生は今日から飲食代の全部国負担だし」


「半年前から未払いだヨ! トゥクトゥクで轢き回すゾ小娘!!」


 スクールバックから武器を数種取り、莉子は飛び出した。



 ゾンビが尻餅をついた女子に襲いかかる。

 が、莉子のドロップキックが彼らより速かった。


「ゾンビの間は人権なし!」


 空気が弾ける速度の蹴り。ゾンビは反対側の店へ吹き飛び、頭から窓に突っ込んだ。

 白塗りの壁は血の色がよく映える。


「わーお割っちゃった……後でお掃除手伝おっかな?」


 呟く間にも莉子は一体、また一体、ヒョロガリ大学生の顎を拳で揺らす。

 殆どのゾンビが殴った衝撃で頸椎を破壊されて倒れた。


「ヴヴ、グルぅぅぅ……」


「オニーサンはちょっと歯ごたえありそうだねぇ」


 そして巨漢には背後から回る。莉子は消火器ほど太い腕を掴み、空中で十字固めを決める。


「あらららオニーサン腕に注射痕。オハピッピ以外のおクスリもやってるのはアウトかなぁ」


 伸びた腕をそのままに、スタンガンを静脈へ突き立てた。


「おギャがががガガガガガガガガガ!?」


「電気流せばゾンビも動かなくなるよ。おうちで真似してみてね」


 スタンガンを刺したままゾンビは放置。巨漢は道の端で踊るように感電し続けた。


「それで、残りは真後ろの一人だけだね~」


「うアウガわぁ――」


 莉子の背後を取ったチャラ男ゾンビ。次の瞬間、その股下に膝蹴りが飛んだ。


 膝は男の股にあったブツをプチュっと潰す。


「キュッ……いっ、いやああああアアアアアァァァァァァァァァ!?」


「うわっ、この人まだゾンビになりきってない!? ああ痛覚残ってるんだ、ごめんね!」


「い、いだ、いだい……」


「ホントごめん! これ、あなたの取れちゃったスティック。付けとくね!」


「リッコ! それカレー屋(ウチ)の先割れスプーンだネ!」


「げやあああああっ、あっ、アアアァァァァァァァァァァァァァ!!」


 局部を潰された上に刺される追い打ち。先割れスプーンから香辛料のスパイシーな痛みが提供される。


 それで男は自我を取り戻してしまった。地獄だ。


「はい鎮静ゾンビ剤〜。君は見かけそんなワルっぽくないし、タバコ誘われたノリかな? ちゃんと病院で治してきてね」


 泡を吹いて男は気絶する。おそらく薬が効く前に痛みで失神した。


 あっという間にゾンビを行動不能と機能不全にし、莉子はへたり込んだ少女へ駆け寄る。


「で、お待たせぇー! お嬢さん平気? どこか怪我してる? お、珍しい制服だねかわいい~」


「は、わわわ……」


「あー怖かった? やっぱゾンビって見た目はホラーだもんねぇ」


 怖いのはお前だよ、と言う気力が少女にはなかった。



 その少女は見れば見るほど可憐だった。


 透き通った水色の髪に、瞳も湖畔のような蒼。彫刻のように白い肌と、ハムスターのようなか細い声。莉子が妹にしたいと思うほど表情や仕草はいじらしい。


 制服姿からして莉子と同年代のようだが、彼女の住む近辺のものではなかった。



 そんな震える少女はおそるおそる自分の右腕へ顔を向ける。


「あの、私、さっきゾンビに……」


 腕はゾンビに噛みつかれ、歯形から紫に変色しつつあった。


「噛まれちゃったのかぁ! 店長ー、リッコちゃんのバッグから薬取ってきて~」


「はいはい治療薬ネー……いだァァァァァァっ!? トラバサミを開けっ放しで入れないでよネ!!」


 悶絶する店長を目にして動揺しながらも、少女は尋ねる。


「なにが、どうなって……なんでゾンビが、いるんですか?」


「最近ここも増えたみたいでさぁー。繁華街で妙に流行ってるし、不法入国ゾンビがこっち来てるかもしれなくて」


「そ、そうじゃなくて、なんで現(・)実(・)に(・)ゾ(・)ン(・)ビ(・)が(・)存(・)在(・)し(・)て(・)る(・)んですか」


「……ふぁ?」


 言葉の意味がしばらく莉子には分からなかった。


 この時代にゾンビを知らない日本国民など、普通ならあり得ない。


「お嬢ちゃん、記憶喪失? 新薬でも盛られたとか?」


 一瞬言い淀むが、意を決して少女は告白する。


「私、マフィアに監禁されてたんです!」


 涙の訴えだった。潤む瞳を覗きながら莉子は熟考する。


(監禁されててゾンビを知らない、ってことはゾンビパニック前の二十年前からずっと……いや、ならこんな若いわけない。老化を防ぐゾンビ薬でもこんなピチピチは無理だし、マフィアってのも……)


 怪しい点はあった。リスクもだ。


 しかしそんなこと、佐喰莉子が女の子の涙を無視する理由にはならない。


「ま、後でいっか!」


「え?」


「難しいコトとテスト課題は後回しがウチのモットーだよ~ん」


「助けてくれるんですか……?」


「トーゼン! 事情はよく分かんないけど、困ってるみたいだし助けるよ!」


 顔の血を指で拭いながら莉子は笑った。



 安心した少女は肩の力をフッと抜いて、自分の名前を口にする。


「……霧ヶ峰。私、霧ヶ峰(きりがみね)茜《あかね》って言います」


「茜ちゃんヨロ! ウチは佐喰莉子。リッコで良いよー」


 涙を拭き取り、莉子は茜の顔をそっと撫でた。若干いやらしい手つきで。



 そんな彼女たちの横をボールのような肉玉が通過する。

 それは莉子が感電させた巨漢ゾンビだった。電流にやられ、丸く縮まって道を転がる。


「あ、感電させたままだった」


 焦げ臭いゾンビのミートボールは反対車線を国道沿いに転がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。