ボウク・ドレイムュル【1】
「師匠! リワ師匠───!!」
金髪で刈り上げマッシュの、笑顔の愛らしい紅顔の少年が自然豊かなイングリッシュガーデンの小径を、美女エルフ目がけて駆けてくる。
年の頃はまだローティーンになるかならないかぐらいだろうか。
未来の希望に満ちた初々しいその姿───
「こんにちは、マキシム坊っちゃん」
そんな庭にある緑の屋根の白い四阿の一角で、里和ちゃんがそんな少年を満面の優しい笑顔で迎え入れる。
子供があまり好きではないと言っていた彼女にしては珍しい───いや、それほど少年は愛らしく、心から里和ちゃんを慕っている事を隠す気もないのだ。
「今日は何を教えてくれるんですか?」
息を弾ませながらターキーレッドの瞳をキラキラと輝かせる。
疑うことなきまだ曇りを知らぬ澄んだその双眸。
「そうね……坊っちゃんはもう基礎は習得してしまったから、そろそろ応用───実践でやっていきますか」
目映くも婉麗な微笑をその艶やかな桜色の唇に湛え、美女エルフは少年に向かってその白い繊手を差し伸べた。
「はい、リワ師匠!」
金髪紅顔の少年は迷いなくその手を掴んだ。
×××××××××××
不思議な夢を見ていた。
今度は真っ暗な闇の中、私は段々意識を取り戻す。
どうやら俯せで倒れていたみたいなのだが、暗すぎて自分の状況もよく判らない。
もそもそとした動作で、頭を軽く振りながらゆっくりと身を起こしてみる。
あぁ、暗い───ここは、どこだ?
どれぐらい意識を失っていたのだろう?
弥七は無事あそこから抜け出せただろうか?
しかし鬼暗い……暗いの怖い………無茶苦茶怖い…………。
○堂終太郎じゃないけど、地味に閉所恐怖症だからマジ怖い。
暗いと絶対と言っていいぐらい、変なのが寄ってくる。
だから私は寝る時は必ず灯りを点けないと安心して眠れないほどだ。
ただ、念の強い場合と亡くなって間もない場合はその限りじゃなく、明るかろうが昼間だろうが関係なく出現してくる───そういう時、私は大抵スルーの方向で。
そういう方達は色んな意味で面倒な場合が多いからだ───つまり、私の能力的に手には負えないので。
その上、厄介な事に憑こうとしてくるし───と、これはまた別の話で。
そう言った事もあり、ここまで真っ暗闇だと閉塞感と恐怖心で叫び出したい気分になってくる。
真っ白い空間と同じく上下左右の感覚がおかしくなるのは一緒だが、自分自身が見えているのと見えていない状態の恐ろしさは見えている時の比ではない。
もしかして気づいてないだけで、自分はまた死んでしまったのだろうか……?
いやいや、死んでたらこんな風に色々考える事なんか───そうか、今私は人間じゃなく、エルフだった!
「明かりを灯せ!」
すると、左側が急にほわんと明るくなる。
私の左手の甲にくっついてしまった魔鉱石が淡く光っていた。
頼りない明かりだが、自分の手元からロイヤルブルーのカーディナルマントを羽織った全身が浮かび上がり、取り敢えず自分が確実に生きている事が判りほっとする。
ただ、握っていたはずの借り物の大事なシダーの魔杖が無くなっていた。
あぁ……そっか、美女エルフから借りた魔杖はあそこに落としてきちゃったんだ、きっと。
最後に唱えた解放浄化魔法がちゃんと効いていればいいんだけど───また何かあるたび、あんなハイエナみたいな獣にされて苦しめられてしまうなんて子供には耐えられないだろうから。
って、私の使い魔の黒ジャガーにも言われてたけど、自分の頭の蝿も追えてないのに、こんな場所でヒトの心配ばかりしてても詮無い話だった。
兎に角ここから脱出しないと───
と言うか、ここ、歩ける、の……?
私は自分の黒のレースアップのショートブーツを見つめ、取り敢えず立っている感覚を確認する。
よし、歩くか。
こんな場所に突っ立ってても仕様がない。
しかし、毎度ひとつの懸念が脳裏を掠める。
………落ちないよ、ね………?
そう思いながら一歩踏み出した途端、あっさり恐れていた事態に見舞われる事となる。
踏み出した足元の手応え───この場合『足応え』か?───は無く、私の足は空を切った。
声にならない悲鳴が乾いた呼気となって私の喉を劈く。
寝落ちしてしまいそうなので、また後ほど追記修正させて頂きとう存じます
【’24/05/20 加筆修正しました】
【’24/10/28 微修正しました】




