夢の先生
春、桜が満開になった頃、独り身の僕は、夢である高校教師に就いた。
「夢…か」
そんな事を呟きながら、家を出た。今日は入学式なので、スーツでの登校だ。自分の高校時代を懐かしみながら歩き始めた。
ここは歴史人物が来航して来たって有名な街らしい。歴史は苦手だったけど、流石にそれくらいなら知っている。
学校までのアクセスは、下りの電車一本と抜群で、駅から学校までの距離も近い為、最近全く動けてなかった僕には嬉しい事であった。
「……」
学校に着いた。初めて来た時は、外見の古さに若干驚きはあったが、今は、優しい緑に囲まれ、空気が澄んだ素晴らしい学校だと、心から感じれる。何本も並ぶ桜の木は、これ以上ない程の満開で、まさに入学式だった。
入学式のプログラムである、教員紹介の順番が回って来た。
「————お願いします。」
僕の前の人までの紹介が終わり、拍手も鳴り止む。僕は一度深呼吸をし、スっと椅子から腰を上げた。
「音楽の授業を担当します。宮原透です——」
「宮原先生、こちらからお願いします」
早々やらかした。子供達がクスクスと笑っている。横を見れば、先生たちも同様、口に手を当て、笑っていた。いい先生ばかりで良かった。
「あぁ、すみません!」
僕は急いでステージの中央まで行くと、顔を正面に向け、生徒全員の顔を見てから、再び口を開く。
「改めまして、宮原透です。担当は音楽で、吹奏楽部の顧問もさせていただきます。大学卒業したばかりで、僕も皆さんと同じ一年生です。まだまだ力不足なところはありますが、よろしくお願いします」
また、一度正面を向き、お辞儀をした。生徒たちの拍手が鳴り止むと同時に腰を下ろした。
「ではぁ、次——」
式が終わった。今は、各々のクラスでオリエンテーションを行っているだろうか。僕は担任ではないので分かりません。
「宮原先生。今日からよろしくお願いします!」
「「お願いします!」」
僕は今、音楽室にて、ニ、三年生の吹奏楽部員と顔合わせをしている。思っていたよりも部員数が多い。
「お願いします。改めまして、宮原です。皆さんの事は原先生から聞いています」
原先生とは、僕がくる前、つまり、三月までこの子達の顧問だった先生だ。
「今後の活動については、また後で話します。まずはこの後の部活動紹介です。部長、お願いします」
「はい!」
緑鐘エリカさん、新三年生の部長だ。既に僕よりしっかり者であるのは確かだ。
「部長の緑鐘です。改めてよろしくお願いします」
——パチパチ
「部活動紹介についてです。新一年生をここ、音楽室へ招き入れ、合奏を披露します。三年生はいつも通りに、二年生は緊張しないで!以上です」
「ありがとうございます。それでは早速準備に取り掛かりましょう。私も手伝います」
「「はい!」」
二、三年生と一緒に作業をして、チャイムと同時に室内準備が完了した。
教壇の中央へ移動して、目の前の光景をじっと眺める。すると、自然と目線がピアノの方へと向けられていた。
「…………やろう」
「先生、どうかされました?」
「あぁ、いいえ、少しばかり昔のことを思い出したもので」
いい部長だ。僕のこんな些細な行動でも声を掛けてくれる。
そろそろ新入生が校内を回り始める頃だろうか。
「では部長、あとは頼みます。私は部室の後ろに立っているので、何かあればお声がけ下さい。できる事はかなり限られますけど」
「ありがとうございます!」
「「ありがとうございます!」」
頷き、部室の後ろ側まで移動した。
皆、それぞれの持ち場につき始める。勧誘担当はチラシを持ち、校内全体を回る。部室前での声掛け、そして奏者達は自らの楽器を持ち椅子に座る。部長は指揮台に上り皆を見渡した。
「チューニング べーで」
トランペットの音色を基準に綺麗な音が部室に響く。英語音階のb♭、つまりシのフラットの音だ。全体の高さを揃え、ハーモニーを作った。部長が、あげた掌をゆっくりと閉じると同時に音は消えた。
「すみません、吹奏楽部に入部したいんですけど」
チューニングを終えたところで丁度、新入生が入室して来た。それに続き、一人、また一人と部室内が新入生で満たされていった。
「新入生の皆さん。こんにちは。本日は部活動紹介という事で、吹奏楽部では合奏を披露いたします。是非、腰をお掛け下さい」
続いて部長。
「では、早速始めたいと思います。曲は、聴いたことがある人もいるかもしれません。J.P.スーザで、星条旗よ永遠なれ」
——ほう。
「星条旗よ永遠なれ」とは、スーザがヨーロッパからの帰国する船の中で、祖国であるアメリカ国旗が脳裏に浮かんだという、アメリカへの熱い想いが込められた曲だ。難易度としては簡単とは言えない。
コンダクタ——部長がタクトを振り上げ、合奏が始まった。
終




