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襲撃者の正体は

「――っ!」


 間一髪で手で掴むことができた。この矢の形状は……今までに見たことのないものだ。矢自体もまっすぐに作られず直線が歪んでいる。売られたものじゃない。恐らく、自作したやつだ。

 一体誰が!?

 それよりも馬車を操っている人の安全を確保するのが先だ。俺はすぐに声を上げる。


「すぐに馬車の中に入って下さい! ここは俺が何とかします!」


 俺の声に合わせて、御者さんが慌てて馬車の中へと駆け込んでいく。よし、これで立ち往生する心配はなくなったな。

 後は、この馬車を襲った奴らを始末すれば問題ない。

 外の様子が気になったのか、ユニが馬車から出てくる。


「ケイくん。一体何があったの?」


「ユニ。どうやら敵のお出ましのようだ」


「……ケイくん。気をつけた方がいいの。もしかしたら刺客かも」


「いや、この矢の形状からしてそれはないな。多分最近できた私設の組織だろう」


 その言葉を皮切りに、茂みから人が飛び出してきた。俺たちを襲った相手。それは奇妙な集団だった。

 みんなボロボロの衣服を身にまとっていることは分かる。しかし、手に持っている武器はそれぞれバラバラだ。統一性がない。そしてさらに、全て少年少女という年齢が若い子どもたちだったのだ。

