第十話 『また明日を壊した日』
人は、
大切な人を守れるためなら、
どこまで壊れらるんだろう。
たとえ、
世界そのものを敵にしても。
”何度死んでも、
梨乃にまた会うために”
その記憶が戻った瞬間。
胸の奥で、
何かが完全に繋がった。
雨の夜。
病院。
終わりを告げられた夏。
そして。
泣きながら、
「また明日」と言った梨乃。
全部。
全部、
本当にあった記憶だった。
「......俺が、
始めたのか」
掠れた声で呟く。
梨乃は、
泣きそうな顔で笑った。
「......うん」
夜空は割れている。
黒い穴から、
無数の手が伸びていた。
全部、
梨乃へ向かって。
『ループ維持因子を排除します』
機械みたいな声が響く。
「逃げろ!!」
悠真は、
梨乃の手を強く引いた。
走る。
壊れた駅前を。
でも。
黒い手は、
地面を這うみたいに追いかけてくる。
アスファルトを溶かしながら。
「っ......!」
梨乃が息を呑む。
その時。
黒い手の一本が、
彼女の足うぃ掴んだ。
「ぁ......!」
梨乃が倒れる。
「梨乃!!」
振り返る。
黒い手は、
生き物みたいに蠢いていた。
そして。
掴まれた部分から、
梨乃の身体が少しずつ透け始める。
「な......」
息が止まる。
消えてる。
「......悠真」
梨乃は、
苦しそうに笑った。
「たぶん、
もう限界なんだと思う」
「は?」
「この世界」
夜空が吹く。
空のノイズが、
どんどん広がっていく。
ビルが歪む。
信号が点滅する。
人々の輪郭が崩れる。
全部。
世界そのものが、
壊れ始めていた。
『修正を続行します』
「ふざけんな......!」
悠真は、
梨乃の腕を強く掴む。
その瞬間。
また記憶。
病院の屋上。
夕焼け。
『もしさ』
ベッドに座った悠真が笑う。
『明日が来なくなったら、
ずっと一緒にいられるかな』
梨乃は泣きながら怒った。
『そんなの、
絶対ダメだから』
『なんで』
『だって、
ちゃんと未来に行かなきゃ』
その時の梨乃は、
ちゃんと前を向こうとしていた。
でも。
悠真が死ぬ未来を知って、
壊れてしまった。
「......ごめん」
気づけば、
そう呟いていた。
梨乃が目を見開く。
「え?」
「俺、
お前まで巻き込んだ」
胸が痛い。
自分だけが怖かった。
死ぬのも。
忘れるのも。
だから願った。
”今日を終わらせたくない”と。
でもそのせいで。
梨乃は、
何十回も。
何百回も。
自分の死を見続けてきた。
「......違う」
梨乃が、
小さく首を振る。
「私が、
勝手に終われなくなっただけ」
その声は震えていた。
「だって、
悠真がいなくなるの、
嫌だったから」
空の”目”が、
こちらを見下ろしていた。
『原因因子を確認』
『朝比奈悠真』
黒い手が、
一斉に悠真へ向かう。
「っ!!」
避けきれない。
そう思った瞬間。
梨乃が、
悠真を突き飛ばした。
「梨乃!!」
その身体に、
黒い手が突き刺さる。
時間が止まった。
「......あ」
梨乃の身体が、
ノイズみたいに崩れていく。
「......やだ」
呼吸が止まる。
「やめろ......」
梨乃は、
泣きそうな顔で笑った。
「......ねぇ、
悠真」
消えかけながら、
彼女は言う。
「今度こそ、
ちゃんと明日に行って」
その瞬間。
駅の時計が、
0時を指した。
第十話読んでくださってありがとうございます!
今回は、
悠真と梨乃の”願い”と”後悔”を中心に進めて
みました。




