必要なのは、友
お待たせ致しました!
引き続き、よろしくお願いします!
椿は、きっと何か知っているはずだし、解決策だって、きっと考えてくれる!
隣を学校へ向け、登校している紺を、横目に見るがニコニコとしているだけ。
全く、どうしてこんな執事が、Sランクなのだろう。
そして、昨日の、お母さんへの変わりよう。もう、恐怖するレベルだ。
今朝、紺とお母さんの何かが変わるのではなかろうか、という私の心配は、要らぬものだった。
二人の会話は淡々としていて、まるで何もなかったかのよう。変化はない。
ただ、紺からお母さんへの笑顔が増えた。
というか、笑顔になった。微笑むようになった。それはそれは、私にする様に。
「ん? 春子、何だか呆れてる? 僕、何かした?」
相変わらず、感だけは凄い。
こういうのも、Sランクと関係しているのだろうか。
「午前中は、執事禁止でしょ? せめて、影になっててね」
還れ、なんて言って、また駄々こねられても嫌だしな。
「えー、僕、春子をいつでも守れるように、このままが良い」
「駄目。還らせるわよ! 本当は還すところを、影にって、妥協してるんだから」
「えー、そんなー」
ぶつくさと、唇を突き出して私を見ている。
……そんな顔しても駄目。駄目なものは、駄目!
何か言う代わりに、心で訴えてみる。
「……けち」
心を通じて届いたらしい紺は、学校が見えるなり、私の影に入った。
学校が近づき、校内に入り、自分のクラスへ向かう。
その度に増え、何故か避けていく生徒。
ん、ん? 私、何かしたか?
私が進む度、周りの生徒が退いていく。それも、何かこそこそしている。
初日じゃあるまいし、紺を出してない。
なのに、この避けられよう……もしかして、私が知らないうちに紺、何かした?
問い詰めようにも、出すわけにはいかない。
私を見るなり、こそこそ、と話だし、距離を明らかにとる生徒まで。
な、なんなの!? いじめ? 泣くよ? 私、泣くぞ!
「春子、春子!」
こそこそっと足元から声がする。
周囲を見渡して、私のクラスである二年一組、クラス前の、廊下。それも、窓際へ。
ここなら一人でぶつぶつ言ってても、不自然じゃないよね?
なんか、たまにいるじゃん、そういう奴。
「何よ、紺?」
「あのね、僕、何だか春子が寂しそうで、悲しそうだったから、声かけちゃった……違う?」
うっ、何で、こういうのに敏感なんだ、こいつは。
確かに寂しくて悲しかったけれども!
誰かに声をかけて欲しいなって思っていたけれども!
「それは、そうだけど……」
「春子、僕はいつでもいるんだよ。春子の味方だよ。元気出して!」
「……うん、ありがとう」
そう言われると、少しだけ心が落ち着く。
紺って純粋というか素直というか、心から言ってるってわかるから、嬉しい。
「それに、僕が春子を……ん?」
言葉の途中で、紺の意識が別にいったのを感じた。
まるでどこか遠くを見ているような、そんな感じ。
「え、何、どうかした?」
「……来る。ほら、春子と昨日友達になった奴」
「椿のこと?」
「そう。もうすぐ来るよ。だから、落ち込まないで!」
「あ、ありがとう」
もうすぐ来るって、そんな事もわかるのか。
紺の気配が完全に無くなる。いや、影に徹しているだろう。
凄いな、と感心する。
だって、あの紺だよ? うるさいし、何かと言うこと聞かないで出てくるし。
あの紺が、こんな静かに、気配を殺せる。
やっぱりSランクなのだろう、と思える瞬間なのかもしれない。
………しかし、来ないな、椿。
かれこれずっと廊下で待っているのだが、全く来ない。
「ねえ、紺。もう十分くらいは、待っていると思うんだけど」
こそこそっと紺に、しゃがんで話しかける……が、無反応。
え、無視?
「え、ちょっと、紺?」
え、消えた?
いや、いるよね? たぶんだけど、いるよね?
だって二メートルしか離れられないんだよ? うそ、いるよね?
「え、ちょっと? もしもーし」
は? じゃあ、なに、無視? 主を無視するわけ、この執事は。
「おい、こら紺!」
怒りから、私は一際大きな声を、出してしまった。
しまった、と思ったときには遅く、他生徒との距離が、より深いものに。
私を避けるように、皆、教室側の、こんな端っこを一列で歩いてく。
え、うそ、私は汚物? 臭いの? 紺もいないし、もう帰るよ?
「春子、お、おはよう」
そこへ現れた救世主!
「椿ー! やっと来たー」
紺は、いったい何メートル先を見てたんだよ!
椿が寄ってきて、こそこそ、と、手招きして、私に小声で話しかける。
「春子、の、紺さんがSランク執事って本当?」
「え! 何で知ってるの、椿!」
私の驚きよりも、椿は少し眉間に皺を寄せた。
「やっぱり、噂、本当だったんだね」
「う、噂?」
椿によると、昨夜から今朝にかけて、SNSで私の執事がSランクという情報が、流れたらしい。
それも、数百イイネ。
この学校は特種なので、生徒数も決して多くはない。
一クラス三十人として、一学年、二クラス。
数百もの人が閲覧した、となると、ほぼ全校クラスレベルだ。
「……なるほど……え、だから私、避けられてるの?」
「みたいだね。Sランクって凄く少ないし、とても強いって……本でしか読んだことないの」
まさか、紺さんだったとは……と、椿は少し嬉しげに影を見つめる。
いやいや、また紺じゃん。
元凶、昨日は私の責任もあったけど、今回は百パーセント紺だよね。
私は軽く、影を踏んでみた。
本当に、軽くね。
「あれ? 大前? 久しぶりだなー」
椿の背後から、愉快な声をかけてきた男子生徒。
だ、誰?
「……あ、山本」
「ん? げ、その人、噂の転校生? Sランク執事扱う、初日からクラス全員を地に沈め、君臨したって言う、女王転校生?」
「じょ、じょ、女王? 女王転校生って何!?」
思わず椿を見る。
男子生徒こと、山本も見る。
何? 私、影でそんな言われてるの? 嘘でしょ?
目を会わせない椿は「そ、そんな噂、な、ないよ?」と言うけれど、明らかに目が泳いでいる。
…………SNSでも始めようかな、私も。
いや、止めよう。怖い、怖すぎる。イイネ怖い。
「大前、お前、見ない間に、そっち側についたのか?」
寄ってきた山本が、止めた方が良いぞ、と、小声で椿に告げるが、私に丸聞こえだ。
「てか、山本、誰!?」
私が驚きやら怒りやらのあまり、思わず山本をガン見する。恐らく私の眉間には皺が寄り、鼻息も荒いだろう。
女王転校生そのものに、山本からは見えるに違いない。