ノウード・タウン【6】
やがて徐々に謎の黒く長く大きな物体のスピードは落ちてゆき、そこで初めてそれが何か認識する事ができた。
私はその正体に目を白黒させる。
「うへー……この中から探せって事───?」
もう安全だと判断したのか、私を庇ってくれていた黒いネコ科の大きな使い魔がゆっくりと身を起こし、ついでにしがみついていた私もそのまま起き上がる結果と相成った。
「なかなかそう簡単にはいかないな」
ずらっと居並ぶ心なしか威圧的な本棚の佇まいに、流石の弥七も困った様子できょろきょろと辺りを眺めている。
それは図書館のようと表現するには余りにも異様な景色だった。
ガッ……タン……… !!
遠くの方から奇怪な振動音が、本棚が停止したと同時に鳴り響いてきた。
途端にこの空間を静寂が支配する。
それは古びた皮製の背表紙が一様にずらりと並び、それらを収納した古い大きな本棚が一直線に何列も際限なく並び続けるという不可解な光景であった。
アンティークなマホガニー色のその本棚の高さは2mほどで、似たような背表紙が延々と真っ平らと思しき白いこの空間の遥か彼方まで伸びている。
この不可思議な空間に消失点があるのか、遠くの方は霞んでどうなっているのかすら全く窺い知れない。
取り敢えず本棚から一冊取り出し、中を開いてみる。
そこには入信年月日と、どこの誰がトスリッチ教に帰信・聖洗し、聖洗名を授かったか、生年月日、出身地、家族構成、学歴、職業、賞罰、幾ら寄付したかなどが事細かに記されていた。
これだけの膨大な個人情報───揉み手でウハウハと関わっている為政者───王族や貴族、政治家、官僚、様々な企業や有象無象がいるのも当然だろう。
いずれの時代や国、世界であっても個人情報は銭の山にしか見えないはずだ。
これも以前、マックス坊っちゃんの分身であるミッシャが調べてきた話の通りだ。
そしてこの中に真の名───聖なる名前が隠されているという。
これってあからさまに生殺与奪権、握られてるってことだよ、ね……?
私はその事実に軽く身震いし、とんでもない事に関わっている自分の現状に改めてぞっとしていた。
とは言えここまで来ている以上、今更逃げ隠れする訳にもいかない。
「うーん……もっかい詠唱してみようか?」
「さっきのをか? やめとけ。多分、今この現状だともっと面倒臭い状態になるかも知れんぞ。恐らく、この空間にかけられてるのは魔術士ファーマンだかマックス坊っちゃんだかの呪い、だぞ」
私の黒い使い魔は、辺りを鼻ですんすんと嗅ぎながら渋い低音でそう諫める。
また呪い、か……こんなだから魔法を駆使する連中は歴史上迫害されてきたんだろうな。
とは言えトスリッチ教に限らずどんな宗教でも、自分達が似たようなモノ使って起こした結果は『奇跡』とか平気で言えて、それで新しい信者さん達を沢山集めてたりしてるし。
それで誰もが納得できる関係になれればある意味幸せなのだろうし、歴史や文化の一端を担ってきた全ての宗教を否定など出来ないけど、信じる者は足元が掬われやすくなり、巣食われる……もとい、救われるのだろう。
どんな事であっても誰かを不幸に陥れるようなシステムがあるのなら、それをひとつでも減らせる社会であってほしいなと個人的には思うし、自分は少しでもそうなるような行動をしていきたいと思う。
だって、いつそれが自分に降り掛かって来るか判らない訳だし、現に今、私はそれに巻き込まれてしまっているのだから。
兎にも角にも今は目先の事態に対処するしか術がない。
「じゃあ、どうすんの?」
「メグはそいつに会った事あんだろ?」
「うん……超気持ち悪かった」
「まぁ、そうだろうな。とにかく、メグならそいつのその魔力の残滓が追えるはずだ」
私は正直、あの背筋も凍るような悪意の塊みたいな魔力を思い返すのも嫌だったが、それもこれもサーシャを助け出す為なのだ───
「……判った、やってみる」
また後ほど加筆修正させて頂きとう存じます
何とぞよしなに願います
【’24/05/02 加筆修正しました】
【’24/07/13 誤字訂正しました】




