ノウード・タウン【7】
そこで私は息を整えるため、ゆっくりと意識的に深呼吸を繰り返す。
落ち着け、焦るな焦るな───
そして目を閉じ両手を胸に当て、呼吸に合わせて自分の内にある魔力の循環を感じ取る。
髪の毛の先から手足の爪先、順を追って緩やかに魔力の巡りを体の中心に集めると、自然とそれが左手の甲の魔鉱石に向かって増幅してゆく。
今、かな?
ほわんと温かみを増した左手を再び上方に構え、呼吸を合わせながら詠唱を開始する。
「私は挑戦する、友を救ける為、彼の者の秘密を解放する事を実現す!」
ざわっ………!
この白い空間で何かが騒めいた。
ざわざわ………ざわざわざわ……………。
それがどんどんと私の居る場所から広がってゆく様だった。
「わっ………何か、沢山いる!?」
その不気味などよめきに私が微妙に恐れをなしていると、透かさず私の黒きジャガーの使い魔たる弥七が口を挟んでくる。
「───まだ動くな。オレ様がそばにいる。心配するな。メグの魔力が全体にゆき渡るまで、もうちょっとの辛抱だ」
えぇ…… !?
こんな何処まで続いてるのかも判らないだだっ広い空間で、どんだけ頑張りゃいいのよ?
取り敢えず言われた通りに、魔鉱石がくっついちゃったせいで魔杖化した自分の左手を掲げながら、目を閉じ周囲に放った自分の魔力をゆるゆると確実に辿ってゆく。
すると、やがて騒めきは確かな思念となって私の中に流れ込んできた。
違うよ、ボクじゃないよ!
ボクも違うねぇ。
あっ、ボクちゃうちゃう。
あー、ボクでもないんだな〜。
キミも大変だねー、ボクじゃないんだよぉ。
私は左手は上げたまま目を見開き、その様々なトーンの声に眉根を寄せる。
「……何か、すんごい違うって言われ続けてるんですが」
「聞こえてきたか? 書物の声が」
げ、本の声って……!
絶句したまま弥七に視線を移すと、しれっとした調子でその太めの尾っぽをぱたぱたしながら口を開いた。
「なぁんも不思議はないだろ。エルフたるメグが精霊達に直接呼びかけたんだ。第一あんた、普段から無意識でその能力使ってたり、オレ達から使われてんの気づいてないだろ」
え、普段から?
使ってな……………ん??
そこで突如妙な違和感を覚える。
私の脳裏にひとつの記憶の場面がクンっと引っ張られたように再生される。
アイラーツァのイティプ・アプク魔鉱山でのアリカント爺さんとのやり取り───
本来は私とアリカント爺さんしか判らないはずの話の内容、サーシャも普通に会話に入ってきてはいなかったか……?
それに、私が口に出さず考えていた事にも、今の弥七のように普通に判ってたり応えてたりしてはいなかったか?
「……ねぇ、弥七っつぁん。もしかして、私の考えてる事、全部知ってたりして、る?」
「今ソコか。いや、全部は無理だが、あんた結構開けっ広げな性格してるからな。メグが気持ち読まれたくない時は普通に防御かかってるから心配すんな」
えぇえぇ………!
私は一気に頭に血が上り、顔が熱くなるのを自覚する。
動揺し過ぎて段々目の前がくらくらしてきた。
何で言ってくれないのよーっ!?
そんな私の様子に、今度は周囲からクスクスと笑いながら囁く声が脳裏に閃いてくる。
大変だねぇ───でも、ボクじゃないよー。
ホントにねー、残念ながらボクじゃないんだよ。
ボクじゃないけど、ノンキ過ぎないか?
それ言っちゃ可哀想だよー、ボクも違うけど。
おめでた過ぎるな、やっぱボクちゃうけど。
………何、このおかしな恥辱プレイは?
色んな意味で疲れが頂点に到達しようとした時であった。
エルフのおねーさん、ボクだよボク───!
突如そんなふざけた調子の声が脳内に鳴り響いてきた。
また加筆修正すると思いますが、何とぞよしなに願います
昨晩庭先に北キツネが……困った事になまら可愛かったっス
でも、エキノコックスとか怖いのでエサはあげちゃ駄目です




