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ミズガルズ【5】


「厄介な奴が来たな」


私達がいたと思(おぼ)しき場所を振り返り、カイル氏は厳しい表情をその端正(たんせい)な貌(かお)に刻んだまま、眼前にそそり立つ異様な巨体を睨(にら)み上げていた。


「私以上に?」


もうもうと砂煙が舞い上がる中、その粉塵(ふんじん)に噎(む)せながら、同じく眼の前の黒々とした怪異に唖然(あぜん)としつつも思わずそう呟(つぶや)いてしまう私であった。


「……この状況でよくそんな嫌味(イヤミ)が言える余裕があるな」


黒髪の青年は腕の中の私をじろりと一瞥(いちべつ)し、心底呆れたようにそう言葉を返す。


「単なる冗談……冗談、ですよ」


私は半(なか)ばうわの空で答えると、眼前の妖異に目が離せずにいた。


うわー……なんてメタリックな黒竜なんだろ───


スケーリーフットを思わせる甲殻(こうかく)に似た光沢(こうたく)ある鱗(うろこ)と、蝙蝠(こうもり)のような翼を有した巨躯(きょく)。


筋肉質な両手足に鋭く黒い鉤爪(かぎづめ)がついており、太く長い尻尾の先には黒く鋭角な棘(トゲ)が十数本ランダムに生えている。


顔まわりにも棘や角(つの)のような鋭い突起物が無数に覆(おお)っており、面立(おもだ)ちはクロコダイルとコモドラゴンを足して2で割ったような峻酷(しゅんこく)な厳(いか)つさで、そこに金色の双眸(そうぼう)が威嚇(いかく)と憤怒(ふんぬ)というスパイスをこれでもかと効(き)かせながら私達を睨(ね)めつけていた。


体長は10mほどはあるだろうか?

尾を含めるともっとあるかも知れない。


土煙が落ち着いてくると、その足元には私達がいたボトルツリーに似た広葉樹が、見る影もなく粉砕された状態で潰れていた。


まじかー……。


私がそれを目(ま)の当たりにして青くなっていると、カイル氏がメタリックな黒いドラゴンから視線を離さないまま口を開く。


「今、あんたを下に降ろすから、降ろしたら振り返らずに左に見えるデカイ岩の方に向かって走れ。そして隠れてろ」


岩?


ふと言われた方角を見ると、確かに相当大きそうな黄土色の岩らしき物体が見えた。


つか、結構遠い……。


「俺が足止めするから、その間に───」


黒髪の青年はそう言いながら私を乾いた草原の地面にそっと降ろしたかと思うと、左手にどこから出したのかバスタードソードを握っていた。


そして次の瞬間───


「行け!」


そう叫ぶと、目にも留まらぬ速さで黒いメタリックなドラゴンに向って斬りかかってゆく。


早っ!


私はカイル氏の早技(はやわざ)を右目の端に引っ掛け、そしてそのまま言われた通り岩と思しきモノに向って駆け出す。


走る私の背後で金属同士がぶつかり合うような激烈な爆音が間断なく続き、黒竜の喚(わめ)き声と共に熱風が吹き荒れたり、謎の強烈な破裂音だのが辺り一帯に鳴り響く。


その度に身を竦(すく)めながら、それでも言われた通りに走るしか私には術(すべ)がない。


彼一人であんな巨大な怪物をどうにか出来るんだろうか?


ふとそう不安になり、思わず私の走る速度が鈍る。


私って守られてばかりだ───あまりにもひ弱で、なんの役にも立ってない。


そう考えれば考えるほど足は重くなり、前に進まなくなる。


駄目だ、どうにかしなきゃ!


そう思って立ち止まり、くるりと振り返ると───


暴風と共に黒いドラゴンが、私に向って突進してくる姿が目前に迫っていた。


わあっ、私って足遅っ!


ドラコンが巻き起こす強風に翻弄(ほんろう)されながらどうでもいい感想を抱いていると、唐突(とうとつ)に知らない声がおかしな事を私に向って言い出していた。


『おい、お前、なかなか綺麗なエルフだな。そうだ、喜べ、ボクの嫁にしてやろう』


………は?


*毎度追記してます*

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