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75章 名誉取引

 

 75章 名誉取引


 王国、首都。

 鉄の巨人によって破壊された王城は未だ復旧されていない。

 

 戦火に襲われる事はまだ無いものの、錯綜する情報と噂により人々の心は揺れている。

 広場には、我こそはと気炎を上げ、騎士達に鎮圧された暴徒達が縛り上げられ晒されている。


 遠くには蝿の羽音がする黒雲が見え、先程は何匹もの竜が空を飛んでいた。

 現に首都郊外にも何匹かの竜が休憩している。

 

 そんな最中、如何にも厳つい傭兵達が何度も首都を出入りしている。

 彼らが護衛する馬車はある商店に何度も立ち寄っている。


 白金商会には大量の金貨が運ばれてきている。

 これは血を流さない戦争の戦利品だ。

 

 炎で煤けた物、血が付いている物。

 これらは反乱の際に流出した、本来市場に出回らない、出回ってはならない金貨だ。

 

 暴徒達が領主や商人から強奪した金貨。

 王家から預かった物や個人が溜め込んだ物。


 全てがそうでは無いが、大半が貨幣価値を保つ為に市場に流してはいけなかった金貨である。

 

 少し前まで、金貨と銀貨の交換比率はかなり偏っていた。

 反乱軍が流出させた金貨により、貨幣価値が大きく下がり、金売り、銀買いの動きは加速する一方。 

 

 であるが故に、総代が帝国に持ちかけた銀取引とはこのような物である。

 

 まず、帝国はドワーフ達が作った剣を用意する。

 その購入代金を総代は銀貨で払った。

 

 その銀貨を帝国は総代に預け、取引の資本とする。

 いずれ来る、王国中の商人達による大規模な金買い、銀売り。

 その取引に乗る為の種銭である。


 誰もが先んじて動き金貨を回収する為に市場を見張っていた。

 王国側の商人は健全な市場を取り戻す為に、反乱軍側の商人は再び金貨で豪遊する夢を見る為に。


 誰もがその時を待っていた。

 

 銀の値段が限界まで高まった所。

 両替所の銀貨が尽き、現場が悲鳴を上げ始める頃。

 

 その頃を見計らい、商人達は銀を売り、流出させ、底値まで落ちた金を買い占める。

 これにより通常よりも大量の金を総代、帝国は手に入れ、市場の相場は元に戻る。 

 

 手数料を引いた後の残りが帝国の取り分だ。

 これが普通の金貨であればそうである。


 だが、この金貨は流通してはならない金貨である。

 

 ●

 

「買い取って下さいな、王家御用達商人さん。銀貨払いで」

「……ウチでは扱えません、と言ったら」

「別の所に売りに行くだけです」 


 必死の抵抗をあっさりと躱す。

 元より断られるような人選をしていない。

  

 総代は金貨の入った袋を指で摘みフラフラと揺する。

 その様子に目の前の商人が眉間に眉を寄せる。 

 

 全部でどれ程の量か、と問われると、黙って書類を手渡した。

 取り急ぎ、帝国の取り分だけは確保しておきたい。


 これが彼らの戦資金になるからである。

 

 総代は悪魔のような笑みを浮かべながら相手の言葉を待つ。

 眉間を揉みながら御用商人がモゴモゴと口を開く。

 

「つまり、その」

「ええ」

 

 この金貨を王家に返上すれば、王家からの物覚えも良くなる。

 それ込で幾ら出すか。


 要するにそういう事である。

 

「どうします?」

「……そうですね」

 

 御用達商人が考え込む。


 初めて会った時は幼い子供であったのが随分と老け込んだ物である。

 そのようなことを考えていると、御用商人が顔を上げた。 

 実務の話に入る顔である。


「全体量はこちらでも量るとして……、書面を見る限り差し当たった問題が」

「何でしょう」 

「そちらのお求めの分量は兎も角、全部となると手持ちの銀貨がありません」

「でしょうね」

 

 先程の取引で商人達の銀貨の手持ちは少ない。

 かと言って市場に流した銀貨で両替、もとい支払う訳にも行かない。

 それでは元の木阿弥である。

 

 詰まる所、この金貨は貨幣では無い。

 個人間で取引される美術品のような物である。


「それに大量の銀貨を持ち歩くのは辛いでしょう。

なのである程度は現物で支払いたいのですが如何です?」

「……ふ、む」


 今度は総代が考え込んだ。

 その取引に問題は無い。

 

