僕の春子※紺視点
紺 視点です。
いつもより、少し短めになってます!
読まなくても物語に影響はない、はず……。
次回からは、春子 視点に戻る予定です!
春子が、また考え込んでいる。
理由はよくわからないけど、僕の事であるのは確か。
それだけで、僕はちょっぴり嬉しかったりする。
「……紺、もうちょっと離れて」
春子がお風呂に入る直前、どんなに離れていても、必ず僕に言う台詞。
二メートルしか離れられない、と知った今でも、春子は必ず言う。だから僕も、昨夜と同じ台詞を口にする。
「これ以上は無理だよ」
「無理じゃないよ、頑張って!」
春子の為なら、頑張りたい。心ではそう思うが、生憎、僕一人でどうこう出来るレベルじゃない。
「大丈夫、僕、覗いたりしないよ! ここで音楽聞いてる!」
春子から借りた音楽プレイヤーを持って、笑ってみせた。
どうやら春子は、物凄く恥ずかしがり屋さんだ。
それに気づいたのは、春子の感情が分かるから、とかじゃない。ずっと、前から、僕は知っている。
だから、トイレとお風呂は、音楽を聴くように、僕から提案したのだ。
「……そこから動かないでね」
「うん! 約束する!」
笑顔で頷けば、少しだけほっとしたような、呆れたような、春子の顔。
脱衣場の扉が閉まり、僕は廊下に座る。春子がよく聞く歌を、イヤホンから流す。
たった二メートル。短い、不便な二メートル。
春子は、きっと、そう思っている。
でも、僕は違う。
二メートルという距離が、僕には心地いい。幸せな二メートル。
「主の強さが、執事との距離に影響を及ぼす」
以前、まだ春子に喚ばれる前、風の噂で聞いた。
そして「執事が強ければ、それもまた、影響を与える」とも。
だから、強い執事は、強い主を。弱い執事は、弱い主を、と。
これを知ってから、僕は強くなりたいと、願い、行動した。まだ小さい頃の、僕。
…………春子は、まだ知らない。
最近流行りの曲に変わる。確か、恋愛そんぐ、とかいうやつ。
僕は、春子を考える。
弱くて、脆くて、頼りない、僕の主様。
ゆっくりと、目を細めていく。
僕と、たった二メートルしか離れることが出来ない、貧弱な、可哀想で、可愛い春子。
僕が選んだ、大切な大切な、何にも代えられない、唯一の人。
…………僕だけの、春子。
ふと、歌がサビに入って、小さく口ずさむ。
ああ、これがセレナーデか。
春子にも、届かないかな、僕の美声。