ノウード・タウン【11】
飛行初心者と豪語するところの私の使い魔たる黒ジャガーは、何度か失速して落下しそうになりながらもどうにか安定した飛行が出来るようになってきていた。
その間落下する恐怖で生きた心地のしなかった私は、ぎゅっと目を閉じてひたすら振り落とされないように堪えるしかなかった。
とは言え、このまま漠然と飛んでいても魔術士ファーマンの呪いが解ける訳ではないので、いい加減美女エルフに教わった魔法で空間固定魔術を解除せねば───
「弥七、そのまま揺らさないで飛べる?」
「大丈夫だ」
「じゃ、頼むね」
私は四次元p……もとい、カーディナルマントの懐から里和ちゃんから貰った壊呪の指輪を取り出し右手中指につける。
壊呪の指輪は『アンジェリカの指輪』を参考にして里和ちゃんが作った魔導具で、魔鉱石化した黒水晶・水晶・天眼石を配してある。
かけられた呪いそのものを破壊し、その呪いの発動者が二度とその呪いが使えなくなるという、一種の呪術カウンターつきだ。
更におまけで透明化も可能と言う、魔法使いの美女エルフが好きそうな種類の魔導具だ。
内心こんな反則技に近い強力な魔法、使っていいのかな、と思いながらも私はシダーの魔杖を両手で掲げ、駄目押しするかのように詠唱する。
「束縛の呪いを破壊し、呪詛の完全なる終焉を!」
途端に魔杖の柄頭についた魔鉱石から蛍光ブルーの強烈な輝きが、天を衝くように一直線に伸びたかと思うと、途中で見えない天井に衝突したかの如く天球形にその光が広がり、この空間を満たしてゆく。
気づくと辺りは静まり返り、先程まで本棚の通路を満たしていた黒いハイエナのような獣たちは消え去り、ただ棚から落ちた本が延々と散乱しているだけになっていた。
すると途中で聞こえなくなっていた本の精霊たちの囁きが徐々に戻ってくる。
あー、やれやれ、やっと呪いが解けたねぇ。
エルフのお姉さん、ご苦労様でした。
あの黒いケモノにされた子たち、可哀想だったね。
そうだね、あの恐ろしい魔術士のせいだね。
こんな場所に閉じ込められて、寂しかったろうね。
出られなくてとても辛かったろうね。
───えっ?
「ねぇ、あのハイエナみたいな黒い獣って、君たち精霊じゃなかったの?」
その本の精霊の言葉に、思わず私は尋ねずにはいられなかった。
何せてっきりすっかりがっつり、精霊達に魔術士ファーマンの呪いがかけられているものだとばかり思い込んでいたからだ。
違うよー、あのケモノ達は人間の子供達だったんだよ。
そうそう、ここに集まるトスリッチ教の信者の子供達。
あの魔術士にムリヤリ閉じ込められた子達だよー。
だよね、自分が亡くなってる事も判らない子達なんだ。
だからエルフのお姉さん、助けてあげてよ。
あの子達、帰れなくていつも泣いてるんだ。
その本の精霊達の言葉に思わず絶句する。
トスリッチ教の信者の、亡くなった子供達───!?
それまで黙って飛ぶ事に専念していた黒ジャガーが、どこか感じ入ったような様子で口を開いた。
「……まぁ、この地上世界でアシレマは急進的なモロ資本主義の大国だからな」
後に私の兄になってしまったヴィンセントさんからも聞いた話なのだが、弥七が言いたかったのは貧富の差も極端で、色んな意味で弱者は子供や女性、お年寄り、障害者、少数民族や部族になってしまうといった状況だ。
人間は生きていると何某かの問題を抱え、それを解決するために弱者に皺を寄せてしまう。
自分達が生き残るために。
誰かにとって都合のいい理屈をつけて。
それが根拠のない迷信であっても。
嘘がバレないように権力者は必死になって事実を隠そうと、自分達に都合の良い真実だけを人やお金を使って流布する。
その隠れ蓑にトスリッチ教みたいな宗教団体は自ら近寄り、積極的に布教と称して権力者に協力してきたのだ。
私達の教えを信仰すれば貴方の罪は消え、神による救いが齎される、と。
貴方の総てを捧げなさい、と。
「───で、その過程でオレ達みたいな土地の精霊は、トスリッチ教の連中に子供の命を奪う悪魔に仕立て上げられたって訳だ。オレ達がそれを求めた訳でもないんだがな」
私の黒い従魔は憎々しげにそうぼやくのだった。
人身御供───それはどんな世界や社会であっても、今もなお姿容を変え脈々と続けられてしまっているのだ。
そんな憐れな子供達を、私みたいにまともな魔法も使えない外見上エルフが助けられるんだろうか?
しかしそうこうしてる間に、私達は目的の場所に到着しようとしていた。
途中で寝落ちしてました……
そんな訳で地味に加筆修正中です
【’24/05/15 かなり加筆しました】
【’24/05/16 微加筆修正しました】
寝落ちが酷い昨今です
【’24/05/28 間違え訂正しました】




