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#11 魔女とモラヴィアン・グラス

「魔女とは、一言で言えば、重力子エンジンだ。」


いきなり自分の妻やオーレリアのことを、エンジン呼ばわりし始めたぞ、マイルズ艦長は。


「あの……それはどういうことですか?」

「言葉通りだよ。重力子を操る能力を持つ者、それを魔女と、この星では呼称している。」

「はぁ……」


艦長の口から語られた魔女の秘密は、突拍子もない話だ。重力子を操る人間だって?どういうことだ。


「だから、物を握ることなく触れた対象を宙に浮かしたり、あるいは自分自身を浮かび上がらせることができる、と。」

「そうだ。」


マイルズ艦長の言葉の意味を、カシュパルは理解したらしいが、僕は今ひとつしっくりこない。


「あの……魔女が重力子を制御するっていうことはなんとなく分かるんですが……それがどうして、連盟側に連れて行っちゃいけないとか、軍事技術への転用につながるとか、そういう話になるんですか?」

「なんだ、分からないのか?」


僕はマイルズ艦長に素朴な疑問をぶつける。が、なんとも冷たい反応が返ってくる。いや……分からないから聞いてるんだが。


「それじゃあ聞くが、重力子エンジンってやつは、どうやって動いているのか、知っているか?」

「それは……なにせ膨大なエネルギーが要る機関なので、核融合炉とセットで動かしてますね。我がヘルヴィナ号もそうですけど。」

「そうだ。核融合炉の莫大なエネルギーなしには、重力子エンジンは動かせない。これは連合、連盟のどちらでも常識であるはずのことだ。だから、重力子エンジンは小型化が不可能、せいぜい航空機サイズ程度が限界だと言われている。」

「え、ええ、そうですね。でも、それが何か?」

「だが、考えてみろ。魔女の体内に、核融合炉はあるか?魔女は、航空機サイズか?」

「あ……」


この一言で、僕にもピンときた。ああ、そうか。そういうことか。


「魔女だからと言って、核融合炉並みのエネルギーを生み出す何かを持っているというわけではない。普通の人間と、ほとんど変わらない。にもかかわらず、彼女らは重力子を制御することができる。これがどれだけとんでもないことか、交易商人にも分かるだろう。」

「ええ、確かに。」

「だが、その原理は未だ謎のままだ。我が地球(アース)760に魔女は何万人も存在するというのに、未だにその力の根源が解明されているわけではない。それが魔女という存在だ。」

「はぁ……」

「だが10年ほど前、その魔女の力の片鱗をある学者が解明した。その研究の成果として、連合側の重力子エンジンに画期的な進化がもたらされたのだ。それまでの3倍から5倍のエネルギー効率を誇る重力子エンジン、改良型重力子エンジンと呼ばれるものが生まれた。」

「えっ!?そうなんですか!?そんなものがあったなんて……」

「そうだ。それゆえに我々の艦艇は、連盟側の艦艇に比べて高速移動が可能となった。これがもたらした戦術的効果は、連合と連盟との間の軍事バランスを崩しつつある。」

「は、はあ……そうなのですか。」

「ごく一部が分かっただけで、我々の軍事技術は大いに発展した。だから、もしも魔女の力の全貌が解明されてみろ。それがどういうことにつながるのか、いうまでもないだろう。」


僕の中で、魔女と軍事技術、この2つが初めてつながる。


「……だから地球(アース)513は、オーレリアを狙ったんですか。」

「その通りだ。我々の改良型重力子エンジンの秘密を握る存在である魔女を拉致して研究し、同じものを作り出そうと彼らも考えている。それゆえに、これまで何度も魔女を拉致されそうになり、それを防いできた。ゆえに、魔女の連盟側への連れ出しは禁止されている。その理由は、お前らもその身でよく理解したところだろう。」


全てのことが、僕の中でつながる。なぜ地球(アース)513は、オーレリアを捕まえようとしたのか。事実を知ると、僕は自身が犯した罪の深さを知る。


「……で、話を少し変えよう。さっきの腕輪の話だ。」

「は、はぁ……あの腕輪が、何か?」

「あの腕輪をはめた途端、オーレリア殿もミレイユも、異常なまでの魔力を発揮した。これがどういうことか、分かるか?」

「ええと……つまり、あの腕輪が魔女の力を増幅したと……」

「そう、魔女の力を強化できる物質ということは、つまり重力子エンジンをより強化できる可能性がある物質、ということになる。この意味も分かるか?」

「あ……」


マインズ艦長のこの言葉で、さっきの実験の意味を悟る。オーレリアとミレイユさんのこの2人の魔女で、同じように魔力増強の効果が得られた。ということは、すなわち、モラディアン・グラスの持つ潜在的な可能性は、先ほどの改良型重力子エンジン並みの画期的な何かをもたらしてくれる可能性を示唆している。


