ノウード・タウン【10】
このある意味どこまで行っても同じ風景が繰り返される中で、どう考えても侵入者に対しての空間防御魔法───魔術士ファーマンたるマックス坊っちゃんが主に使うのは咒術になるとの事───を使わない訳がない。
これって里和ちゃんが想定してた空間固定魔術だ。
今回ここに潜入するのに美女エルフからいくつか魔術士ファーマンが使いそうな術式を想定し、その解除魔法を試験前の学生よろしくライカちゃんと共に一夜漬けさせられていたうちのひとつだ───無論、可愛い魔導師見習いは先生側なのは言うまでもなく。
魔法使いである里和ちゃんだったらすぐ見抜いて解除魔法も簡単に使えるのだろうが、逆に過去彼女の一番弟子だったマックス坊っちゃんにも里和ちゃんの魔力を簡単に感知されてしまう可能性が高いらしく。
実際私が召喚したマックスの分身たるミッシャじゃなければここまで調べられなかった程、そうじゃなくても多忙な里和ちゃん達がこの場所を探すのは骨だったとの事で───何せ最初はそのずば抜けた才能から、彼女の後釜に入ってもらうつもりで育てていたと、珍しく美女エルフが溜め息混じりでぼそりとそう零していた。
なので、ここの潜入を私が任されたのだが、その理由も私の魔力がこの世界ではかなり不可解で異質で不安定な波動を持っているらしく、高位の術者である里和ちゃんですら私の魔力波動は変に追いにくい、と。
更に笑える事に、私は昔から気配が無い───悪く言えば存在感が薄いらしく、普通に歩いていたりそこに偶然いたりしてるだけなのに、よく一方的に驚かれたりしていた。
故に当然マックス坊っちゃんにも解析しにくくて恐らく見つけにくいだろう、と言うある意味消極的な理由から私なんぞに白羽の矢が立ったのであった。
とは言え、完全に見つからない訳じゃない───
美女エルフ師匠と袂を分けてしまって以降、マックス坊っちゃんは魔術士ファーマンとして相当の研鑽を積んだと見え、彼が起こした騒動の現場にその痕跡を見極めるのに里和ちゃん達はかなり骨を折らされた上、今回彼がわざと姿を現して初めてその正体を知ったほどの魔術の力量をつけているのだ。
この私の為体だと、もうバレててもおかしくはない。
だから早く、何とかしないと!
私は取り敢えず目先の心配事を片づける。
再び黒ジャガーの背中に魔杖化した左手翳し詠唱する。
「生命力の回復、力を蓄え、復活の光を───!」
左手から温かな乳白色の輝きが放たれると、忽ち私の黒い使い魔を包み込んでゆく。
すると弥七は先ほどと同じように、低音が私の体にもビリビリと響いてくるほどの大きな咆吼をしたと同時に、目の前でまたおかしな現象が起こり始めていた。
跨っていた黒ジャガーの背中が俄にもこもこと動き出す。
えっ、今度は何───!?
私がぎょっとしながらも、無詠唱で弥七の死角から襲ってきた黒い獣をシダーの魔杖で振り払っていると、
「メグ、もう少しオレの首の方に移動してくれ!」
さっきの回復魔法が効いたのか、心なしか精気漲る声音で黒いハイエナのような獣たちを蹴散らしながら、弥七がそう指示してくる。
それに私が慌てて言われた通りに黒い従魔の首元付近まで移動すると、その私の背後で大きな何かがバッと飛び出してくるのが判った。
私はそれに硬直して目を見張る。
「飛ぶぞ───!」
低くよく通る渋い声がそう宣言したかと思うと、私達の体が引力から切り離されたみたいにふうっと上昇し始めた。
う、そ、だ……… !!
私は背後で激しい風を巻き起こしていると思しき羽音を聞きながら、これから自分の身に起こるであろう事態に何気に戦慄していた。
しかし気づくと眼下の黒いハイエナに似た獣の群れが、私の使い魔が起こした旋風に吹き飛ばされて霧散してゆく様が視界に入る。
そしてそのまま、弥七と私は目的の場所に向かって猛スピードで飛び始めるのだった。
私はコンドルのような翼が生えてしまった黒ジャガーの首根っこにしがみつき、悲鳴を上げるみたいに叫ぶ。
「何で飛べるのに黙ってるのよーっ!?」
まさかまた里和ちゃんの悪戯なのか?
「いや、残念ながら飛べなかったぞ、オレ様は。今さっきメグがかけてくれた回復魔法(?)でなぜか翼が生えてきたんだが……魔法使いリワから話は聞いていたが、奇っ怪な魔法ばっか使うな、メグは」
黒い従魔の容赦ない言葉が後頭部から槍のように突き刺さってくる。
悪かったね、おかしな魔法しか使えなくて………!
人が一番悩んで気にしてる事をさらっと突かないで欲しい。
「もーっ、こうなったらどっちでもいいけど、いきなり急降下するのだけはやめてね!!」
「あ〜っ? オレ様だって今初めて飛ぶのに、そんな無茶言うなーっ!」
ぎゃーっ!?
誰か嘘だと言ってーっ!!
もう少し追記するかもです
毎度ですがルーンは雰囲気だけです
何とぞよしなに
【’24/05/09 地味に加筆修正しました】
【’24/07/06 微修正しました】




