第八話 『修正』
人は、
本当に大切なものを失うときだけ、
”永遠”を願ってしまう。
真っ白だった。
音も。
景色も。
自分の身体の感覚すらない。
ただ、
どこか遠くで。
『修正を開始します』
あの声だけが響いている。
『不要な記憶を削除します』
『世界整合性を再構築します』
意味不明な言葉。
でも。
なぜか、
聞いたことがある気がした。
「.......っ」
頭が痛い。
意識が沈む。
何かを忘れそうになる。
大事なことを。
すごく、
大事なことを。
『悠真』
声。
小さな声。
聞き覚えのある声。
『忘れないで』
その瞬間。
白い世界に、
日々が入った。
目を開ける。
駅前。
湿った夏の夜。
自販機の白い光。
23時46分。
「......は」
呼吸が止まる。
まただ。
また戻ってる。
でも。
「......悠真!!」
目の前で、
梨乃が泣きそうな顔をしていた。
その顔を見た瞬間。
胸の奥が、
痛いくらい熱くなる。
「......梨乃」
名前が、
自然に出た。
梨乃の目が見開かれる。
「え」
「......お前」
頭が痛い。
でも、
今までとは違った。
断片的だけど、
覚えている。
雨の夜。
病院。
泣いていた梨乃。
『また明日』
何度も繰り返した言葉。
「俺、
お前のことーー」
そこまで言いかけて。
ブツッ。
視界がノイズ混じりに歪んだ。
頭の奥で、
誰かの声がする。
『記憶保持率上昇を確認』
『修正難易度を再設定します』
「っ......!」
耳鳴り。
梨乃が慌てて俺の肩を掴む。
「ダメ!
今思い出したらーー」
その時。
駅前を歩いてい人間たちが、
同時に立ち止まった。
嫌な予感。
まただ。
全員。
ゆっくり、
こちらを見る。
でも今度は違った。
『修正対象を確認』
『朝比奈悠真』
『柊梨乃』
感情のない声。
機械みたいな声。
そして。
全員の顔が、
同じになっていた。
黒い。
何もない。
顔のパーツが消えている。
「っ......!」
息が止まる。
梨乃が、
震える声で呟く。
「......世界が、
本格的に壊れてる」
次の瞬間。
一人が、
こちらへ歩き出した。
『記憶保持は許可されません』
その声を合図に、
全員が動く。
「走って!!」
梨乃に手を引かれる。
走る。
夜の駅前を。
でも。
走りながら、
俺は違和感に気づいた。
「......なあ」
「何!?」
「俺、
なんで毎回ここなんだ」
その瞬間。
梨乃の表情が止まった。
「.......え」
「23時46分。
駅前。
毎回同じ場所」
息を切らしながら続ける。
「なんか、
意味あるんじゃないのか」
沈黙。
その反応だけで、
確信する。
「.......あるんだな」
梨乃は苦しそうに目を伏せた。
「......ここが、
始まりだから」
「始まり?」
その瞬間。
頭の奥で、
また記憶が流れ込む。
夏祭り。
人混み。
笑う梨乃。
そして。
0時直前の駅前。
『ーー好きだ』
自分の声。
梨乃が、
泣きながら笑っている。
『私も』
その瞬間。
踏切の警報音。
眩しいライト。
轟音。
「っ!!」
記憶が途切れる。
呼吸が乱れる。
「......思い出したの?」
梨乃が、
怖がるみたいに聞いた。
「俺、
ここでーー」
死んだ。
言葉にしようとした瞬間。
夜空が割れた。
バキバキ、と。
ガラス見たいに。
その向こう側。
黒い空間。
そして。
無数の”目”が、
こちらを見ていた。
『修正限界を確認』
『強制初期化を開始します』
梨乃の顔から、
血の気が消える。
「.......最悪」
「何が起きてるんだよ!」
すると梨乃は、
泣きそうな顔で笑った。
「たぶん、
世界が君をけそうとしてる」
第八話読んでくださってありがとうございます!
今回は、
かなり大きく世界観が動き始めた回でした。
そして、
ここから悠真自身も、
少しずつ”本当の記憶”へ近づいていきます。




