【この幽霊、天然だなあ。どうしてそう思った?】
次の任務は遊園地を可動させるための神殿の復旧ということだ。
ヤコウト領のアミューズメント施設は本当に豊富である。
遊園地の回復後は、みんなで遊ぶ事になっている。
なんでもお化け屋敷が特にオススメとか。
女性陣は当然怖がるに違いない。
俺はオカルト的なものは全く興味がない。
お化け屋敷のようなものは少しも怖いと思ったことがない。
つまり、みんなから抱きつかれること必至というわけだ!
フフフ、大喜利をするだけでこの役得。
ビバ異世界!
ビバ大喜利!
さぁ~って、楽しい任務を遂行しようじゃあないか!
俺はこれ以上ないほどやる気満々で、遊園地の隣りにある神殿へと入った。
【お題】この幽霊、天然だなあ。どうしてそう思った?
またもタイミングのいいお題というか。
お化け屋敷に向かう前に幽霊で笑っておくことになるとはな。
「幽霊? って何でしたっけ」
スヮクラが小首をかしげた。
「日本における死人の怨霊みたいなものですな。実体は無く、埋葬時の衣服を着ており、足が無いのです」
アールァイの説明は、俺がするよりわかりやすいかもしれない。
知ってて当然のことは説明しずらいものである。
「なんか怖いですっ」
あわわわ、と口を震わせるカーネモット。
そうだろう、そうだろう。
怖いものなのですよ、フフフ。
「大喜利としては、怖いものである幽霊に天然という要素が加わってコミカルになるっていうお題だよ」
よくわかりましたとばかりに、ポンと手を打つスヮクラ。
「天然っていうのはユーキィみたいな人ですよね」
「なっ、私は天然じゃないぞ」
残念だが、ユーキィ。
天然の人はみんなそう言うのだ。
じゃ、俺からお手本いこうか。
【お題】この幽霊、天然だなあ。どうしてそう思った?
【答え】「恨めしや」の言い方がヒップホップ
YO! YO!
エビバデセイ、う~らめ~しYA~!
ってな感じ?
亡くなった奴らは大体友達、とか歌うんだろうかね。
全く怖くなくなりますね~。
「へ~」
「ふむ」
結構面白いと思ったけど、みんなの反応はイマイチ。
恨めしやっていう言葉も知らないし、ヒップホップもあまりわかってないご様子。
アールァイは成る程、とメモを取っている。
ボケたときの反応としてはすこぶる嬉しくない。
一応パゲの反応も見るが、光り方は4割くらい。
ヒップホップが天然とちょっと遠かったかな~。
口をへの字にしている俺にカーネモットが手を挙げた。
【お題】この幽霊、天然だなあ。どうしてそう思った?
【答え】死ぬかと思った~、が口癖
うん。
むしろギャグだよね。
幽霊ギャグだと思うわ。
想像するとコミカルで可愛らしい。
さすが、カーネモット。
パゲの反応は5割くらいか?
もう俺を超えてきてるじゃないか。
頬に手を当てて考えていたユーキィが答えたのはこちら。
【お題】この幽霊、天然だなあ。どうしてそう思った?
【答え】毎日体重計に乗るけど測れない
うん、うん。
足がないからね。
あと体重を気にする必要もないよね。
しかも昨日は測れなかったけど今日は測れるかなって思うのも理解できないよね。
ツッコミどころ豊富で良いぞ。
パゲ、6割程度。
ユーキィも凄いな。
「そういう感じですね」
得心したとばかりに頷いたスヮクラの答えがこちら。
【お題】この幽霊、天然だなあ。どうしてそう思った?
【答え】健康診断で再検査になる
「何の数値だよ」
思わずツッコんでしまった。
ぜってー採血できねえだろ。
そもそも死んでるのに健康診断を受けちゃうところが天然なんだろうが。
医者も何診察してんだ。
医者の方が天然ちゃうか。
おおう、8割くらい光ったぞ、パゲが。
これだけ光ってれば、神殿は可動していると判断していい。
みんな俺がいなくてもやっていける実力がついているのでは?