「……この事実は、まだ連盟側には知られていないな。」

「ええ、それはもちろん。なにせ、僕らもこのガラスの力を今、知ったくらいですし。」

「そうだったな。とにかく、このガラス細工は、我々にとって魔女に匹敵するほどの宝となりうる。これを持ち込んだという一点だけでも、お前達の亡命理由には十分だろう。」


知らない事とは言え、僕らはとんでもないものをこの地球(アース)760にもたらしたことになる。何の変哲もないこの青いガラス細工、まさかそんなものが、連盟と連合の間に成り立つ軍事バランスを、大きく崩しかねない力があるなんて……


「にしても、気になるな。」


と、突然、マイルズ艦長が呟くように言う。


「な、何がですか?」


まだ何かあるんだろうか?まだ亡命できたわけでもなく、未だ連盟側の人間でありながら、軍事上の秘密に触れてしまった僕としては、マイルズ艦長の一挙手一投足に神経を尖らせざるを得ない。


「あの2人だ。」

「あの2人って……ミレイユさんと、オーレリアですか?」

「そうだ。」


僕は艦長の目線の先に目を移す。そこにいたのは、腕輪をまじまじと眺める2人の魔女だ。


「あのガラス製の腕輪は、確かに宝には違いない。が、所詮はガラスの腕輪。あそこまで執着するほど絢爛豪華な装飾品には見えないのだが……」

「そうですね。僕も地球(アース)513にいた時から気になってたんですが、なぜかオーレリアのやつ、モラヴィアン・グラスに対する執着が激しくて……」

「うーん、そうなのか……まあ、その執着のおかげで、このガラスがここに持ち込まれたのだがな。いずれにせよ、ここには2人しか魔女がいない。だから、先ほどの魔女の力の増幅については、まだ仮説に過ぎない。より多くの魔女を使った検証をする必要がある。」

「はぁ……そうですよね。ならば、どうするんですか?」

「そうだな……戦艦ヴェルニーナに向かうか。」

「戦艦……ですか?」

「そうだ。我が防衛艦隊所属の戦艦で、ダニエル中将閣下が指揮する艦だ。」

「あの……どうして、その戦艦なのです?」

「そこは我が艦隊で、もっとも魔女を抱えた戦艦だからだ。」

「……戦艦に、魔女?」

「そうだ。あそこには、魔女特殊部隊が存在する。

「えっ!?特殊部隊!?魔女のですか!?」


またまた驚くべき事実が発覚する。地球(アース)760には、魔女の特殊部隊があるらしい。僕の中にある、子供の頃読んだ絵本の魔女のイメージが、ここでも崩されていく。


「そういうわけだ。戦艦ヴェルニーナに入港できないか、交渉してみる。暫しここで待て。」


といって艦長は、会議室を出る。


「……ハヴェルト、なんだか、大事になってきたな。」

「ああ、そうだな。」


カシュパルもまさかこんな展開になろうとは予想していなかった。だが、僕らの亡命には、あの偶然買い付けたモラヴィアン・グラスが、こんなところで役に立つとは。


「……へぇ~、連盟の星で、そんなことがあったんだ。」

「そうよ。私がいなかったら、その3人は死んでいたわ。」

「すごいじゃない!危険を顧みず、人助けをするなんて、魔女の鏡じゃない!」

「そ、そんなことないわよ!あ、当たり前のことなんだから!」


一方その頃、オーレリアとミレイユさんは、地球(アース)513でのあの事故の話で盛り上がっていた。オーレリアは当然の行為だと言っているが、ミレイユさんから持ち上げられて、まんざらでもない表情をしている。


「いやあ、本当に凄かったですよ、あれは。僕も建物の上に煙突が乗っかかっているのを見た瞬間、ダメかと思ったくらいですから。」

「へぇ~、そうだったんですか。やっぱり能力のある魔女は違うわねぇ。羨ましいわ。」

「ちょ……ちょっと!ハヴェルトさん!あまり盛らないでよ!」


顔を真っ赤にして抗議するオーレリア。彼女にはしょっちゅうからかわれてるから、そのお返しの意味も込めて、少し大袈裟に持ち上げてみる。


そんな2人の魔女のやり取りにちょっかいを出していると、艦長から僕らに伝言が届く。

戦艦ヴェルニーナは現在、ホウキ座γ星に移動中、駆逐艦8893号艦およびヘルヴィナ号は、現宙域にて待機せよ、と。

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[良い点] 一山当てるだけのはずが、国家レベルの厄介ごとひきあてた?下手したら"いなかった"ことにされるんじゃない?!
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