ミズガルズ【4】
アレ、私が握ってたトコだ……。
黒だから気づきにくかったが、いくらソフトスキンとは言え我ながらどれだけの阿呆力で握り締めていたのか、おかしな絞り皺がくっきりと残っていた。
それも何と言うか、丁度両B地区付近に……。
垂直落下の恐怖で我を忘れていたとは言え、流石にこれはマズイ、と私は地味に動揺していた。
買って返す、と言うのが一番手っ取り早い。
が、この世界にある意味裸一貫で呼び出されてしまった私に、ミズガルズで流通しているお金など持っているはずも無く───
多分、里和ちゃんに言えばどうにかはしてくれるだろうが、今の美女エルフと化した彼女が無料でそれをしてくれるかどうか疑問が残るし、自分的にもこれ以上彼女に貸しを作る事は後々を考えるとしない方が無難である事は間違いなかった。
駄菓子菓子───
急に私は超現実に気づいた。
稼がないと金が無い!
しかし何の取り柄もない私がこの世界で一体何が出来る!?
一気に頭の中でムンクの叫び状態になる。
アクシデントばかりの流れで、里和ちゃんやヴィンセントさんに促されるままにここまで来たが───そもそも論だ、そもそも論!
この世界で、私は何をして生きてゆけるのか?
そこでひとつの決断を私はすることにした。
「あのっ、訊きたい事があるんですけど」
私がそう言ってふと顔を上げると、黒髪の青年も私の方を見ていたらしく、少しギクリとした様子で慌てて私から視線を逸らす。
「……何だ?」
うんうん、私を嫌ってるのは判ってるんだけど、そうあからさまに顔背けられるとね……毎度地味に傷つきますわ。
いや、それよりも───
「私がミズガルズでお金稼ぐのって、手っ取り早く何かあります?」
するとカイル氏は、はぁっ!?と眉を顰める。
「何でメグであるあんたが働かないといけないんだ?」
「……だって、私、無一文」
「………まぁ、確かにそうかも知れないが、今のあんたは王家の流れを継ぐグリフィス様───オハラ公爵家の娘だ。そんな真似する必要はない。俺がヴィンから言われて緊急時の金はちゃんと持ってる。何か必要なものでもあるのか?」
うぬー……そうじゃないんだよね。
それじゃ意味ない。
「ここじゃ貴族って、働けないの?」
「いや、そう言う訳じゃないが───じゃあ、あんたこの世界で何が出来るんだ?」
その言葉でぐっと詰まる。
元の世界では事務職ばかりで、北海道に戻ってからはパートか臨時職ばかりだった。
以前の世界では職場と言うものにあまりいい思い出はない。
こちらでもそうかも知れないが、でもやろうと思えば何でも出来るはず。
そう思わないと───
「……もういいです。自分で探すから」
訊く相手を間違えた。
今度はライカちゃんに訊こう。
まだカイル氏が何か言いかけ、私が再度そう決心した時だった。
不意に金切り声に似た奇怪な哮吼が辺りに響き渡る。
黒髪の青年が舌打ちをしたかと思うと、あっと言う間もなく私はその彼に抱き上げられ木陰から一瞬で飛び出す。
すると私達がいた木の方から激しい破壊音と共に暴風と地響きが続く。
こ、今度は何だ───⁉
驚きと恐怖心と、常に起こるアクシデントに流石に慣れてきてしまったのか呆れに、私が爆音のした方に顔を向けると、そこには一体の巨大なシルエットが砂煙を立てて再び咆哮する姿があった。
*重複表現部分を修正しました*
【'24/01/19/ 12:00am 追記してます】
【'25/01/07 誤字改行など修正】
※「駄菓子菓子」は私が好きな漫画家さんが使っておられた言葉で鬼インスパイアされてます