少なくとも現在の俺のミッションとしては、お手本を見せねばならない。
これを超えるボケをしなければならない。
基本的にはこのお題はこういうボケでいいだろう。
俺も『死んでるやないか』というツッコミを受けるボケをしよう。
【お題】この幽霊、天然だなあ。どうしてそう思った?
【答え】生命線が短いことを気にしている。
「いや、もう死んでるからね」
「何をどう気にしているのでしょう」
「手相はある意味当たってたんだろうね~」
手相はわかってくれるのね。
さすが女子は占い好きということか。
感想を言いながら、笑いが漏れている。
よかった、まだ師匠でいられそうだ。
これはパゲにも相当ウケたようで、非常に眩しい。
単に全部光るだけではなく、ここまで光るのは久しぶりだ。
さぞ遊園地にも灯りが付くであろう。
いざ行かん、夢の国へ。
遊園地はやはりというか、ちょっとレトロな遊園地であった。
浴衣で遊ぶには丁度いいかもしれないが。
ジェットコースターなど無く、観覧車は小さい。
カーネモットとメリーゴーランドに乗れただけでも満足ではあるが。
さて、お待ちかねのお化け屋敷。
見るからに古い日本の昔ながらのお化け屋敷という佇まいだ。
やっぱり大したことない気がするなあ。
でもみんなは怖がるかもね、フフフ。
俺は顔のニヤつきを抑えられなかった。
ところが、中にはいると一変した。
お化け屋敷っていう言い方はどうかと思うくらいリアルな暗い廃屋。
音や光だけで表現できるとは思えない本格的な雰囲気が漂う。
これが魔法力のなせる業なのだろうか。
なぜだ、他のアトラクションと比べてクオリティが段違いだぞ。
いや、でも俺は怖くないけど。
ところが入り口で説明を受けていると、どうやら思っていた施設じゃない。
俺は受付の人の言葉はわからないのだが。
説明を受けた4人は今日のハイスコアがなんだとか、負けませんぞとか。
そして、なぜか渡される斧などの武器。
な~んか、イヤ~な予感がするぞ……。
チュイーン、チュイーン。
ユーキィはチェーンソーをちょいちょい動かして、ニヤリと笑った。
バスン、バスンと音を立てて、スヮクラは何やらデカめの拳銃を試し打ちしている。
アールァイもカーネモットも怖がるどころか、ウッキウキしている。
俺はすでに顔が真っ青である。
だって、すでにコイツラが怖いもん。
何?
ここはお化け相手のサバゲー場か何かなの?
バイオハザードなの?
ハウスオブザデッドなの?
やだな~やだな~。
怖いな怖いな~。
ユーキィとカーネモットを先頭に、集団の真ん中で守られるように歩く俺。
バーン!
突如、現れる死体。
ヒイイ……ッ。
落ち着け、落ち着くんだ。
俺はこういうのは大丈夫な人間なはずだ。
「う、うっわ~。これ、リアルだね~」
努めて冷静を装っているが、チビりそうなほど怖い。
「ま、魔法力使ってリアルな幻想を表現しているんだよな? な?」
俺の質問に対して、眉一つ動かしていないスヮクラがあっさりと言った。
「いえ、ホンモノの死体を動かしてますね」
――は?
はぁぁぁぁ!?
怖ぇぇえ~~~よ!
何考えてるの!?
遊園地のアトラクションに本物の死体使ってんの?
この世界の倫理観、大丈夫かよ?
「アンデッドは明確に存在するものですからね。幽霊みたいないるかどうかわかんない方が断然怖いですよね」
いやいやいや、本物の死体の方が怖いから!
こんなに怖いものねえよ!
信じられない。
あぁ~、抱きつきたい!
抱きつかれてる場合じゃない。
怖さを逃れるために誰かに抱きつきたい!
