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旅団の真実、アリーの想い

 俺とユニが手加減をしたおかげで、被害は出たが犠牲は出なかった。

 そのおかげもあって、俺たちはすぐに打ち解けあうことができた。

 一人でも犠牲が出てしまっていれば、きっとこうして簡単に歩み寄ることはできなかっただろう。

 夕闇が完全に空を覆った時刻。唯一の光はたき火だけだ。ここにサマリが入れば、魔法かなんかで辺りを照らしてくれるかもしれなかったけど、彼女はここにいないしそもそも彼女は今狼に戻ってしまっている。

 俺も魔法が使えるのかもしれないが、光を生み出す呪文が分からない以上、火の魔法を使って、こんなたき火を作ることしかできない。

 それでも、真っ暗よりはずっといい。

 近くの獲物を捕らえて、皮を剥ぎ取って肉が串に刺さっているものがたき火の近くで焼かれている。焼け付く度に、肉の脂身が染み出て地面に垂れていく。これで余計な脂分が削ぎ落ちて、おいしくいただけるのだ。

 ちなみに、獲物はゴブリンやコボルトとかのモンスターじゃない。野うさぎだ。ちょうど野うさぎの集団が歩いてきたのも運が良かった。

 道中でこんな高級な食材に出会えるとは思わなかった。モンスターの肉よりずっと美味なうさぎの肉が手に入ることなんて、何年ぶりだろうか。

 まあとにかく、俺たちはこうして食事にありつけたというわけだ。

 調味料はない。ここで野宿する予定じゃなかったし、持ってても荷物になるしで特にいいことはないからな。長期間の旅なら持ってきたかもしれないけど、ただ俺の村に行って石を取りに行くってだけだったから。


「ケイくんケイくん」


「何だユニ?」


「アリーとウィゴ。仲良しさんなの」


 ユニが口にした『ウィゴ』という人名。それはあの集団のリーダーで、俺とつばぜり合いを繰り広げた男の子の名前だった。

 ユニは二人の幸せそうな会話を見て、顔がほころんでいる。


「そうだな。積もる話が多いんだろう。やっと会えた二人だからな」


「焼いてるの?」


「え?」


「ウィゴくんに嫉妬。してないの?」


「してないさ。アリーの友達なんだろ?」


「でも、もしアリーがウィゴくんと一緒に行きたいとか言ったらどうするの?」


「どうもしないさ」


「何でー?」


「もうあいつは誰かに縛られない。自分の選択で人生を決めることができるんだ。それを阻害するような真似はしないってこと」


「へー……ケイくんのことだから、アリーは何としても自分の手元に置いておこうとするかと思ったの」


「それはお前のことなんじゃないのか?」


「……それはあるかもなの」


 さっきから、アリーとうぃーくんと呼ばれているウィゴとの会話が聞こえてくる。

 途切れることのない会話。内容は詳しく聞いていないが、楽しい思い出話に花を咲かせているのだろう。

 しかし、ある時間からウィゴは周りの目を気にし始めていた。あの様子は、二人で隠れて話をしたい。そのように思える。

 特に注意して見ていたのは俺とユニの方向だ。それから推測されることは、ウィゴはアリーを連れて行きたい、そんなところだろう。

 だから、俺は敢えて馬車の中に潜ることにした。これでウィゴにチャンスが生まれたはずだ。

 俺の予想が当たったらしく、ユニが慌てて馬車の中へと入ってきた。


「ケイくん! ウィゴとアリーが茂みの中に入っていったの!」


「お。やっぱりそういうことか」


「追い掛けてみるの」


「おいおい……せっかく二人きりになれるようにお膳立てしたんだから無駄にさせるなよ」


「ケイくんは気にならないのー? もしかしたら、いけないことをしているかもなのー」


「……う」


「ほらー、ねっ? 行くのー」


「……分かったよ。ただし、絶対に気づかれないようにすること。いいな?」


「はーいなの」


 アリーとウィゴの邪魔をするのも悪いと思ったが、ユニの言うとおり何を話すのかは気になるところ。ここは悪い子になってユニと共犯でいくことにしよう。

 俺はずっと馬車の中にいたからどこまで行ったのか分からない。だから、ユニの案内に従って付いていく。実際、ユニの隠密行動はかなり正確だった。彼女のアドバイス通りに動けば、音を立てることなく茂みの中へと隠れることができたのだから。