 戦場に向かうのに貨幣を持っていても意味が無い。

 食料や物資を現地調達せずに済むのは、無用な恨みを買わずに済む。


 それに首都でさえもこの有様である。

 今の第9領の治安がどうなっているかまだ不明な以上、大量の現金を持ち歩く事は避けたい。

 

 問題は御用商人からそれを言い出した事だ。

 

 商人、商店にも得手不得手がある。

 帝国がどのような商品を求めるかは、これからの御用聞き次第だが、

恐らく御用商人だけでは全ての品物を用意する事は不可能だ。

 

 となれば必然、他の商店を巻き込む事になる。

 だが、これは王家の金貨と品物の物々交換である。

 献上する金貨が減れば王家から得られる物は少なくなる。


 だが、眼の前の男は総代が商人のいろはを叩き込んだ商人だ。

 それによって得られる物は何か。


「あぁ、成程。あちら側に着いた連中を切り捨てたいと」

「……はい」

 

 相場を考えない取引、王家の品の流出、反乱軍への武器や奴隷の供給。

 無軌道極まる商売とも呼べぬ商売により商人達の信頼は地に落ちた。

 

 そして商人達は旗色をはっきりさせねばならぬ所まで来ている。

 故に、この金貨は信頼できる人間達で献上したい、と言う事だろう。

 

「まぁ、問題無いでしょう。品物の聞き取りが必要ですが」

「では」

「一緒に来ますか」

「是非」

 

 席を立ち、別室に待たせている文官達の所へ向かう。

 そういえば、と総代が歩きながら口を開いた。

 

「向こうの奴隷商の纏め役について何か聞いてます?」

「いえ、こちらには何も」 

「そうですか。あぁ後、古着、もう捨てるような物を扱っている人物に心当たりは」

「古着ですか」

 

 互いに気にした風も無く、2人はそのまま顧客の元へと向かう。


 ●

 

 ガミジン。


 小さなロバの姿をした悪魔。

 死者の霊を呼び出す能力を持つ。

 

 共和国、指導者の屋敷の地下。

 魔術師が契約者を量産し、打ち捨てた魔術の跡。

 

 血に濡れた壁は掃除もされずに悪臭を放っている。

 打倒王家を掲げ悪魔と契約しようとし、失敗した者達の末路だ。


 飢饉の際に広まった契約の儀式。

 これは魔術師が作り、王国に広めた物である。

 

 だが旗手は共和国が出来てから契約者となった。

 共和国の兵士を皆、契約者にする目論見の為だ。


 鉄の巨人は指導者の持ち物であり、彼だけが動かす事を許されている。

 そして当然、戦果を1番挙げているのは指導者だ。

 

 であるなら、と欲深い者達は悪魔との契約に目を付けた。

 自身の力を増し、共和国内での発言権を得る為に儀式を行う。

 

 だが成功率は3割行くか行かないか。

 欲深い者達は博打に負け死に、計画は頓挫した。


 結果、旗手は数少ない契約者と、ただの人間の兵を束ねる事になる。

 その事に恨みは無い。

 

 だが、と旗手は目の前で行われている行動に目をやる。

 部屋の中央、血で欠けた魔法陣に1つの死体が横たわる。

 

 剣闘士。

 そう呼ばれていた男の体は異臭を放ち、所々、朽ちている。

 

 商舶がその傍らに立ち、欠けている魔法陣を木炭で書き足す。

 書き終えると円の外側に出て、ガジミンへ声をかけた。

   

 ガミジンの声に合わせて魔法陣が光り始めた。

 朧気な光はすぐに消え、剣闘士が立ち上がる。

 

 朽ちた場所は修復され、動きに支障は無い。

 だが、異臭は消えない。

 それどころか先程より強くなっているように思えた。

 

「目覚めたか、剣闘士」

「……501号?」

「……そうだ」

 

 ふらつきながら剣闘士が商舶に応える。

 奴隷の頃の名前であったと思われる名前を呼ばれ、商舶が一瞬、顔を顰めた。


「意識はしっかりしているか? しっかりしてくれ、203号を探すんだろう」

「! そうだ。203号、あの子を竜から守らねば」


 そう言いながら剣闘士が地上へと戻る。

 足音が遠くなると、商舶が引き攣るような笑い声を上げた。

  

「賈船は死んだ。次は貴様だ203号」

「……」 

 

 商舶の哄笑が地下室に響く。

 

 旗手は予感していた。

 この戦いの後、処刑台に登るのは最も無様な人間である。



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