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8. 更なるイチャイチャの解禁に向けて

「優斗君、好き」

「俺も好きだよ。でも突然どうしたんだ?」


 夏休みも半ば。

 彼方がなんの脈絡もなく突然愛情を表現して来た。


「ご褒美が欲しいの」

「ご褒美?」

「優斗君の『後見人』の話を最後までちゃんと聞けたご褒美」

「それはもちろん構わないけれど、何が良いかな」


 尋常ではない強さの負の感情を耐えきったご褒美が欲しい。

 それがあれば次もまたご褒美目当てで耐えられるかもしれない。


 というのは彼方が脳内で描いた単なる言い訳であり、ご褒美発言の本当の理由は別にある。


「彼方、顔真っ赤だぞ」

「ふぇっ!?」


 優斗が何かをしたわけでもないのに、彼方は発情しかけていた。

 つまりご褒美にはそういう意味があったのだろう。


「彼方って本当に」

「それ以上は言わないで」

「むっつりだな」

「言わないでって言ったのに!」


 優斗はあははと笑いながら彼方に軽くキスをする。


「でも彼方が正気に戻った直後って、恥ずかしくてキスなんて出来ないってタイプに見えてたぞ」

「私は元々そうだもん。おかしくなっちゃっただけだもん」

「もしかしてまだ後遺症が残ってるのか?」

「…………多分」


 彼方が正気に戻る一つ前。

 思ったことを素直に口にする彼方は恥ずかしいセリフがダダ洩れだった。


 その影響のせいか正気に戻った後も色々と漏れてしまうことがあったのだが、今はむしろ恥ずかしいモードばかりなのでその後遺症が残っているのかどうかが分からない。


「きっと優斗君が好き過ぎておかしくなっちゃんだよ」

「マジかー俺のせいだったかー。それで本当の所は?」

「私がむっつりだっただけです」

「認めちゃったかー」


 もちろんそれだけではない。


 恥ずかしい記憶から心を守るために恥ずかしい行為に慣れようとしてしまった後遺症はやはり残っていたのだ。

 それすなわち優斗とイチャコラする抵抗が薄れてしまっているということ。

 ある意味まだ壊れた状態であり、優斗が彼方を優しく愛で続ける限りは治らないだろう。

 あるいはお祭りの日の羞恥プレイのような強烈な失敗をしてしまえば冷静になれるかもしれないが、それも直に慣れてしまうに違いにない。


 彼方が健全なままであれば、ここまで積極的にならずにちょっと奥手の普通に恋する清楚な女の子だっただろう。

 むっつりなのは正しいから奥手でありながら妄想の中で暴走していたかもしれないが。


 とまぁそんな真の自分を曝け出してしまった彼方にとって、現在の優斗との適切な(・・・)コミュニケーションはやや物足りなかった。


「今でも割とイチャイチャしてる方だと思うんだがな」


 お互い触れ合い、愛を囁き合い、一日に何度もキスをする。

 デート中は腕を組み恋人繋ぎで人目を憚らずあ~んをする。


 十分にバカップルの条件は満たしているのだが、それでも彼方は満たされていなかった。


 その原因は恋人になりたての頃の常軌を逸したイチャイチャ生活だった。

 あの頃の濃密なイチャラブの印象が忘れられなかったのだ。


「むしろ優斗君はどうしてそんなに紳士でいられるの?」

「いやいや、俺だって我慢してるんだぞ。彼方が嫌がらないように頑張って抑えてるんだよ」


 我慢された方が嫌だよ、と言いかけたが辛うじて抑えた。

 それを口にしたら頭突き案件だ。


「それにさ。またあんな風になっちゃったら、俺もう止められないよ」

「そう…………だね…………」


 二人はイチャイチャしているが唇以外のセンシティブなところには決して触れてはいないのだ。

 何度もキスしておいて性欲モンスターの高校生が良く我慢できるなとは思えるが、それはひとえに彼方がそう要望したから。

 理想の『はじめて』のシチュエーションがあるからその状況が訪れるまで待って欲しいと。


 触れてしまえばなし崩し的にその先まで行くことは容易に想像出来た。

 我慢するならば触れないこのラインだけは絶対に越えてはならず、優斗は必死で耐え忍んでいた。


「でも優斗君にこれ以上我慢させるのは悪いかなって」

「そんなこと言って自分が」

