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77章 決戦前日


 77章 決戦前日


 近くに居た王国騎士と武官を引き摺りながら、皇帝が騎士と武神と海神に言った。

 

「3人共付き合えー!」

「何だ」

「?」

 

 そのまま6人は何処かに出かけていく。

 交渉を文官達に丸投げたまま。


 ●

 

「バーカバーカ、バァアアアアカ!」

 

 戦闘が収まり、一行は白槍公の屋敷へと招かれた。

 入国理由の関係上、文官達は別室へと案内される。

 

 族長と白槍公が話を取り纏めている中、文官は必要な書類を急いで書き上げている。

 何処かにフラフラと出掛けていった皇帝に怨嗟の念を届けながら書き上げている。


「手をかけるね全く」

「……本当に向こうは問題無いんだろうな」

「勿論」

 

 軽口を叩く諸家を睨みながら文官はペンを走らせる。

 文官達が屋敷に到着したのと、諸家が戦士を連れてここに来たのは同時であった。


 諸家が連れてきた帝国の戦士達は外で体を動かしている。

 目や口を隠し、革の鎧の上にボロ布を纏った戦士達は異様な雰囲気を醸し出している。

 

 彼らと共に処刑人が武具の手入れをしている。

 頭領は関係者と顔を合わせる訳にはいかないと、姿を隠したままだ。

 

 マンセマットは王国に入国する前に、呼ばれたと言って天使の国へと戻って行った。

 今まで見た事が無い程の真剣な表情に文官は何も言えなかった。 

 

「……よし」

 

 入国者の名前、経歴、容貌の特徴等を全員分を書き上げ、紐で纏める。

 遊牧民側の書類と合わせれば完成だ。

 

「情報の摺合せを」

「良いとも」


 そう言って諸家が長椅子の上で姿勢を正した。

 文官はまず、重要な事を聞く。

 

「宝剣公が帝国に来たって?」

「ああ」


 第11王子、第11領公爵、宝剣公。

 鞄持ちの以前の雇い主、と言うには目上すぎる存在。

 

 総代から聞くには、多少強引な手段を取る若手。

 文官の持つ情報はそのような物だ。


「内容は?」

「様子見、といった風だったかな。あそこは万が一が起きれば挟撃を受ける」


 要するに、帝国が王国に対して戦を仕掛けないかの確認だろう。

 だが、それだけの為にわざわざ御本人が帝国にまで足を運ぶとは。


 入国の際の対応を思い出し、文官は首をかしげる。


「その様子、随分と無茶を通したと見える」

「……ま、それなりにね」


 皇帝の威光をゴリ押しした入国。

 次は使えない、使ってはならない手段である。


「お前から見た宝剣公は?」

「……」

 

 文官の言葉に諸家が考え込む。

 そのように考え込むのは珍しい、と文官は諸家の言葉を待つ。


「帝国でお会いしたのが初めてでな……、そうだな。

何か別の目的があるように見えた、くらいしか」

 

 別の目的。

 何があるだろうか、と考えていると廊下が少しばかり騒がしくなる。


 皇帝と武官が帰ってきたようだ。

 扉が叩かれ、返事をすると乱暴に開けられた。 


「土産あるけど食う? 魚の油煮サンドイッチ。近所のおばちゃんに貰った」

「骨まで食えてウメェ。後、お前夜暇?」

「ただいま帰りました。飲み物もありますよ」

「食べる! 頂きます! 暇!」

 

 言うや否や文官の口にサンドイッチが突っ込まれた。


 ●


 想定した動きとはかなり違ったが、現在の状況は宝剣公にとって歓迎するべき事態だ。

 帝国の皇帝陛下がこちら側に着いたのは大きい。

 

 王国が帝国を第三国と認めた事が帝国にとって大きな意味を持ったように、その逆も然り。

 皇帝陛下が、族長が、白槍公と肩を並べて戦う事に意味がある。

 

 白槍公こそ新たな王に相応しいと他国に認められる。

 否、認めさせてみせる。

 

 この戦いを制せば世論もそうなる。

 無意味な宮廷内闘争にも決着が着くだろう。

 

「白槍の兄上」

「……何だ」

 

 いつものように口の聞き方を嗜める事も無く、白槍公がぶっきらぼうに返した。

 余裕が無いと見える。

 

「これは我々が全てやる必要があるのでしょうか?」

「外交の事だ。どうせ決裁は私達が行う」

「……ですよね」 

 

 話は変わるが王国に出入国審査のノウハウはあまり無い。

 帝国の文官が作ったという書類を確認しながら、宝剣公は机に突っ伏した。


 ● 


 共和国、指導者の館。

 もうすぐ日が落ちる頃合いだろう。

 

「雑兵共の士気が高い」

 

 旗手は外を眺めながら言った。

 今日は誰も処刑台に登っていないのか、珍しく誰の悲鳴も聞こえない。

 

