マーガレット3
こんな事って。
どうして。
どうして。
最悪じゃない。
試合が終わった後、リチャードに会おうと急いで歩いていると舗装していない場所で足を取られた。
こんなヒールの靴を履いて来なければ良かった。
それに埃っぽいし。
本当に最悪。
また歩き出そうと前を見たら、賭け屋の店主がにこやかに声を掛けてきた。
「お支払いを頂きに参りました。」
あの時手持ちでは足りなかったけれど、勝つのは間違いないからと後で払うと言ったのだった。
「今日は手持ちが無いから、後日屋敷に取りに来てちょうだい。」
ふん。
どうせ市民がやってるくだらない商売でしょう。
払うわけないじゃない。
手持ちのお金だけでも結構な額を払ったんだから。
押しのけて行ことしたら強面の大きな男が二人、目の前に立ちはだかった。
「困りますね。うちは当日払いなんです。先程は奥様が必ず勝つとおっしゃったので特別に後払いにしましたが、」
店主はにこやかな表情を崩さず穏やかな声で話すが目が笑っていない。
怖くなって後ずさると
「おやっ、いいネックレスをしてらっしゃる。」
と言うとぐっと近づいて
「うちは、きちんと王家の許可を取って営業してる正式な店なんですよ。お支払いをして頂けないようでしたらご主人の職場へ請求するしかありませんね。」
なっ。
そんな事をされたら。
「払わないって言ってないじゃない。本当に今は手持ちが無いのよ。」
この場は何とか乗り切ってお義父様に相談しよう。
隠居なさったけど、きっと何とかしてくださるに違いない。
「現金が無理でしたら、うちは宝石でも構いませんよ。そのネックレスとか、あぁそちらのエメラルドの指輪も素敵ですね。それとも、ドレスになさいますか?裸で帰る勇気があればですけど。」
裸でなんて。
なんて事を言うのだ。
キッと睨み付けたが店主は飄々とした様子で
「奥様は賭け屋のルールをお知りにならないようで。」
賭け屋のルール。
そんなの知るわけないじゃない。
でも、どうしよう。
逃げられそうにはない。
本当に今、払わないといけないようだ。
ネックレスと指輪。
ネックレスは結婚の記念に両親が買ってくれたもの。
指輪は公爵家のお祖母様に頂いたもの。
この間指輪を調節に出した時に宝石屋からエメラルドは良い物ですが大きくない事や傷がある事から、価値はそれほどでもないと言われたばかりだ。
「分かったわ。指輪を渡すわ。」
指から指輪を抜くと、ぐいっと突き出した。
腹立たしい。
リチャードが負けるから。
「後日お金を持って行くから置いておいてよね。」
私は店主を睨みながら指輪を渡した。
「そうですね。ご用意が出来るようでしたらお待ちしていますよ。」
店主は大袈裟にありがとうございますと言うとやっと立ち去って行った。
それからリチャードを探して歩き回ったが、見つからなかった。
ついに足が痛くて立ち止まった時、一際大きな歓声と拍手が辺りを包んだ。
会場の中心を見るとローズと以前ローズと一緒にいた騎士団の男が幸せそうに笑いあっている。
えっ?
プロポーズ?
なんで。
どうして。
こんなの夢に見てない。
こんなの私は知らない。