「それ以上言わないで」

「やりた」

「それ以上言わないでって言ってるでしょ!?」


 今回は最後まで言わせてもらえなかった。


「う~んでも本当に良いのか?」


 せっかくこれまで理想のシチュエーションのために我慢して来たのに、ムラムラしてきたからというムードもクソもない安直な理由でおっぱじめても後悔しないのだろうか。

 そう思った優斗だが、少し思い違いをしていた。


 彼方は優斗の質問には直接答えず、別の要望を口にする。


「あのね優斗君。一緒に旅行に行きたいの」

「おお、良いな」


 優斗にとって旅行はデートの延長線上のイメージだ。


 夏だから少し遠くの海にでも行って海水浴。

 あるいはたっぷり自然を楽しむ山での森林散策。

 季節は関係なく夢の国で一日中遊ぶのも良いかもしれない。


「行きたいところが色々あって困っちゃうな。彼方は何処に行きたい?」


 自分から旅行に行きたいと言うくらいだから行きたい場所があるのだろう。

 それゆえ優斗は自分の具体的な希望を言う前に彼方に確認した。


「その、ね。温泉旅行が良いなって」

「温泉! 良いな。そういえば前にもそんな話したな」


 最初の頃のムフフな話からうってかわり、旅行という普通のデートの話に変わったのだが彼方はまだ顔が赤いままだ。


「(混浴とか想像してるのかな)」


 温泉で恥ずかしがるならこれしかないようにも思えるが、彼方の考えていたことは違っていた。


「優斗君。お泊り、するんだよ?」

「…………え?」


 旅行と聞いて優斗は日帰り旅行だと思い込んでいた。

 それゆえ、住んでいる場所から行ける範囲での旅行内容だけを考えていた。


 泊まりだなんて考えても居ない。

 それには理由がある。


「でも俺達高校生だぞ。泊まらせてもらえないだろ」


 そうなのだ。

 この世の中、未成年の男女を泊まらせてくれるまともな宿泊施設は無いのである。

 だから優斗は泊りがけの旅行の可能性を頭から排除していた。


「ホテルとか旅館は無理なんだけれど、貸してくれるコテージに心当たりがあるの」

「そうなのか?」

「しかもそのコテージには温泉がついてるの」

「おお」

「しかもそのコテージの前はビーチになってるの」

「おお!」

「しかもそのコテージをタダで貸してくれるの」

「おお! って嘘だろ!?」


 そんな好条件のコテージをタダで使わせてもらえるなんて、騙されているとしか思えない。


「彼方それ何処で聞いたんだ!?」

「慌てないで。智里さんから聞いたの」

「へ? 委員長?」

「智里さんに旅行に行きたいなって話したら『任せなさい』って言われて」

「なんとなく見えて来たぞ」

「そうしたら都成君が別荘を貸してくれるって話になって」

「やっぱりあいつか!」


 そんな好条件の別荘を無料で貸してくれる人は、金持ちである閃以外に考えられなかった。


「どう……かな……?」


 閃の勧めであれば間違いは無いだろう。

 そんな夢のような場所をタダで貸してもらえることに罪悪感を感じなくはないが、閃の場合は遠慮したら何倍にもなって他の何かを提供してくる可能性が高い。

 それゆえ使わせてもらうことに抵抗感はそれほど無かった。


「(彼方とお泊り旅行……)」


 この旅行の直前に話していた内容がアレである。

 つまりはそういうお誘いでもあるのだろう。


 ごくり、と優斗は思わず生唾を飲み込んでしまった。

 見ないようにと気を付けていたのに、一瞬だけ彼方の体を見てしまう。


 そんな優斗の僅かな変化を彼方は見逃さず、赤かった顔が更に赤くなる。


「分かった。行こうか」

「~~~~っ!」


 一生の想い出に残る旅行が決まった瞬間だった。



この章ではまだ旅行に行きません。

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― 新着の感想 ―
[一言] それが、次の章で描かれる、とあるシーンですか。 といっても、構成上長くてあと2-3話(閑話除く)で次章になりそうですね。 だとすると、旅行までもうすぐ。
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