ep.final あの場所で見かけた
昭和のいつか。それと平成。どこかにある街。季節は冬。
一人の少年が死体で発見された。
身元は地元高校に通う生徒である。
顔面に擦過傷、胸部に大きな損傷があり、それによる失血死が死因。
そばには四十三kgに及ぶ鉄粉が散乱していた。
彼は原因不明の死者が相次いだこの街で、最後の死者となる。
以降、この町は政府の指定により封鎖区域となり、住民はいなくなる。
街の中心を通っていた国道は大きく迂回する形になり、この町へ通じる道は全て封鎖されたのだ。
昭和が平成に変わった頃、この町由来の様々な噂──いわゆる都市伝説だ──が囁かれるようになる。
どうにもオカルトじみているので大手のマスコミが取り上げることはなかったが、噂は周辺に住む人々の間で広がっていった。
パソコンだけでなく、爆発的に普及したスマートフォンによるインターネットへの接続が増えた頃。動画の撮影、編集、ネットへのアップロードがお手軽に出来るようになったことにより、封鎖区域という珍しいこの場所に、多くの人々がカメラやスマートフォン片手に訪れるようになった。そこで撮影された多数の動画が様々なメディアへアップロードされることになり、人々の目に触れる。
そのうちの一つを暇つぶしに眺めていた男。酒巻だ。
封鎖区域になった街から隣町へ引っ越しをした後は地元大学を無事卒業。
中規模のメーカーへ入社した後は攻める営業スタイルで、営業部長にまでなったものの、上司の派閥争いに巻き込まれてしまう。
万年営業部長と陰で言われつつも、部下の育成が評価され、定年まであと五年。
二人の娘が嫁いだ後は、気分もすっかり隠居で部下の相談役みたいになっている。
そんな酒巻の日課は、昼休憩時間に愛妻弁当を食べながら動画サイトを眺めること。
今日も自前のノートパソコンで表示されたおすすめ動画を見ていると、出身の町名を見つけた。
ずらっと並ぶのは都市伝説絡みのタイトルばかり。
封鎖区域という特異性から色々な噂が作られたんだろう、そう思うと同時に懐かしさもこみ上げてきたのでクリックする、
いくつか見ていくうちに、とある動画の途中で一時停止。パソコンのモニターをじっと見つめ、スクリーンショットを撮る。その画像を拡大した後、しばらくして静かに呟く。
「◯◯じゃないか。それに佐藤優子、黒瀬瑛子。どうしてあの頃のまんまなんだよ……」
「酒巻さん、何か言いました?」
「あ、すまないね、何でもないよ。ちょっとね、動画でさ、知り合いに似た顔を見つけたもんだから」
思わずつぶやいたのが、酒巻と同じ愛妻弁当組の山下に聞こえたらしい。
「へぇ。ちょっといいです?」
山下が酒巻のデスクまでやって来た。
隠すことでもない、酒巻は正直に説明する。
「この男の子、高校の時さ、仲良かったやつにすごく似てるんだ。隣の女の子達も知ってる子にそっくり。他人の空似もここまでくると驚くよ」
「へぇ、そうなんですか。世の中には同じ顔の人間が三人はいるらしいですからね」
「そうそう。びっくりしたよ」
この時、山下の表情が揺らいだことに酒巻は違和感を覚える。些細な変化も読み取るのが営業マンだ。
しかしそれがどういう感情なのかはわからなかった。
そして内心でここに写っている三人が間違いなく◯◯、佐藤優子、黒瀬瑛子ではないかと確信に近い思いが膨らんでくるのに戸惑う。
『◯◯、もしかしてお前は生きてるのか?』
ここまで読んでくださってありがとうございます。
下記作品は世界線を同じくする物語です。
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