アシレマ【4】
黒髪の青年に奢ってもらってがっつりすっかりぽっこり満腹になった魔導師見習いの美少女と私は、ライカちゃんお奨めのスイーツの美味しい喫茶店に向かって、リトル・イェクルートの繁華街をみんなで漫ろ歩いていた。
明るい日射しの中、新しい街についついきょろきょろしがちな私を、時折カイル氏が私の頭を掴んでは前方に軌道修正する。
黙って女性の頭を掴むなよ、と思って右斜め後ろを歩いている黒髪の青年を睨み上げるが、全く気にはしてないようである。
その度に魔導師見習いの美少女はくすくすと楽しげに笑うのだった。
セレグナ・ソルはそもそもアシレマの中でも指折りの観光都市であり、緩やかな砂浜の続く東海岸は年中温暖で、マリンスポーツ等でも賑わっている地域でもあるという。
私のいた世界で言えば、どこか中東っぽいエキゾチックな雰囲気のある、アメリカの西海岸といったところだろうか。
様々な種族人種民族が闊歩する繁華街のムードは、流石自由を謳う資本主義的民主国家の面目躍如といった賑わいを醸し出していた。
当然のように私もその開放的な雰囲気に当てられて、無意識のうちにスキップめいた調子で歩いていた。
ただひとつの杞憂を除いては───
本日もミズガルズでは珍しいエルフになってしまった私は、尖り耳を隠すためサルビアブルーのターバン風ヘアバンドを被り、上は白でリネンのスタンドカラーのふんわりしたブラウスにインナーはヘアバンドと同色のキャミソール、ボトムは濃紺のスリット入り七分丈パンツに麻縄で編み込まれたフラットサンダルという、お上りさんよろしくベタな観光スタイル。
ライカちゃんはいつもの紫紺色の魔導服ではなく、私が推した生成りでAラインのリボンつき膝丈ワンピースを着てもらった。
足元はオフホワイトのクロスストラップのデザインで、バックルベルトつきのフラットサンダルを履いている。
艶やかな金髪のウェービーロングと褐色の肌によく映え、まるで黄水晶の天使みたいに可憐な姿だ。
カイル氏に至っては、相変わらず忍者の如き全身黒一辺倒の形な上に、私が白くしてしまった顔を隠すための黒マスクという、見るからに暑苦しい出で立ちだった。
取り敢えずいつもの黒のフードつきマントを着るのをやめてもらい、足元もブーツではなくグラディエーター風の黒革のサンダルを私が買ってきて履いてもらった───アイラーツァへ降りた時に、彼の革ベストを駄目にしたお詫びである。
それには黒髪の青年も驚いた様子で、あれは自分の仕事なんだからそんな事する必要ない、と受け取ろうとしなかったのだが、私に里和ちゃんから初給料が出て、他にお世話になった人にも買う予定だからと説明すると、やっと受け取ってくれた。
そう、アイラーツァのイティプ・アプクの地下鉱山での報酬と、アイシュールでの危険手当を雇い主として美女エルフが支払ってくれたのだ。
ライカちゃんからその話とお金を貰った時、私は思わず両手を上げて、○イドリアーn……もとい、内心、
よっしゃー!!
と叫んでいたのは言うまでもなく。
その私の様子を苦笑しながら見ていたライカちゃんは、更に続けて大切な事実を話してくれた。
「それもこれもサーシャさんが、イティプ・アプクの地下鉱山で掘りやすくなるように崩してくれたからなんですよ」
あれからアリカント爺さんのお陰もあって、かなり良質な大量の魔鉱石が採掘できたという。
要するに、サーシャ達のお陰で大黒字化したのだ。
絶対に助けに行くよ。
本当はとても優しい黒竜を。
私は再度強く決心する。
待っててね、サーシャ。
その為に私達はアシレマに来たのだから───
無数の売店や飲食店が並ぶ歩行者天国を、ライカちゃんを先頭に人混みの中をかき分けるように歩き、途中から観光客の少ない脇道に入る。
一軒のストーンエンダー風な店構えの喫茶店の前に来ると、魔導師見習いの美少女は立ち止まりにこやかに口を開いた。
「ここです。ここのかき氷がふわふわでオリジナルソースが絶品なんですよー」
そう言って彼女は慣れた様子で店の中に入ってゆく。
店の中には数台の木製の丸テーブルがランダムに並び、地元客を中心とした客層の人々で賑わっていた。
ところがその中に、女性多めのこの場所に似つかわしくないエボニーブラウンのスリムなダブルスーツ姿の見覚えのある一人の紳士が、カラフルなトッピングに蛍光ピンクのソースのかかった大きなかき氷の前で私達に向って手を振っていた。
「ま、魔術士マイケル・ファーマン───!?」
微修正しました
また加筆修正するかもです……すみません
【’24/04/03 かなり加筆修正してます】
【’24/10/28 微修正しました】




