第十四話 『もう一回、君を好きになる』
忘れることが、
前に進むことだと言うなら。
忘れたくない気持ちは、
間違いなんだようか。
白い空間に、
おおきな 亀裂が走っていた。
世界が、
限界を迎えている。
『感情異常増大を確認』
『世界維持不能』
巨大な”目”の声が、
少しずつノイズ混じりになっていく。
でも。
悠真の頭の中には、
たった人一つだけが残っていた。
『私は、
もう一回好きになるから』
胸が苦しい。
涙が出そうになる。
「......なんだよ、
それ」
掠れた声で笑う。
「ずるいだろ......」
梨乃は、
少しだけ困ったみたいに笑った。
「だって、
悠真すぐ無茶するから」
その笑顔が、
あまりにもいつも通りで。
だからこそ、
余計に苦しかった。
「......忘れたくねえよ」
悠真は、
拳を握る。
「お前といたこと、
全部」
放課後。
コンビニ。
病院の帰り道。
くだらない会話。
泣き顔。
笑顔。
全部。
全部、
大事だった。
「俺、
やっと思い出したのに」
声が震える。
「またなくなるとか、
無理だよ......」
その瞬間。
白い空間が、
激しく揺れた。
『エラー拡大』
『対象:朝比奈悠真』
巨大な”目”が、
悠真を見下ろす。
『記憶を保持した場合、
世界は崩壊します』
「......じゃあ」
悠真は、
ゆっくり顔を上げた。
「世界なんか、
壊れればいいのかよ」
梨乃が目を見開く。
「悠真......!」
本気だった。
だって。
また梨乃を失うくらいなら。
そう思ってしまった。
でも。
次の瞬間。
梨乃が、
強く首を振る。
「ダメ」
その声は、
今までで一番真っ直ぐだった。
「私は、
そんなの嫌」
「でも......!」
「悠真」
梨乃は、
泣きながら笑う。
「ちゃんと、
生きてよ」
静寂。
その言葉が、
胸の奥に落ちる。
「......お前は」
掠れた声で聞く。
「お前は、
それでいいのかよ」
忘れられるんだぞ。
消えるんだぞ。
でも。
梨乃は少しだけ考えて。
それから、
優しく笑った。
「......怖いよ」
その声は、
震えていた。
「また、
一人になるの」
悠真の胸が痛む。
「でもね」
梨乃は、
涙を拭いながら続ける。
「悠真が、
ちゃんと未来に行けるなら」
白い空間の奥で、
朝焼けみたいな光が見えた。
初めて見る光景だった。
”朝”だった。
「私は、
それでいい」
その瞬間。
悠真の顔に、
最後の記憶が蘇る。
病院のベッド。
弱っていく自分。
その隣で、
泣いていた梨乃。
『ごめんな』
悠真が言う。
『たぶん、
先にいなくなる』
梨乃は泣きながら、
何度も首を振っていた。
『嫌だ』
『置いていかないで』
その時。
悠真は、
笑って言った。
『もし忘れても、
また好きになってくれよ』
呼吸が止まる。
「......あ」
思い出した。
”もう一回好きになる”
あの言葉。
最初に言ったのは、
梨乃じゃなかった。
自分だった。
その瞬間。
梨乃も、
気づいたみたいに目を見開く。
そして。
泣きながら笑った。
「.......思い出しちゃったね」
悠真は、
静かに笑う。
胸は痛かった。
苦しかった。
でも。
不思議と、
少しだけ怖くなかった。
「......なあ」
悠真は、
朝焼けの光を見る。
「もし、
全部忘れてもさ」
梨乃が、
静かにこちらを見る。
「また、
お前に会えるかな」
その瞬間。
白い空間に、
初めて朝の光が差し込んだ。
第十四話読んだくださってありがとうございます。
今回は、
悠真と梨乃の”約束”に近づく回でした。
ここから、
物語はいよいよ最後の選択へ向かっていきます。




