ep.71 夜の街で
昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。
瑛子はどこにでも出現することが出来るが、家の中に来たことはない。家の前や玄関前までだ。
以前、俺の着替えやら何やらを母親から受け取ったことがあるが、多分玄関までだろう。
だからこの神使に代わりとして世話させてるわけだ。ま、ありがたいけど。
夜になって熱が少し下がったら、無性に外へ出たくなり、夜の散歩に出た。
ああ。熱で火照った顔に冷たい空気が気持ち良い。
自然と自販機のある方向に足が向かう。
住宅街は真っ暗な家が多く、多分引っ越していく家の方が、引っ越してくる家より多いんだと実感。
角を曲がったら酒屋があり、そこに自販機が数台置いてある。その一角だけ一際明るくなっていた。
最初は熱。
胸元が熱くなる。
なんだこれ。
爪。
肉球。
まるで猫の手。
血だらけ。
耳元で囁く誰か。
「心臓に防御。めんどうだね」
声でわかる。
山本由紀子だ。
抜かれる腕。
噴き出す血。
デアソード!
立っていられない。
げふっ。
口から血が溢れる。
息が苦しい。
願う。
こいつをやらなきゃ。
魂はいくらでもくれてやる。
瑛子!
あの力を寄越せ!
わかるだろう!
今寄越せ!
あの力を今すぐ寄越せ!
寄越せ!
何かが入ってくる感覚。
痛みが消えた。
腕を振りかぶり、やたらゆっくり迫る山本由紀子。
デアソードを正面に構え、こちらから体当たり。
長い爪で顔を切られる代わりに、カウンターで山本由紀子の胸にデアソードを突き立てる。
地面に叩きつけられた。
視界が狭い。
右目を抉られたようだ。
「がはっ」
山本由紀子の背中からデアソードが生えている。
「オマエッ!!」
首を絞められたような歪な声で俺を睨みつけるも、立っているのがやっとのようだ。
俺は喋れない。
ざまぁ見ろ!
手の先、足の先から黒い粉となって崩れていく山本由紀子、いやエレボスの本体から切り離された一部。
もう何も考えられない。
寒い。
でもやったぜ。
俺……死ぬのかな。




