表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/21

#9 手配

僕ら3人は、建物の外に飛び出す。すぐ隣の建物の上に、崩れた煙突がのしかかっている。その真下では、2人の男が必死に扉をこじ開けようとしている。


「くそ……なんて硬いんだ……開かねぇ……」


だが、上からのしかかった煙突によってそのレンガ造りの建物は歪み、扉が開かない。しかもその黒煙をあげる大きな煙突の重みが徐々に建物を潰し続けていた。


「おい!ヤロミール!そこから離れろ!危ないぞ!」

「な……何言ってるんだ……中にはまだ人が!」


それを聞いたオーレリアが、その男達の元に向かう。


「お、おい、オーレリア!そっち行っちゃダメだ!」


彼女が何をしようとしているか、大体察しがついた。が、ここであれを使ったら、彼女はどうなるのか?しかしオーレリアは僕の制止など聞かず、その建物の壁に手をついた。


「おい馬鹿!嬢ちゃん!すぐ離れるんだ!」


しかし、オーレリアは離れない。そしてついにオーレリアは、自身の持つ力をそこで発揮する。


ガタガタと揺れる建物。あのガラスの腕輪をはめたオーレリアの腕が少しづつ挙がる。オーレリアの手に張り付いたように、建物も動く。

いや、しかし……いくらなんでも、動きすぎではないか?

高さは5メートル以上、幅、奥行きが4、50メートルはあろうかというそのレンガ造りの建物は、地面から剥がれ始める。一部ではない、上に乗った煙突ごと、オーレリアはその赤褐色の建物を丸ごと持ち上げてしまった。

唖然とする職人たち。オーレリアが持ち上げた建物の下から、3人ほどの人が現れる。しかしこのありえない光景を前に、彼らは茫然と立ち竦んだままだ。


「早く!今のうちに!」


オーレリアの叫び声で我に返った中の3人は、大急ぎで建物の下から退避する。それを見届けたオーレリアは、持ち上げた倉庫を下ろす。

ガラガラと音を立てて崩れるレンガ造りの倉庫。もうもうと土煙が舞い上がり、オーレリアの姿が見えなくなる。


「オーレリア!」


その土煙の向こう側から、人影が現れる。土まみれになったオーレリアが、姿を現す。


「よかった……無事だったか?」

「う、うん、なんとか……」


思わず僕は、オーレリアを抱きしめる。力を使い果たした彼女は、僕にしがみついてうな垂れる。とんでもない事故だったが、奇跡的にけが人もなく、倉庫の中に積まれたガラス製品だけが犠牲となった。


そんなオーレリアを抱きしめながら、僕は一つ、気がかりなことに気づく。

確かオーレリアが出せる最大力は、10トンだと言っていた。しかし、素人目に見てもさっきのは10トンどころではない。

しかし彼女は、難なく持ち上げてしまった。どうしてあれだけのものを、彼女は持ち上げられたのだろう?まさか、火事場のクソ力ってやつか?

いや、今はそれ以上に憂慮すべき問題がある。


この事故の結果、彼女が魔女だということが、バレてしまった……


◇◇


日がすっかり暮れた帝都の市街地の一角。ある高層アパートの14階の一室に、3、4人の男らが駆けつける。

彼らはその部屋の前に立つと、銃でドアの鍵を撃ち抜き、そのままドアを蹴破るように開けた。銃を構えながら明かりを点け、男達は中に入る。

玄関すぐの事務机の部屋、その奥の寝室、そして物置き代わりの部屋が乱雑に物色される。が、そこには誰もいない。

ただ、事務机の上にあるテレビだけは、つけっぱなしだった。そのテレビが、3人の顔写真と共に臨時ニュースを伝えている。


『……なお、地球(アース)513政府は、この3人を発見した者に300ユニバーサルドルの懸賞金をかけると表明しました。引き続き、目撃情報を集めております。この3人を見つけたら、直ちに以下の連絡先に……』


