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小川学院高等学校吹奏楽部

 春、桜が満開になった頃、私は、高校生になった。

 小川学院高等学校。神奈川県にある私立高校だ。この高校を選んだのは、公立高校の入試に落ちたという訳ではなく、

 

『お金の事は気にしないでいいから、貴方のやりたいことをしなさい』

 

 と、進路に迷走していた私に、母が優しく言ってくれたからだ。

 私は、六歳、つまり、小学校一年生の時から今も、クラリネットをやっている。

 

『私、本気で吹奏楽やりたいから、小川学院に行きたいです。お願いします』

 

 両親に頭を下げ告げると、二人とも快く承諾してくれた。今思っても、本当にいい親の子に産まれたなと痛感する。

 つまるところ、ここ、小川学院吹奏楽部は神奈川県はもちろん、全国にも通用するという強豪校なのだ。

 

「宮原先生、こちらからお願いします」 

「あぁ、すみません!」

 

 入学式にて、一人の教員が焦ったような表情でステージの真ん中に立った。

 周りが笑ってるけど、何か間違えちゃったのかな。早く部活動紹介に行きたくて全然聞いていませんでした。 

 私の身体は、今にも動き出しそうだった。実際手の指はエアーで動かしていた。

 

「やっと終わったぁ。音楽室ってどこだ?」

 

 入学式、そして各クラスでのオリエンテーションを終えると、一目散に教室を飛び出し、部活動紹介のパンフレットの地図を見ながら、吹奏楽部室を探した。

 

「えっと、東棟三階のトイレ前だから、ここだ!」

 

 ようやっと目的地らしき教室の前までたどり着いた。そこのドアには、

 

 ——吹奏楽部

 

 と、カラフルな文字で画用紙に描かれてあった。

 

 一度そのドアの前で立ち止まって、深呼吸をする。

 よし。

 

 ——ガラガラ

 

 ドアを開けると、丁度チューニングが終わったところだろうか。微かに美しいハーモニーが聴こえた。

 

「すみません、吹奏楽部に入部したいんですけど」


 私は、声を大にして、そういった。

 指揮台に立っている人がコクリと頷いてくれた。


「来てくれてありがとう!新入生は後ろの椅子のところまでお願いします」


それに従い、教室後方まで行くと、私に続いて、ぞろぞろほかの新入生も入室してきた。


「新入生の皆さん。こんにちは。小川学院高等学校吹奏楽部部長の、緑鐘エリカと申します。本日は部活動紹介という事で、私達吹奏楽部は、新入生の入学を祝し、合奏を披露いたします。是非、腰をお掛け下さい」  


 流石強豪校の部長。一つ一つの言葉、行動に無駄がない。

 みんなが着席したところで、部長が再び口を開く。


「では、早速始めたいと思います。曲は、聴いたことがある人もいるかもしれません。J.P.スーザで、星条旗よ永遠なれ」


-----お、


 この曲は、中学校のコンクールで先輩方と一緒に演奏した曲だ。結果はいいものではなかったが、先輩たちは楽しそうだった。

 私は、涙が枯れるくらい泣いた。だって悔しかったから。胸が張り裂けそうだった。なんであの人たちは笑っていられるのだろう。と、今でも思う。


部長----緑鐘先輩がタクトを振り上げた。


                    終

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