ノウード・タウン【5】
こっ、これって……。
物凄く見覚えがあった。
私の手の甲には特に透明度の高い、乳白色で青を基調とした魔鉱石───南のアイラーツァにあるイティプ・アプク鉱山から採掘したと思しき魔鉱石化したオパールが鎮座していた。
それも、サーシャが最初に私に渡してくれた大粒の魔鉱石オパール───私の手に余るものだから、美女エルフに渡してた強力な魔力を帯びたオパールで、後に透明度が高く綺麗な遊色効果のあるウォーターオパールだという事が判明していた訳なのだが。
それにしても───
私は自分の左手の甲にあるその流露に輝く魔鉱石を、当然のように撫でてみたり、ぶんぶんと上下左右に振ってみたりしてから、今度は石だけ摘んで剥がれるか確かめようとしたところで、黒い大きなネコ科の使い魔たる弥七から声がかかる。
「おい、それはやめとけ。一緒に皮と肉まで削げるぞ」
その冷徹な声の調子に、思わずぴたっと手を止める。
低音で渋めの良い声でそう言われると説得力も百倍ぐらいに感じられてしまう。
「弥七、これってどういう状態?」
「本来はメグが自分で魔杖を作った時の柄頭につけてもらおうと、リワは思ってたらしいんだがな───」
要するに、私が懐柔したと思しき黒い火竜もそのつもりでこの魔鉱石を私に渡したはずだ、と。
ただ現状、何度か魔導師見習いのライカちゃんと自分に合う魔杖の素材を探しに行ったり、美女エルフが集めた数々の魔法具・魔道具から探させてもらったりした事もあるのだが、なぜかピンと来る物が一向に見つからなかったのだ。
エルフと化してしまった今となっては、全く焦る事はないとは言われたが、当の里和ちゃんの忙しない日常に触れるにつれ、周りに甘えてばかりでそうも言ってはいられないだろうと思った私は、その中でも比較的自分に合うのではないか、と思った美女エルフが作った魔杖を一本借りて現在に至っていた訳なのだが───
だからって、これはないんじゃなかろうか、と流石の私でも思う。
復讐って言うよりほぼ嫌がらせが多い里和ちゃんなので、きっとこれもその一環なんだろうなぁ、と溜め息の出る昨今の私。
「とにかく、リワの話だと自分に合った魔杖が見つからない上に作れないのであれば、自分自身が魔杖化する事が一番合理的かつ便利だ、とか言ってたぞ」
………どんなこっちゃ。
相変わらず斜め上を行く美女エルフの了見である。
どうせその自分の考えの裏づけを取るために、私を実験台に使ってるだけなんだろうな、と思う。
私が魔杖を作る良い素材が見つかった時は、取れるようにしてあるから、と弥七っつぁんは言伝されたらしい。
ここでとやかく問答を繰り返しても仕方ないので、取り敢えず魔杖化したらしい自分の左手の効力を試してみる事にした。
って事は、もっかいアレだな───
私は左手を上に伸ばし詠唱する。
「挑戦、情報、導き、発見、実行」
すると、私達がいる場所を目がけて白い空間の遥か彼方から、無数の何かがザァーッと音を立てて迫って来るのが見えた。
「わっ、えっ、何っ!?」
自分でやっておきながらそれに普通にキョドっていると、私の使い魔たる黒ジャガーが心底呆れた様子で口を開く。
「動くなよ。黙って立ってれば絶対轢かれないから」
えっ、車でも来るの?
いやいや、この世界にそんな物ないし───
そう逡巡したのも束の間、前後から猛スピードで無数の黒く長く大きな何かが通ってゆく。
それは列をなして左右の遥か遠くの方向まで続いているようだった。
怖っ………!
その何かが巻き起こす風圧でカーディナルマントやロングジャケットが激しくなぶられ、猛烈な勢いで通り過ぎてゆく列車の如 き謎の黒く長い壁のような物体に体が持っていかれそうになる。
「メグ!」
そこで黒い従魔は私を引き倒すように覆い被さってきた。
私はそのまま黒ジャガーの首根っこにしがみつき、耳元で自分のマントや衣服がばたばたと煩くはためく音を聞きながら謎の物体が静まるのを待った。
加筆修正しました




