教室にて
私は教室で授業を受けながら、ぼんやりとヒロインのリナを観察していた。
今日もリナは相変わらず、ヒロインの口調でヒーロー達に話しかけていた。
ヒーロー達は、誰一人、まだ一言すらリナとは交わしていない。
注意や叱責すら。
それでも全く堪えた様子が無いのは、リナにとっては、この世界は、遊び終わったら帰れる虚構の世界だからだ。
たとえ思い通りに行かなくたって、崇拝する那波の絵を3Dで堪能できるから良いか、くらいの軽さだろう。
だから、この世界で魔力無しなんて死ぬより厳しい罰ゲーム人生でも、絶望も発狂もしない。
だけど、リナには帰る場所は無い。
帰る体と言うべきかな。
リナの前世の体は、既に死んで火葬されて埋葬済だ。
そう。前世なのだ。
今のリナは、リナにしかなれないし、リナとして生きて死ぬしかない。
リナに真実を告げるべきだろうか。
私が何を言っても、リナは信じないだろう。
私の方が先に死んでいるのに、「お前の体は死んで火葬埋葬済だ」と言っても信憑性ゼロだ。
かと言って、那波か木之内に言ってもらっても、彼らは生きたままでこの世界に来ていて、こちらで何年過ごしても本体にとっては一晩の夢に過ぎないのだから、リナは自分もそうだと思うだろう。
大体、那波も木之内も奴に情けをかけるようなことは、絶対にしない。
それは断言できる。
那波も木之内も小玉も、それぞれ癖は強いけど私にとっては『いいヤツ』だし『最高の友達』だ。
だけど、あの三人が人間味を見せるのは、仲間内限定だ。
彼らが仲間と認めていない、むしろ、仲間である私を殺した男が転生したリナが、どんな人生を送ろうが、不幸であるほど冷笑を浮かべながら美味い酒でも飲みそうだ。
リナが幸せになろうものなら、積極的に潰しに行くくらいするかもしれない。酒の肴にするため、とかいう理由で。
彼らはこの世界で、きっと大抵の私の頼みは聞いてくれる。
けど、彼らにだって、譲れないものは当然ある。
私の自己満足のために、彼らを歪めようとも思えない。
「スノウ。次は移動だよ」
フェルに声をかけられて、もう他に誰もいないことに気がついた。
「リナのことを心配しているの? 君を殺した相手なのに」
フェルが背中から私を抱きすくめる。
「罪に対して過剰な罰は望まないよ」
「スノウは、優しい」
少し拗ねたような口振りに、私は思わず笑った。
「私がもし優しいなら、それは私が幸せだから」
「スノウは幸せ?」
「うん。自分が不幸に塗れているのに優しい人間は、物凄い馬鹿か物凄い悪人だと思う」
「馬鹿は分かるけど、悪人?」
「不幸に塗れながら人に優しくできるくらいの嘘つき。その嘘を、他人にも自分にも、つき通せるような残酷な人間」
フェルは背中から私の頭に顔を擦りつけて、切なく私に懇願する。
「スノウ。絶対に私と結婚して。スノウが選んでくれるなら、私は人に優しくできる」
人に優しくできる幸せな王子様。
それは素敵だ。
「フェル。私はあなたを選ぶから。不安にならないで?」
小さく「うん」と呟いたけれど、フェルはしばらく私を放してくれなかった。