 一息ついたところで、ユニは小声で俺に話しかけた。


「アリーとウィゴ。二人は向かい合って黙っています……なの」


「実況しなくてもいいから」


「えー? 解説はケイくんに任せようと思ったのー……」


「解説しようにもなあ……ってちょっと静かにしてろ」


 中々話したがらない二人だったので、ヒソヒソ声に気づいてしまったのかと少し焦ったが、どうやらまだ気づかれていないようだ。

 その証拠に、ウィゴが思いつめたような表情で会話を始めたのだ。あの顔からして、楽しいお話しではなさそうだ。


「アリー……こんなところに呼び出してごめん」


「どうしたのうぃーくん。何かあった?」


 アリーの方はウィゴと会った興奮が冷めやらぬようで、まだ顔を赤らめて高揚している。しかし、そんな顔つきも彼の一言によって冷めてしまうだろう。


「単刀直入に言う。……僕と一緒に来てくれないか」


「え?」


「……僕が奴隷解放を目的とした組織『オーヴィン』を立ち上げていることは言ったよね?」


「……うん。私のように奴隷となってしまった人たちを救うって。けーくんも立派だって言ってた」


「あの人には感謝しているよ。アリーが奴隷だったのに前と変わらない姿になっているのは、ケイって人のおかげだから」


「そうだよ。けーくんは私の命の恩人なんだ」


「でも……だからこそ、アリーは僕と一緒に来てほしいんだ」


「……どうして?」


「アリー、あの旅団での生活を覚えているかい?」


「うん! みんな優しくて、嬉しかった。私と似たような境遇の孤児たちと遊んでいるのも楽しかったし……」


「……アリー。もしかしたら、僕は君に酷いことを言うかもしれない」


「?」


「……あの旅団。あれこそが、奴隷の斡旋場だったんだ」


「……よく分かんない。もう一度言ってよ」


「アリー……あの旅団こそが! 奴隷の売買をしていた悪魔の集団だったんだよ!!」


「――!!」


「あいつらは幼い子供を売り買いする組織だったんだ。『旅団』を演じていたのは、各地へ移動することで奴隷売買に反対する勢力から遠ざかるため。孤児を引き取るのは一番難しい『人材』の確保のため。孤児なら余計なしがらみがないからな。急にいなくなっても他人からは死んだとしか思われない。また、孤児たちの暮らしを支えて明るくさせていたのは『売り』を作るためなんだ。暗い顔の奴隷なんて、気がめいるだけだからな」


「そんな……」


「そしてあいつらは卑劣にも、売買の際は『ショー』が行われていた。他の奴隷に気取られないように、二つの『ショー』が……。気の優しい人に引き取られるショーと、盗賊団という悪い人たちに引き取られるショーがあった。旅団だから盗賊団に狙われていても不思議じゃなかったしな」


「じゃあ、私とうぃーくんが暮らしていた旅団は……。あの日々は……?」


「全部仕組まれたものだ。僕もアリーも、売り物として飼育されていただけだったんだよ」


「そ……そんな……」


 がっくりとうなだれ、膝から崩れ落ちるアリー。今日、馬車での移動中で楽しげに話していた旅団の真実が明白になったことで、彼女は絶望に打ちひしがれているのだろう。

 ……くっ! なんてことをしてやがったんだ。彼の話が本当なら、旅団がやってたことはまるで家畜じゃないか。アリーは人間で、ウィゴだって人間なんだぞ!


