最終話 ゾンビライフ・フォーエバー!
「今回発生した、未曽有のゾンビテロ事件。多くの苦難を乗り越え、推薦生として責務を全うしたことをここに讃え……」
授賞式にマスコミから政府高官までが集う。中継映像はネットでも配信された。
壇上には二人。表彰状を読み上げる文武科学省の大臣と、胸にコサージュを付けた莉子が登っていた。
大人たちは偉業を成し遂げたゾンビ推薦生を見守る。
が、本人は退屈そうに欠伸をした。
「ねーオジさーん、分かりやすく言ってよぉー」
「えーっと……あなた、どの大学にも推薦で行けます。あと一生税金ナシで」
「いやったぁー! 初期目標たっせェ~!」
茜はさっと賞状を受け取り、魚を釣り上げたように客席へ見せつけた。
彼女の破天荒さに会場は笑いに包まれたが、大臣と客席の立花だけは顔が引きつっていた。
(良かったのかよ、文武科学大臣殿……)
目線で訴える立花に大臣も目で答える。
(こっちの方が安いっての。このイカれ娘に法律変えられる方が問題だわ)
「そーいえば推薦生ってたしか法律もー……」
「あーッ! く、詳しいことはまた別室にて。ひとまず、授賞式での発表はこんなところで……」
「そうなの? まあイイよね!」
「な、尚、強制労働省と脳筋推進省からも懸賞に……」
「おおっ! 商品券とプロテインの山だぁ~!」
式が終わるまでの間、大臣は莉子の気をそらし続けた。
※
十年分ゲッソリ老けた大臣とマスコミ達が去る一方、見守っていた担任は莉子を祝う。
「おめでとうな佐喰。これでお前は目標通り、推薦も税制優遇もついたことだ。ゾンビ狩りは引退して早速大学行くのか?」
「それなんだけどさぁ先生。ウチちょっと休学しようと思ってて」
「休学? なんだ、留学でもしたいのか」
「ううん。ゾンビ討伐、もうちょっと続けようと思って」
「そう、か。それまたどうして?」
「正直、もう就職のために大学行かなくて良くなったじゃん? お金あるし」
「教師的には複雑だがな」
「だから数年はゾンビ狩りして、二十ちょっと過ぎたら大学入ろーと思って。それも楽しい勉強ができる大学に」
「そうか、なるほどな。良いんじゃないか? 自由にやる力も権利も、お前は勝ち取ったんだ」
努力の末に成功を手にした教え子を、担任は応援していた。
「それにこの仕事、スリルが堪んなくてぇ~」
その気持ちは一瞬で萎みかける。
「ほ、ほどほどにしとけよ」
戸惑う担任に莉子は無邪気な笑顔を見せた。
※
授賞式の会場から出て一時間もせず、莉子は指示通り昼間の大通りに足を運ぶ。
現場には死んだ顔の立花が電話ボックスに寄り掛かって待っていた。
「おっ疲れさまぁ~!」
「勘弁してくれよ佐喰。大臣さっき緊張解けてゲロってたぞ」
「大臣も緊張するだねぇ?」
自覚のない莉子にますます立花の溜め息は増えた。
「そういや、北関東の推薦生。獅子村って子、先に大学行ったっぽいぞ」
「そぉーなんだ! 怪我も治ったし良かったぁー」
「任務がデカくなったからな。お前の功績も影響して、ちゃんと評価通ったらしい」
立花が見せたイヌスタの投稿には、キャンパス内を早速散策して感涙する真琴の姿があった。
「嬉しーけど、推薦生はまた減っちゃったなぁー。頑張んないと」
「加えて今日からお前も新入りの教育担当だ。先輩としてしっかりやれよ」
「はいへーい! 早速お出迎えしなきゃねー」
二人が話していた丁度その時、通りの向こうから女子高生が一人歩いて来た。
ブレザーの制服には仕込みナイフとカートリッジが仕舞ってある。
革靴が機動性重視、靴下の裏には万能ワイヤーが装備。ウエストポーチは医療セットが詰まっている。
鞄には莉子とお揃いのスタンガンを下げ、透明感ある水色の髪は今日も青空に溶けていた。
「強化手術もしてないのに、武器の扱いと冷静な判断力だけで……まさかお前に次ぐ推薦生になるとはな」
立花の胃はキュッと縮まる。その横で莉子は大きく手を振った。
「ゼッコーチョーだね、茜ちゃん!」
元気で溢れた莉子に、少女はヒラヒラと手を振り返す。
「莉子ちゃんよりは、まだ遅いかなぁ」
――新人ゾンビ推薦生、霧ヶ峰茜は満更でもなく微笑んだ。
「茜ちゃんが推薦生になったのって、診療所作るためだっけ?」
「うん、ゾンビ推薦生やオハピッピ患者さん用の診療所建てたくて。勉強と一緒に、気長に資金準備しようと思って」
「良い目標だねぇ~! 出来たらウチも使わせてぇー」
「もちろん! 莉子ちゃんは特別待遇にするから、ガンガン使ってね」
「持つべきものは友達とリボルバーだぁ!」
「うん余計なの握ってるよ」
二人はすっかり談笑で夢中になる。
街中のモニター看板には、中年コメンテーターが降板になったワイドショーが流れていた。
『事件調査の結果、オハピッピを製造した麻薬カルテルの完全消滅が確認されました。しかし、混乱期に発生した二次団体の消滅まではまだ及ばず――』
蔓延したドラッグもウイルスも、完全消滅の日はまだ遠い。
人の心に闇と、日常への退屈がある限り消える日はきっと来ない。それでも少女達は戦い続ける。
自分の信念で未来を切り開くために、引き金を引き続ける。
次第に無数の足音が近づく。道の先では今日もゾンビが群れになって駆け回っていた。
「さぁーて、今週のお客様はぁ~?」
「ナニソレスキーが撒いた種。運び屋がオハピッピ転売前に舐めちゃってゾンビに」
「死んでも存在感ありすぎないー? ほんっと人騒がせなヤツめぇ」
彼女達を発見したゾンビは、一目散に接近してくる。
迫りくる転売ヤーゾンビの群れに、二人は堂々とリボルバーを向けた。
射程内にゾンビが入る間際、莉子は呟く。
「ま、しばらく楽しめるから良いや」
二発の銃声が響いた直後、ゾンビの肉が弾け飛んだ。
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