もはや可愛い女の子なんて贅沢言わない。
マッチョのお兄さんでもいいから抱きつきたい!
「お兄ちゃん、どいて、そいつ殺せない」
いや、すでに死んでるだろと思いつつ、絶句する。
みんなが武器を構えて、殺る気満々なのだ。
ザック!
アールァイが動く死体の脳天に斧を投げたのだ。
頭部に斧が刺さった死体は、ゆっくりと前に、俺の方へ倒れ込んできた。
ぎゃあああああ! と内心で叫ぶ。
絶叫は免れたが、俺はもう青ざめた顔で口をパクパクさせるだけ。
「まずは、一体」
首の後ろに、担いだ斧をトントンと弾ませながらアールァイが言う。
誰だよ……。
俺の知ってるアールァイは、エプロンドレスの似合うロリっ子なのに……。
その物騒な獲物をクマのぬいぐるみに持ち替えてくれよ……。
「さ、次へ行きましょうぞ」
そんな気持ちを知らず、斧の先で進行方向を指し示すアールァイ。
完全に腰を引いてトボトボと歩く俺。
みんなは普通に、というか勇ましく歩いている。
思ってたのと違う!
こんなはずじゃなかった……。
ババーン!
「ぎゃああああ!」
たまらず声がでる。
ゾンビ!
ゾンビ出た!
怖い!
だってコレも本物でしょ!?
元は生きていたヒトなのでしょ?!
「え~い」
ゾンビを火炎放射器で燃やし尽くすカーネモット。
全然怖がってない!
節分の鬼に豆ぶつけるくらいの感覚で対応してる!
「あはは、よく燃えた」
ひええ。
炎の照り返しに浮かぶ、悪魔のような天使の笑顔。
なんでだよー、なんで怖くないのー?
リアルに目玉が垂れてるのよ?
火傷だらけの皮膚なのよ?
映画でも泣いちゃうくらい怖いと思うよ、これ。
しかも焦げた肉の匂いで吐きそうになる。
こんなものが遊園地にあっていいわけねえ。
年齢制限も一切ないのよ?
おかしいだろ?
ううう。
俺はもう目尻に涙を溜めていた。
怖い。
怖いんですよ。
今度は目の前からゆっくりと近づいてくる者がいる。
暗いからよく見えないが、じわじわと近づいてきてうっすらと全貌が明らかに―。
の、脳漿……。
脳漿が出てる人だよ。
ダメだって。
もう意識が飛んでしまいそうです。
「おっりゃああああ~」
チェーンソーをフルスロットルにして、袈裟斬りにするユーキィ。
骨の砕けていく音と、もの凄い血飛沫。
「いや~、爽快だな」
爽快という言葉の意味の対極にある状況なんですが。
まさに地獄絵図。
いや、この様子を表す言葉としては、地獄すら生ぬるい。
もうヤダ。
助けて、誰か助けて。
「レバ殿、後ろに隠れておいでなさい。私が守りまする」
エッ……。
アールァイ?
やだ、カッコイイ……。
そしてロリな浴衣少女の後ろに、怯えながら隠れる俺。
これほど格好の悪い存在がいるだろうか。
しかし何を言われようとも、怖いのだから仕方がない。
あああ!
横から何か来た!
また死体っぽいものが!
バァン!
バシャアッ
俺の目の前でその死体の頭が吹っ飛んだ。
スヮクラがデカイ拳銃でヘッドショットしたようだ。
飛び散っていく脳と顔の部品が、スローモーションのように網膜に映る。
首から上が無くなっても、フラフラと動く死体。
そこへアールァイが右脚で前蹴りをかまし、倒れた死体の心臓へ斧を振り下ろす。
「大丈夫でしたか? レバ殿」
血まみれの浴衣で振り返るアールァイ。
膝から崩れ落ちる俺。
何なん……。
なんで、こうなってしまったん……。
もう、限界……。
それがその日の俺の、最後の記憶だった。