「僕も最初はこの事実に気が付かなかった。奴隷として捉えられ、それでもいつかは脱出してやろうと毎日思っていた。そして、その時がやってきて、僕は奴隷として買った奴に復讐した時、その事実が判明したんだ」


「…………」


「奴隷から抜け出せた僕は各地を転々とし、仲間を集めた。そして、旅団を突き止めて壊滅させた後……奴隷の解放を望む組織『オーヴィン』を作ったんだ。僕はアリーにオーヴィンに来てもらいたい。そして一緒に復讐しよう。僕たちを奴隷として扱った奴らに……!! これから生み出される奴隷たちを救いに!」


 ウィゴは力強く言葉を言い放つ。これは彼の意思の強さの表れでもある。

 それだけ、奴隷の救済に対して強い意志を持ち、アリーと一緒にそれを成し遂げたいという気持ちがあるのだろう。

 最初はワクワクさせながら見ていたこの一部始終、途中から黙っているだけだったユニが俺にそっと耳打ちした。


「ねえ、アリーがウィゴと一緒に行くっていったら、ケイくんはどうするの?」


「さっきも言ったろ? 俺は止めない。彼女の進む道は……彼女が決めるべきなんだ」


 ウィゴの奴隷解放を目的としたオーヴィンは素晴らしいと思う。出来ることなら手伝いたいとも思っている。けど、ユニの父が属している『何か』を先に片づけなければ、この先の未来はないかもしれない。

 まだ全貌も把握できていないにも関わらず、俺の脳内には言い知れぬ不安感がぬぐえないでいた。今、この間にも『何か』が動いているかもしれない。


「私はつまらなくなるの……」


「ユニもついていきたかったらいいんだぞ?」


「ううん。それはできないの。ケイくんという味方がいなきゃ、多分これからの戦いは通じないから」


「そうか……」


 ユニと俺。双方で意見交換が出来上がったところで、アリーはぼそりと呟いた。それは、自分自身の決断に対しての明確な意思があったように見受けられた。


「……うぃーくんの目的は応援したいよ。一緒に行きたい」


「本当か!? アリー!」


「――でも、ごめん。一緒には行けない」


「……え?」


「あの旅団がそんな人たちだったなんて知らなかった。だから、ちょっと寂しい気持ちがあるのは本当。でも……私にはまだ恩返し出来てないから」


「恩……返し」


「うん」


 項垂れていたアリーの姿はない。彼女は立ち上がってしっかりとウィゴの瞳を見つめている。


「私……けーくんに会ってから、ずっと助けてもらってばかりなの。このままじゃあ、ずっとけーくんに甘えちゃう。だから、けーくんに見せたいの。もう、自分一人で出来るよってところ。それが、けーくんに対する恩返しだと思うから」


「……そうか」


「あっ。別にうぃーくんが嫌いになったわけじゃないよ! ただ、けーくんに……」


「いや、僕は大丈夫だ。アリーがそう言うなら僕は引き止めないよ。ケイさんの近くに入れば安心だしね」


「うぃーくん……ごめんなさい」


「気にしないでくれ。じゃ、この話は無かったことにしよう。そろそろ戻らないと、怪しむ人が出て来るかもしれないからね」


「うん!」


 それからは元の二人に戻り、再び昔話に花を咲かせながら元の場所へと戻っていく。

 あ、俺たちも戻らないとな。アリーたちが逆に怪しむ。


「ケイくん」


「どうした? ユニ」


「アリーとまだ暮らせるの」


「そうだな」


「私、嬉しいの。ケイくんは?」


「まあ……嬉しいと思う」


 俺の言葉を聞いたユニはクスリと笑いながら、茂みの中を駆け出していく。

 アリーとまた暮らせるって事実に、心の中でホッとしている自分がいた。

 ……やっぱり、俺もまだまだなんだな。

 大きく背伸びをした後、怪しまれないように俺も茂みの中を抜けていくのだった。

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