だが、そのテレビ以外には動くものは全く見当たらない。男の1人が、吐き捨ているように言う。


「くそっ!どこに行きやがった!?」


その場に1人を残し、男達は部屋を出る。


同時刻。場所は、帝都バルドゥヴィザ宇宙港の、第133エリアにある小さな宇宙船の前。

その宇宙船の周りには、10人以上の警備員が取り囲んでいる。

その宇宙船に、3人がかりで大きな台車を引く一団が現れる。


「おい!止まれ!」


警備員らは、この一団を制止する。男の1人が、警備員に応える。


「なんじゃい、わしら、荷物を運んどるんじゃ!邪魔せんでくれ!」

「おい、お前らは誰だ!?」

「わしらか!?わしらは帝都モラヴィアン・グラス振興協会の工房の者じゃ。」

「なんだってこんなところに、ガラス職人が来るんだ!」

「この船の主に頼まれていたもんを、船まで届けに来たんじゃ。」

「お前……この船の主がどういう連中か、知ってて言っているのか!?」

「知らねえな。ただ、そいつから金を受け取り、ここに運ぶよう言われとるんじゃ。その契約を忠実に果たしとるだけじゃわい。」

「……その荷物、(あらた)めさせてもらってもいいか?」

「ああ、いいぜ。よく見るといいさ。ほれ、一つ一つ丁寧に見せてやるかな。例えば、このコップにはモラヴィアン・グラスのカッティング技法が確立されたばかりの200年前に、当時のバルデチョフ王国に献上された際のラココカットと呼ばれる模様が彫られておってな……」

「ああーっ!もういい!分かったから、さっさと仕事を終わらせて立ち去れ!」

「……なんでぇ、これからが面白いところだっていうのに、我慢が足りねぇなあ、おめえさん方。」


ぶつぶつと言いながら、その宇宙船に台車を寄せる3人の職人達。その時、宇宙港内に警報が鳴り響く。


「おい!こちら第133エリア!どうした!?」

『現れた!あの3人が、ガラス工房の近くにいるとの通報があった!防犯カメラも、奴らを捉えている!直ちに工房に向かえ!』

「了解!」


宇宙船の周りにいた警備員達は、慌てて宇宙港のロビーの方へと走り去っていく。警報音はまだ、鳴り響いている。

警備員らが去った後も、船に荷物を積み込む3人の男達。それを宇宙船の荷室の奥に入れると、荷物のてっぺんを叩く。そして男の1人が、呟くように言った。


「おい、もういいぜ。」


◇◇


遡ること、2時間前。

僕とカシュパル、そしてオーレリアは、帝都の郊外に向かって走っていた。


「はぁ、はぁ……」


テレビで僕らが指名手配されていることを知った途端、僕らは一目散で飛び出す。遅かれ早かれ、僕の部屋にも警官か軍隊が押し寄せてくるだろう。


「なんてことだ……やっぱりあの工房に、通報したやつがいたんだ……」


薄暗い市街地を、僕らは宛てもなく走る。


「ちょ……ちょっと……待って……」


だが、さすがにオーレリアが参り始めた。ぜいぜいと息が上がっている。仕方なく僕らは、街路樹の脇に身を隠す。

ああ、なんと言うことだ……どうしてこうなった?やったことといえば、オーレリアが人助けをしたことぐらいだ。だが、それが仇になった。


困ったな……このままでは、地球(アース)760に向かうどころではない。おそらくもう、僕らの船も監視下にあることだろう。もはや捕まるのは時間の問題だ。この星にいる限り、逃げ場などない。

諦めムードになりかかっていたその時、街路樹の影から、誰かが顔を出す。


「おう、いたいた。」


それは、あの工房のぶっきらぼうな親父だった。僕らは身構える。


「……あんた、俺らが手配されてるってこと、知ってるんだろ?」

「ああ、知っとるよ。どのチャンネルでも、みーんなあんたらのことばっかり流しとるからな。知らんわけねえだろう。」


ということはこの親父、僕らにかけられた懸賞金目当てに、僕らを探してたってことか。


「そんなところにおっても、しょうがないじゃろう。こっちに来い。」


手招きする工房の親父。僕らはこの時点で、逃げるのを諦める。どうせ逃げ場がないのなら、この親父に捕まった方がマシだと考えた。そして、そばにあった車に乗せられて、あのガラス工房に着く。