 竜の炎に焼かれ、投槍に貫かれた巨人達は動かない。

 一箇所に集められた死骸の山が夕暮れに照らされる。

 

「け、牽引役があちらに着いた所為でしょう。奴め、大恩ある指導者を裏切るなど……」 

「……」

 

 静けさに青褪めながら商舶が言う。

 それを、指導者が視線だけで黙らせた。


 指導者が椅子から立ち上がり、商舶に近付く。

 短剣の間合いよりも深く懐に入り込んだ。


「本当に?」

 

 街の静けさのような声が落ちる。

 

 商舶が引き攣った声を出すのを堪えたのが見えた。

 震える喉を見ながら旗手は策を奏上する。

 

「挽回の機会を指導者。我々に一番槍を命じて頂きたい」

「……良いだろう。巨人達はこちらに留めておこう」


 ここで共和国から切り離されるのは誰の為にもならない。

 あの処刑台に登るのは誰もが避けたい。


 その為にも急いで作戦を練らねば、と商舶を引き摺り退室する。

 練兵場へと向かうと契約者達と雑兵がピリピリとした様子でこちらを見た。

 

 明日の一番槍を任されたことを告げると雄叫びが上がる。

 商舶が小声でこちらに詰め寄ってきた。

 

「おい、士気が高いのは良いが策はあるのか」

「……武器を鱈腹寄越せ。ケチって牽引役のように裏切られんようにな」

 

 一瞬、商舶が間の抜けた顔をした後、真っ赤になった。

 ドスドスと足音を立てながら武器庫の方へと向かって行く。

 

 旗手は商舶の姿が完全に消えた事を確認する。

 その後に靴べらの肩を抱きながら耳に口を寄せる。

 

「逃げるなら今の内だ」

「……」

 

 靴べらは何も言わない。

 歯車の騎士が赤い目で第9領の方を睨んでいる。


 ●


 木陰達が探索したという廃屋敷は淡く光り輝いている。

 誰も居ない筈だが奇妙な気配に包まれていた。

 

 中に入ると、何か料理の匂いらしき残り香が漂っている。

 そして、眩い光が部屋を埋め尽くしている。


 以前、この屋敷に立ち入った木陰が声を上げ、忍冬が警戒の体勢を取る。

 それに釣られて銀灰が武器を構えそうになるのを宥める。

 

「何だこれは」

「……!」

 

 光源は照明器具では無い。

 壁や床、天井に書かれた魔法陣が光っている。


 どれ、とアスモデウスが地面に手を当てながら魔法陣を見る。


「成程ねー。あんな物、どうやって呼び出したのかと思ったら」 

 

 アスモデウスの言う事はこうである。


 あの塔は大陸各地から魔力を吸い上げ自身の力としている。

 故に、この魔方陣を壊せば弱体化するだろう、との事。

 

 問題は、幾つ魔法陣があり、何処にあるのかが判らない。

 そうアスモデウスは締めくくった。

 

「……どうする?」


 太刀持ちが狩人の方を見た。

 どのようにこの情報を使うか、という事だろう。

 

 狩人は頭の中を整理する。

 

 帝国は妖精王か鍛冶王が妖精の力を使い現状を理解し、

天使の国にはラファエルが念話を送り対処するだろう。

 

 悪魔達もアスモデウスが念話を送ればいい。

 問題は王国だ。


 人間至上主義の王国はどちらの話も聞かないだろう。

 かと言って狩人に王国の伝手は無い。

 国境を守護する兵士達に伝えた所で上に伝わるまでには時間がかかる。

 

「だから降伏しないのか? 塔に注目を集めて魔法陣を壊されない為に」

「……恐らく、あの軍勢を一掃する手段があるのでしょう。そしてまだ時間に猶予は有る」

 

 木陰とラファエルが地図を見ながら考え込んでいる。


 恐らく、王国の王宮を破壊した光線と同じような物だろう。

 使うのにに時間がかかる。

 だが、モタモタしていられないのも事実だ。

  

 悩む狩人の横で人型が閃いた、というふうに顔を上げた。


「大勢の兵隊に声を届ける魔術使う悪魔倒した事あるんだけど、お前それ使えない?」

「使えるけど?」

 

 人型の言葉にアスモデウスが得意気に手から鳥を出した。

 

「それで情報を大陸中にばら撒けば良くね」

「マジかよマイマスター、情報戦のじの字もねぇな」

 

 敵味方、全陣営、上も下も大混乱の策である。

 悪魔の国だからこそ許される策である。

 

 アスモデウスが愉快そうに鳥を何匹も窓から空に放つ。

 音も無く鳥が真っ二つに切られ、断末魔が響く。

 

「それは困るな」


 暗闇から声が聞こえ、地面が大きく揺れる。

 鰐に乗った老人が玄関を塞ぐように現れる。


「悪魔の大公爵、アガレス。契約者の命にてこの場を守護する」


 ●


 大陸の西、悪魔の国。

 夜、日が沈まぬ頃に最初の戦いが始まった。

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