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春子と最強執事  作者: 白川れもん
9/20

必要なのは、友

お待たせ致しました!

引き続き、よろしくお願いします!

 椿は、きっと何か知っているはずだし、解決策だって、きっと考えてくれる!

 隣を学校へ向け、登校している紺を、横目に見るがニコニコとしているだけ。


 全く、どうしてこんな執事が、Sランクなのだろう。

 そして、昨日の、お母さんへの変わりよう。もう、恐怖するレベルだ。


 今朝、紺とお母さんの何かが変わるのではなかろうか、という私の心配は、要らぬものだった。

 二人の会話は淡々としていて、まるで何もなかったかのよう。変化はない。


 ただ、紺からお母さんへの笑顔が増えた。

 というか、笑顔になった。微笑むようになった。それはそれは、私にする様に。


「ん? 春子、何だか呆れてる? 僕、何かした?」


 相変わらず、感だけは凄い。

 こういうのも、Sランクと関係しているのだろうか。


「午前中は、執事禁止でしょ? せめて、影になっててね」


 還れ、なんて言って、また駄々こねられても嫌だしな。


「えー、僕、春子をいつでも守れるように、このままが良い」


「駄目。還らせるわよ! 本当は還すところを、影にって、妥協してるんだから」


「えー、そんなー」


 ぶつくさと、唇を突き出して私を見ている。

 ……そんな顔しても駄目。駄目なものは、駄目!


 何か言う代わりに、心で訴えてみる。


「……けち」


 心を通じて届いたらしい紺は、学校が見えるなり、私の影に入った。


 学校が近づき、校内に入り、自分のクラスへ向かう。

 その度に増え、何故か避けていく生徒。


 ん、ん? 私、何かしたか?

 私が進む度、周りの生徒が退いていく。それも、何かこそこそしている。

 初日じゃあるまいし、紺を出してない。

 なのに、この避けられよう……もしかして、私が知らないうちに紺、何かした?


 問い詰めようにも、出すわけにはいかない。

 私を見るなり、こそこそ、と話だし、距離を明らかにとる生徒まで。


 な、なんなの!? いじめ? 泣くよ? 私、泣くぞ!


「春子、春子!」


 こそこそっと足元から声がする。

 周囲を見渡して、私のクラスである二年一組、クラス前の、廊下。それも、窓際へ。


 ここなら一人でぶつぶつ言ってても、不自然じゃないよね?

 なんか、たまにいるじゃん、そういう奴。


「何よ、紺?」


「あのね、僕、何だか春子が寂しそうで、悲しそうだったから、声かけちゃった……違う?」


 うっ、何で、こういうのに敏感なんだ、こいつは。

 確かに寂しくて悲しかったけれども!

 誰かに声をかけて欲しいなって思っていたけれども!


「それは、そうだけど……」


「春子、僕はいつでもいるんだよ。春子の味方だよ。元気出して!」


「……うん、ありがとう」


 そう言われると、少しだけ心が落ち着く。

 紺って純粋というか素直というか、心から言ってるってわかるから、嬉しい。


「それに、僕が春子を……ん?」


 言葉の途中で、紺の意識が別にいったのを感じた。

 まるでどこか遠くを見ているような、そんな感じ。


「え、何、どうかした?」


「……来る。ほら、春子と昨日友達になった奴」


「椿のこと?」


「そう。もうすぐ来るよ。だから、落ち込まないで!」


「あ、ありがとう」


 もうすぐ来るって、そんな事もわかるのか。

 紺の気配が完全に無くなる。いや、影に徹しているだろう。


 凄いな、と感心する。

 だって、あの紺だよ? うるさいし、何かと言うこと聞かないで出てくるし。

 あの紺が、こんな静かに、気配を殺せる。

 やっぱりSランクなのだろう、と思える瞬間なのかもしれない。


 ………しかし、来ないな、椿。

 かれこれずっと廊下で待っているのだが、全く来ない。


「ねえ、紺。もう十分くらいは、待っていると思うんだけど」


 こそこそっと紺に、しゃがんで話しかける……が、無反応。

 え、無視? 


「え、ちょっと、紺?」


 え、消えた?

 いや、いるよね? たぶんだけど、いるよね?

 だって二メートルしか離れられないんだよ? うそ、いるよね?


「え、ちょっと? もしもーし」


 は? じゃあ、なに、無視? 主を無視するわけ、この執事は。


「おい、こら紺!」


 怒りから、私は一際大きな声を、出してしまった。

 しまった、と思ったときには遅く、他生徒との距離が、より深いものに。

 私を避けるように、皆、教室側の、こんな端っこを一列で歩いてく。

 え、うそ、私は汚物? 臭いの? 紺もいないし、もう帰るよ?


「春子、お、おはよう」


 そこへ現れた救世主!


「椿ー! やっと来たー」


 紺は、いったい何メートル先を見てたんだよ!




 椿が寄ってきて、こそこそ、と、手招きして、私に小声で話しかける。


「春子、の、紺さんがSランク執事って本当?」


「え! 何で知ってるの、椿!」


 私の驚きよりも、椿は少し眉間に皺を寄せた。


「やっぱり、噂、本当だったんだね」


「う、噂?」


 椿によると、昨夜から今朝にかけて、SNSで私の執事がSランクという情報が、流れたらしい。

 それも、数百イイネ。

 この学校は特種なので、生徒数も決して多くはない。

 一クラス三十人として、一学年、二クラス。

 数百もの人が閲覧した、となると、ほぼ全校クラスレベルだ。


「……なるほど……え、だから私、避けられてるの?」


「みたいだね。Sランクって凄く少ないし、とても強いって……本でしか読んだことないの」


 まさか、紺さんだったとは……と、椿は少し嬉しげに影を見つめる。

 いやいや、また紺じゃん。

 元凶、昨日は私の責任もあったけど、今回は百パーセント紺だよね。


 私は軽く、影を踏んでみた。

 本当に、軽くね。



「あれ? 大前? 久しぶりだなー」


 椿の背後から、愉快な声をかけてきた男子生徒。

 だ、誰?


「……あ、山本」


「ん? げ、その人、噂の転校生? Sランク執事扱う、初日からクラス全員を地に沈め、君臨したって言う、女王転校生?」


「じょ、じょ、女王? 女王転校生って何!?」


 思わず椿を見る。

 男子生徒こと、山本も見る。

 何? 私、影でそんな言われてるの? 嘘でしょ?


 目を会わせない椿は「そ、そんな噂、な、ないよ?」と言うけれど、明らかに目が泳いでいる。


 …………SNSでも始めようかな、私も。

 いや、止めよう。怖い、怖すぎる。イイネ怖い。


「大前、お前、見ない間に、そっち側についたのか?」


 寄ってきた山本が、止めた方が良いぞ、と、小声で椿に告げるが、私に丸聞こえだ。


「てか、山本、誰!?」


 私が驚きやら怒りやらのあまり、思わず山本をガン見する。恐らく私の眉間には皺が寄り、鼻息も荒いだろう。


 女王転校生そのものに、山本からは見えるに違いない。



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