ボウク・ドレイムュル【3】
───で実際、その界隈を悩ませてきたと思しきペリュトンの群れは、『紫炎熄滅の魔法使い』リワと『赫奕切峻の魔法使い』マックスの活躍によって正に瞬殺された。
因みにペリュトンとは鹿の頭と四肢、鳥の胴体と構造色のある翼を有した人間ばかりを襲う魔獣で、なぜか影が人の形になるという─── 一説によると、旅半ばにして斃れた人間の霊がペリュトンになったという話もあるらしいが、なぜその姿になってしまったのかなど謎多き魔獣らしい。
群れで行動し、人間を狩ってはその血肉を己の体に擦りつけ、その影を濃く保とうとする猟奇的な習性があるという。
これは書物の記憶、なんだろうか?
眼前で展開される一種夢幻的な光景に、私は我知らず心奪われていた。
近場の樅の木に降り、私はその息の合った舞い踊るような鮮やかな闘い振りを、溜め息を漏らしながら終始見物し続けた。
この二人にこんな時代があったんだ……。
それが今や───人の気持ちってホント判らないな。
気づけば青緑の構造色の羽毛が煌めく、鹿鳥魔獣の屍累々で奇怪な景色がそこにはあった。
ダークブロンドの少年は顔についた返り血を拭いながら手にしていた魔法剣らしきショートソードを、どう考えてもそこに収納できなさそうなノーフォークジャケットの懐 にスルスルと収めてゆく。
「師匠、ペリュトンの羽毛と皮は民間のギルドに連絡して、また師匠名義で送っておけばいいんですね?」
そしてそう言いながら剣を収め終わった懐から返す手で、今度は柄頭に紅玉髄のついたスタイリッシュなデザインの魔杖を取り出してくる。
美女エルフはその妙に大人びた少年の言葉に、銀髪の豪奢なロングヘアをローポニーテールにし、花柄の意匠が施された金のバレッタで留めてある小さめの頭を頷かせた。
それを確認し、ダークブロンドの少年は持っていた魔杖についた魔鉱石と思しき柄頭を、倒れている屍累々なペリュトンに無詠唱で次々と振り下ろしてゆき、尋常じゃない速度でどんどんそれらを消していった。
「民間のギルドに頼む方がよその国の王侯貴族や豪商が高く買ってくれるからね。アシレマの国営ギルドは安く買い叩こうとしてくるから好きじゃないんだよ───それより、今回も魔法剣使ったんだね。せっかく自分で作った良いその魔杖があるのに、もったいない」
里和ちゃんも持っていた大きめの紫水晶がついた魔杖の柄頭をやはり無詠唱で振りながら、同じように青緑の鹿鳥魔獣をぽんぽんと消してゆく。
「あははは、すみません、師匠。ちゃんと一緒に作った魔杖も使ってましたよ? でも戦闘の時は使い慣れたショートソードの魔法剣の方が、魔法も撃ってそのついでに斬れるし、僕には性に合ってる気がするんですよね」
「君のお母様の形見の魔法剣だものね……まぁ、仕方ないか」
「母は女魔術師でしたから───」
なるほど……。
私は軽く白い溜め息をつきながら、今はもう見ることが出来ない嘗ての二人の日常を、樅の木の梢から出歯亀よろしく覗き見している格好だ───魔法でオオタカになってしまっているかららしいのだけども。
そのダークブロンドの少年の言葉を聞いて先ず思ったのが、この二人は境遇が似ているのかも知れない、という事だった。
ただそれを言ったら私とも似てるとは思うのだけど、マックス坊っちゃんは美女エルフに幼い頃に出会ってしまったのが全てなのだろう、と。
恐らく、初恋かつ一目惚れ───
里和ちゃんはエルフの中でも恐らく際立って美しいと言えると思うし、無論、この世界の人々の中でも、彼女ほどの美人に私はまだお目に掛かった事は無かった。
取り替え子だった分、中身は相当俗っぽくなってはいるものの、地頭の良さと本来の負けん気の強さ、それ以上にその努力と度量でもってこの世界に貢献し、今もなお日々努力を惜しまず頑張っている賢者一歩手前の存在なのだ。
幼い頃にある意味そんな人外な超人美女に出会って、憧れない変人がいたら私の方が会ってみたいぐらいだ。
更に何よりダークブロンドのお坊ちゃんは、里和ちゃんに自分の母親を重ねて見ているのではないか、と。
そこでいきなりドン、と私達の周囲が揺れる。
【参考文献等】毎度なwikipediaやググるさんに
『幻獣辞典』ホルヘ・ルイス・ボルヘス著
また加筆修正すると思いますが、何とぞよしなに
【24/05/25 かなり追記させてもらってます】
誤字修正しました