 多分、アリーと同い年なんじゃないか。

 武器を構えている子どもたちの中に、一人だけ異質な存在がいた。そいつだけは、闘志のオーラが出ていた。多分、この集団のリーダーってところか。

 彼は俺を睨みつけると、ゆっくりとこちらに歩いてきた。


「……目的はなんだ? 金品か?」


「僕は貴様に人生を狂わされた人を助けにきたんだ……!」


「人生を狂わされた? どういう意味だ」


「うるさい……! お前なんかに話すか! いくぞみんな!!」


 彼の号令で、一斉に動き出す集団。

 子どもか……。命を奪うべきか否か。それに、目的もまだ聞いていない。

 とりあえず、殺すことは後でもできる。今は気絶させる方向へ持っていくか。


「ユニ。殺すな、気絶程度にしておけ」


「分かったの。じゃあ、行くの!」


「ああ!」


 俺たちも迎撃に移る。ユニはユニコーンへと変身し、武器の群れをかいくぐり、一人ずつ丁寧に気絶させていく。

 よし、俺も負けてられないな。剣を引き抜かず、俺は自らの拳だけで戦う。そうじゃないと、殺してしまうことになるからな。

 ボウガンや鉄アレイといった珍しい武器を扱っていることに感心しながらも、俺は楽々と集団を蹴散らしていく。

 なんだ。それほど脅威ではないようだ。これならすぐに片がつく。

 しかし、残りの一人……リーダーの彼だけは一筋縄ではいかないようだ。

 彼はオーソドックスな剣を両手で構え、俺に立ち向かおうとしている。さすがに俺も剣を引き抜き、彼と鍔迫り合いを始めた。


「――なあ、一つだけ聞かせてくれ」


「ふざけるな! 僕は……僕はお前を殺す!! 絶対にな!」


「何故俺を狙う? 仮に俺が人生を狂わせてしまったとしよう。それは誰だ?」


「何を分かりきったことを! お前は奴隷を入手し、いいように働かせているんだろう!!」


「奴隷? 救ったことはあるけど、俺は奴隷として見ていない」


「嘘をつけ! 僕には分かる……! アリーは……僕が救う!!」


「……お前、アリーの知り合いか?」


「ああそうだ!! だからなんだ!?」


 こうまでして叫び合いを続けていれば、馬車の中にも届くのだろう。

 その声を聞きつけたのか、アリーは馬車を飛び出してきた。馬車に気を取られていた彼は、一瞬にして力を失った。……ああ、そういうことか。彼はアリーの……。


 運命の出会いとでも言うように、二人だけの時間が流れている。見つめ合っている二人にだけ、刹那の時間が永遠とも言える時間へと変化していることだろう。

 ふいに、アリーが口を開いた。


「もしかして……うぃーくん?」


「アリー……! アリーなんだな!?」


「うん!! けーくん! 彼が……私が身代わりになった男の子なの!」


「待ってろアリー! 僕がこいつを殺すから!!」


「――させないよ」


「ぐっ!」


 力が抜けているのに何を言っているのか。俺は簡単に彼の剣を弾き飛ばし、首筋に刃を近づけた。本来なら、ここで君は殺されているはずなんだが……。

 きっとアリーのことだから本来の力が出せていないのだろう。確かに、俺と対峙する間までは強いオーラが出ていた。彼が本気になれば俺ともいい相手になると思うんだが、どうやら今は俺の相手にならないようだ。

 舌打ちをして、目を泳がせる『うぃーくん』。何か策を考えているようだが、もう君は詰んでいる。こっから挽回する方法はないだろう。まあ、ないからと言って殺しはしないんだけどね。


 ユニの方も戦いが終わったのか、人の形に戻っている。大きな欠伸をして地面に座り込んでいることから余裕で勝利したのだろう。


「クソ……! こんなに強い奴だなんて……!」


「君は勘違いしているが、俺は別にアリーを奴隷だと思ったことはない。むしろ逆だ」


「何だと!?」


「こういうことは自分の口から言いたくはないんだけど……アリーは盗賊に奴隷にされていたのを俺が救ったんだ」


「嘘だ! 奴隷を酷使するような奴の言葉なんて信じられるか!」


「嘘じゃないようぃーくん!」


 目を丸くして、驚いている彼。それもそのはずだ。奴隷として働いている彼女の口からとんでもない言葉が飛び交ったのだから。

 だがそれは事実だ。俺はアリーを救い、彼女の自立を手伝っている。


「……本当なのか? お前は……アリーを奴隷から救ったのか?」


「本当さ。アリーもそう言ってるだろ?」


「じゃあ……お前と一緒に戦った女の子は……?」


「あれはただのペットだ。気にする必要はない」


「ペットだなんて酷いのー」


「人間のペットなんているか!」


「……残念だけど、人間じゃないのー。ほらー」


「……え!?」


 彼は言葉を失っている。さっきからユニは変身して戦っていたんだが、俺との勝負で眼中になかったのだろう。

 変身のプロセスを改めて目撃した彼は、口をパクパクさせて驚きを表現していた。

 この反応を見る限り、彼は悪い人間じゃないと思う。アリーの知り合いってのもあるしな。


「う……嘘だろ……」


「嘘じゃないのー。ちゃんと見てなかったのー?」


「見てたよ! 見てたからこそ信じられないんだよ!」


「むー……現実を直視してほしいの」


「ユニちゃん。初対面なんだから驚くのも無理ないよ。私だってユニちゃんがユニコーンになった時はびっくりしたんだから」


「そうなの?」


「うん。だからうぃーくんの反応も普通なんだよ」


「アリーがそう言うなら、信じるの」


「えへへ。偉いぞ、ユニちゃん」


 ユニコーンになっているユニの頭をナデナデしているアリー。

 ここからは俺が推測した感情なんだが、その微笑ましい姿を、彼は何となく羨ましそうに見つめていた。

 アリーにナデナデされたいのだろうか、彼は。まあ……旅団で一緒だったんだもんな。それに、アリーとも仲が良かったんだし。もしかしたら、彼はアリーのことが好きなのかもしれない。それは、彼がアリーの姿を見た時の反応からも明らかだと思う。


 空を見上げれば、もうすぐ夕闇が迫ってくる。このまま進んでも良かったんだが、休むのも悪くない。馬を操ってくれる御者さんだって、寝ずの仕事は無理のはずだ。ここいらで休憩をとって、明日の明朝に出発すれば、モンスターが活性化する時間前には十分に間に合う。

 よし、今日はここで野宿にしよう。アリーも彼と話したがっているみたいだし、俺も彼に興味がある。旅団時代のアリーのことも聞きたいと思うし……。

 まあ、ちょっと話してみるか。

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