「ん~!んまい!」

「よう食うな、嬢ちゃん!ほれ、もっと食え。」


僕らが最初に訪れた、工房の店舗用の建物に僕らは連れて来られた。そこで僕らは食事を出される。

ああ、これがシャバで最後の晩餐になるのかなぁ……きっと僕らは拘置所に入れられて、オーレリアと別々にされてしまう。なんだか、彼女をこの星に連れてきてしまったことを、今更ながら後悔する。


「で、これからどうする?」


親父が、僕ら3人に問いかける。カシュパルが応える。


「いや、どうするって……この星にいる限り、逃げ場はないよ。」

「なんでぇ、あんたら交易商人じゃねえのか?船はあるんだろう?この星から逃げ出せばいいんじゃねえか?」


意外な提案を受ける。この親父、まさか僕らを逃してくれるつもりなのか?だが、カシュパルの言葉は、この親父に厳しい現実を語る。


「いやあ、船ならもう、とっくに押さえられてるはずだよ。誰だって、僕らがあの船で逃げ出すことくらい想定するだろう。近づいたら最後、僕らは船を前にして捕まるだけさ。」


そういうと、親父はこう返す。


「まあ、それくらいなら何とかなるだろう。」


自信満々だなぁ……テレビの全てのチャンネルで手配されてる僕らが、逃げ出せる余地なんてどこにあるのか?


「船にたどり着き、その監視をどうにかすりゃあ、あとはどうにかできるかい?」

「ま、まあ、何とかなるだろうけど……」

「そうか。じゃあ、あんたらの船までは何とかして運んでやる。」


親父はそう言うと、仲間と共に建物を出る。その後ろ姿を、ポカンと見つめる3人。


「ねえ、もしかしてこれから、大脱出するの!?」


なんだか嬉しそうだな。さっきまで走り過ぎてヒーヒー息を切らせていたやつが、何を心躍らせている?


「あのなぁ……脱走って、それほど簡単なことじゃないんだぞ?下手をすれば、3人共船ごと沈められるんだぞ?」

「ええ~っ、だって、私を捕まえたくて追っかけてるんでしょう?だったら、沈めるはずがないじゃない。」

「捕まえられないと悟れば、やつらは躊躇いもなく沈めるさ。」


シビアな未来予測ばかりが思い浮かぶ。確かに、無事に船に乗れたところで今度は防衛艦隊1万隻が相手だ。ローンだらけのこの40メートルの船が、軍船相手に逃げ切れるとは到底思えない。

それ以前に、あの船にたどり着くことすらできるかどうか……


「おう、待たせたな。」


と、そこに親父が現れた。何やら大きな箱が置かれている。


「これに入ってろ。あんたらの船まで運んでやる。」


箱の中を覗くと、真ん中を除いて、ガラス製品がぎっしりと詰められている。


「あの、これは……」

「あんたらに納める予定だった品だ。元々、これをあんたらの船に納めることになっていた荷物だよ。」

「……てことは、荷物と一緒に、僕らを運んでくれるってこと?」

「まあな、そういうことだ。」


それを聞いて、僕は工房の親父に尋ねる。


「で、でも、船には監視がいるはず。うまく運び込めたとしても、彼らがいる限り、発進できない。どうすればいいんですか?」

「向こうに着いたところで、工房から通報するんだ。あの3人が見つかったって。そういえばやつら、こっちに向かってくるはずだ。手薄になったところで、あとは上手く逃げな。」

「でも、偽の通報だってバレたら……」

「大丈夫だよ。この先は深い森がある山地だ。あの中に逃げたとでも言っときゃ、どうとでもごまかせる。あんたらが逃げ切るくらいの時間稼ぎにはなるだろう。」


なんだか逃亡の手助けに慣れているような口ぶりだな。何者なんだ、この親父は?


