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キースの中の那波

「なぁ、スノウさんや」

「なんだね、キースさん」

「その状況の説明を求めてもいいかな?」


 研究室に入って鍵をかけ、当然のように私を膝に乗せてソファに座ったフェルの前に居る、キースとヨアヒムの視線が痛い。

 まぁ、小玉の意思でフェルが動いていると思ってたらビックリするだろう。

 授業中や食事中は、さすがに普通に座らせてくれるけど、それ以外はサロンでもカフェテラスでもベンチでも、フェルは私を膝に乗せて座る。

 入学して一週間も経っていないのに、既に学院お馴染みの光景になっている。


「小玉がフェルを抑圧し過ぎた反動だと思うよ」

「どういうことだ? フェリクスの意思に小玉が引きずられてるのか?」

「今、フェルの体の主導権はフェルが取り戻していて、小玉はフェルの中で考え事してるらしい」

「はああ!? 俺達が表に出てキリキリ働いてる間に小玉は呑気に考え事かよ!」


 いや、小玉も自主的に引っ込んだわけじゃないから。

 でも、小玉がちゃんとフェルと折り合いをつけていれば、フェルも強硬手段は取らなかった気はする。


「フェルが小玉の記憶とか知識は引き出せるから、当面は困らないよ」

「まぁ、お前が困ってねぇならいいけどよ」

「で、キースとヨアヒムのことを知りたいんだけど」


 私が言うと、二人は目配せをして、キースが先に話し始めた。


「俺は、キースの18歳の誕生日の少し前にキースと接触した。誕生日に魔王として覚醒して魔力暴走で恋人を殺すこと、俺にはこの世界に不幸な死を迎える前提で転生させられた友人がいること、俺がその友人を助けるのを手伝うなら、魔王になっても何とか生きて行けるようにしてやると説得して、キースに俺の意思を組み込んだ」


 那波の方が宿主とマトモな交渉をしている気がする。


「この世界の平民の18の誕生日は成人になる日なんだな。結論を言えば、成人した瞬間、キースは魔力暴走を起こして魔王として覚醒した」


 やっぱり、そこは確定だったのか。


「結婚を約束した恋人は殺してねぇけどな」

「ヘ?」

「魔力暴走起こす日時がハッキリしてたんだから、わざわざ恋人と過ごして巻き込む必要が何処にある?」

「ああ。無いね」


 言われてみればそうだけど。

 そんなアッサリ回避できるのか!


「恋人とは別れたけどな。惚れた女を魔王の嫁には出来ねぇ、ってキースが言うからな。ま、仕方ねぇだろ」


 うーん。ゲームのエンディングが終わるまでは、何に巻き込むか分からないから「仕方無い」かもしれないけど。

 それ、別れた彼女はどうなのかなぁ?


「私は、相手のことが好きだったら、魔王だからサヨナラとは思えないけどな。キースはちゃんと彼女と話し合った? キースが彼女に魔王だから怖いとか嫌いとか言われるのが嫌で、別れて逃げたんじゃないの?」

「うっわ、俺がキースが気の毒で隠してた正論を言いやがった! 容赦ねぇ!」

「いや、甘やかして後悔する羽目になるのも気の毒だよ?」


 キースのことを、私とキースで他人事のように話す。


「あー、キースのヤツ、かなりショック受けたぞ。最近図太くなって来たから、すぐ浮上するだろうけど」

「最初は違ったの?」

「ガラスのハートだったな。俺が何度も打ち砕いて鍛え直してやった。魔力暴走なんざデンと構えてりゃ起きねぇんだよ」


 相変わらず自信満々の俺様だよな。


「ところで、平民のキースがどうして学院の教師になれたの?」


 設定でもシナリオでも、その経緯は出て来ないけど、現実ではすごく不自然だ。


「俺がキースの中に入らなければ同じ生き方は絶対してないとキースは言うんだがな。せっかく魔王になったんだから、何が出来るか試してみたくなるもんだろ? あちこちで暴れる魔物を支配下に置けるか、魔王様漫遊記を楽しんでみたんだ」


 魔王様漫遊記。何その気楽な響き。


「さっすが魔王様だよなー。世界中の魔物が俺様の命令通りだぜ。そんで、人里で暴れねぇようにに管理して、絶滅はしねぇように生態系は維持してたら、魔物研究の第一人者として、この学院に招かれた」


 何その結果オーライなラッキーマン。

 でも、那波らしいか。

 那波は口の悪い俺様だけど、自分が楽しむことと人が喜ぶことが大好きだ。

 それにしても、魔物が命令通り。てことは。


「ねぇ。カイルのスチル、魔物だよね?」


 カイルに起こる悲劇は、お母様が魔物に蹂躙されて殺される。

 魔王がこちらの味方なら、魔物に命令できないかな。


「視察に行く場所がハッキリ分かれば、魔王な俺がどうにか出来るだろうな」

「それはこっちで調べる」

「おう。この力が人助けになるならキースも嬉しいからな」


 那波はキースの願いを叶えたいんだな。

 私の腰に回したフェルの腕が、キュッと輪を小さくしたけど、フェルに入ったのが那波だったら、王子様がご乱心したと大騒ぎになったと思うよ。

 有能で冷静で残酷な判断も出来る王子様役は、小玉じゃないと出来なかったと思う。


 フェルの腕をポンポンと叩いて、私はキースが学院で起こす魔力暴走について訊く。


「キースは魔力暴走を学院で起こすと思う?」

「ねぇだろうな。だが、リナはせっせとキースに話しかけてるからなぁ。スチルはキースの魔力で学院の一角が壊れる絵だ。台詞にハッキリ魔力暴走とは出て来ない。俺が魔法で学院を壊す何事かが起こるのかもな」


 今のキースを見ると、その説の方が納得できる。

 モスグリーンの長い髪に明るいベージュの瞳の好青年。

 この世界の魔王がどんな立ち位置なのかは、私の学んだ内容では知り得ないけれど。

 邪悪な存在には見えないし、不幸が似合うようにも見えない。


「那波はキースを支えていて。異変があれば教えてくれる?」

「おう。任せとけ」

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