「……分かった。それじゃあ頼む。」

「あいよ。それじゃあ行くぜ。」

「ちょ、ちょっと!何だって見ず知らずの僕らを、そんな危険を犯してまで助けてくれるの!?」

「はぁ?決まってるだろう。仲間の命の恩人だからだよ。嬢ちゃんの力がなかったら、あの3人は間違いなく死んでいたからな。」


そして、箱の方に手招きする親父。乗り込む僕らに、親父はこう語る。


「3人ていっても、ただの3人じゃねえんだ。このモラヴィアン・グラスの伝統を守るために、何十年もずっと一緒にやってきた仲間なんだよ。1人でも欠けたら、この工房はおしまいだ。そんな工房を守ってくれたんだ。恩返しするのは、当然だろう。」

「で、でも、オーレリアがあの力をここで使ったから魔女だってバレたってことは……」

「ああ、どうやらあの場にいた運送屋のやつが通報しやがったんだよ。今度会ったら、とっちめといてやる。俺らは、あんたらの味方だよ。」


そして僕らは、あの箱の真ん中に入る。周りには、僕らが買い上げたモラヴィアン・グラス製品がぎっしり並ぶ。


「じゃあ、行くぜ。」


そして、箱の蓋は閉じられた……


◇◇


「上手くいったな。」


親父がそう呟く。3人はゴソゴソと箱から這い出る。


「ええ、ありがとうございます。」

「ありがとう!」

「いいってことよ。だが、こっから先はあんたら次第だ。残念だが、これ以上は助けられねえ。」

「分かっている。後はなんとかするさ。」

「じゃあ、元気でな。地球(アース)760に、俺らのモラヴィアン・グラスを無事届けてくれよ。」


手を振る親父。僕らも手を振って応える。そして、荷物用のハッチを閉じる。


「それじゃあ、行くか。」

「カシュパル、行くっていっても……まず、どうやってここから発進するのさ?ちょっとでも上がれば、すぐにバレるよ。」

「いや大丈夫だ。こういう時、小さな船は都合がいい。」


そう言って、カシュパルは暗い夜空を指差す。ちょうど大型の民間船が、まさに発進しようとしていた。全長は1000メートルはある。浮上しつつあるその船を指差しながら、カシュパルは言う。


「あれの影に隠れて、高度4万メートルまで行くんだ。」

「ええーっ!?そんなのすぐにバレるんじゃあ……」

「いくぞ!チャンスは今しかない!」


カシュパルは、機関を始動する。ババババッとけたたましい音と共に、機関が動き出す。と、同時にカシュパルはスロットを引き、船体を浮上させる。


「ヘルヴィナ号、発進!全速前進、ヨーソロー!」


ヨーソローじゃねえよ。こんな危なっかしい出航は初めてだ。カシュパルはこの船を急上昇させ、あの大型船のどてっ腹にコバンザメのように寄せる。

そのまま大型船に合わせて、上昇を続ける。遅い大型船に合わせるのは一苦労だが、苦労の甲斐あって、なんとかバレずに高度4万メートルに達する。


「さーてと、ここからはもう隠れられねえ。一目散に逃げるぞ!」

「に、逃げるって、どこに……」

「両舷前進いっぱーい!ヘルヴィナ号、大気圏を離脱する!」


大型船の陰から、勢いよく飛び出すヘルヴィナ号。あの大型船が、みるみる離れていく。


『おい、識別不明船!応答せよ!』


管制塔のレーダーが、僕らを捉えた。いきなり現れた不明船に、確認を求める無線が聞こえる。だが、そんな管制塔の呼び方を無視して、僕らは宇宙に飛び出した。


「ああ……まだローンがたっぷり残ってる上に、お尋ね者にまでなってしまった……これからどうしようか……」


僕がぼやくと、カシュパルがこう言い出す。


「なんだ、お前まだそんなこと考えてたのか?」

「なんだよ……なんだ、そんなことって。」

「よく考えろ、この星に戻ることはないから、ローンのことはもう考えなくていいぞ!」

「えっ!?あ、そうか……言われてみれば、その通りだな。」

「ただし、ここから逃げられたら、の話だ!」


こうして僕らは、地球(アース)513を出発……いや、逃げ出した。家族と思い出、事務所にローン、そして、あのモラヴィアン・グラスの工房の人達がいる地球(アース)513に、別れを告げて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