混んでるとお一人様は並びにくい9
アマンダさんはお風呂で汚れを落とし、着替えることに同意してくれた。
よくわからない人たちに囲まれた環境で、無防備な格好になるお風呂は入りたいけど入れないものだったのかもしれない。おまけに野宿もしてきたし。
中央神殿のお風呂は広いので思う存分入って欲しい。
「ヌーちゃん、水浴びは後でやってあげるから大人しくしててね」
浴槽の方へ入ろうとするヌーちゃんを抱えて座りなおすと、イスの下から青い鼻先が見えていることに気付いてヒッと声を出してしまった。背後から、アマンダさんが何か不審そうに聞いてきた。
「あっ、ソーリー。イッツオーライ。ドントウォーリー」
なるべく明るい声で返してから、鼻先に話しかける。
「ちょっとニャニっ、お風呂は絶対だめだから。帰って早く。あと近い」
イスの脚の間から見えていた鼻先が、一拍おいてからすっと引っ込んでいなくなる。なんで今のタイミングで出てこようと思ったし。お風呂なのに。
「リオ様、暑くはありませんか?」
「うん、大丈夫」
そう、お風呂である。
アマンダさんが入浴中のお風呂で、私とフィデジアさんは並んで座っていた。
別に覗き趣味とかそういうのではない。ちゃんと後ろ向いている。私がここにいるのは、アマンダさんがそう望んだからだった。
「そろそろ上がられるようです。拭くものを渡して参ります」
「あ、私が渡してくるよ」
アマンダさんは、まだこの世界の人たちのことを怖がっている。フィデジアさんや巫女さんたち女性でもそうなので、現段階でアマンダさんが怖がらずに話せる人は私ひとりだけ。そのためか、お風呂に行くアマンダさんを見送ろうとするとまたアマンダさんが取り乱してしまったのである。
とりあえずこの後ご飯だしそろそろ夜なので、とりあえず身綺麗にしたほうがいい。なので護衛をしてくれるフィデジアさんとともに私も浴場に付き合っているのだった。
「はいどうぞ」
「Thank you」
できるだけ見ないようにしつつ、アマンダさんにタオルと着替えを渡す。
アマンダさんはイギリス人らしい。私が知っているサンキューよりも微妙に違う感じの発音だ。他の発音も違うせいか、アマンダさんが喋っていることが理解できないということも多いことがわかった。
「Rio. Do I look Okay?」
アマンダさんも私が英語をしっかり喋れるわけではないと理解してくれたらしく、ゆっくり、できるだけ簡単な単語で話しかけてくれることもある。混乱しているときは普段の話し方らしく全然聞こえないけれど。
スカートを持ちながら聞いてきたので、着方がこれでいいのか訊いてるのだろう。たぶん。
「えーっと、オッケー。グッド」
「Good」
お風呂上がりのアマンダさんは、ものすごく美人だった。
ボサボサになっていた赤毛の髪は、梳かされて夕日の光が波打っているように輝いている。肌も真珠のように白く、エメラルドのような瞳にそばかすがものすごく可愛い。白っぽいワンピースも手足が長いのでよく似合っていた。
私より背が高いのでやや見上げる形になるけれど、そんな角度でも美しい。
「アマンダさんめっちゃビューティフル! えーっと、ユーアースーパービューティフル!」
テンションの上がった私に対して、アマンダさんは若干困った笑顔でお礼っぽいことを言っていた。
「リオ」
お風呂から上がると、ルルさんが待っていた。
「風呂場は蒸したでしょう。水分を」
「ルルさんありがとう。フィデジアさんもアマンダさんも飲む?」
木のピッチャーから木のコップに注いだ果実水を受け取り、フィデジアさんたちを振り返った。フィデジアさんはルルさんが別のコップに注いだものをお礼を言って受け取ったけれど、アマンダさんはちょっと警戒した様子で立ったまま近付いてこない。
ルルさんがコップを渡そうとしても、首を振って私の後ろ側に逃げた。
「アマンダさん、ルルさんイズ、ノットデンジャラス。ディスイズフルーツウォーター」
私が持っているコップを見せると、アマンダさんが難しい顔をしている。変なものじゃないよと見せるように飲んでみせると、アマンダさんが手を伸ばした。ルルさんが渡そうとしたコップを避けて、私の飲みかけのものを。
「あっ……それ飲みかけだけど……まあいいか。ルルさん、そっちのちょうだい」
いい? って感じで目で訊かれたので、いいよという意味を込めて頷いておいた。
浴場は広いのでそれほど熱気がこもっていたわけではないけれど、寝起きでもあったし喉が乾いていた。ルルさんにアマンダさんの分だったコップをもらって飲む。ルルさんは、恐る恐るという感じで果実水を飲むアマンダさんをじっと見ていた。
「ルルさん、アマンダさんめっちゃ美人じゃない? お風呂入る前も美人だなと思ってたけど、綺麗になるとますます輝いたよね」
「そうですか?」
「うん。赤い髪も綺麗」
「リオは赤い髪が好きなのですか?」
コップにおかわりを注ぎながら、ルルさんが首を傾げる。
「いや、別に好き嫌いはないけども。でも私の髪が黒いから、明るい髪の人はちょっと羨ましい。ルルさんの髪も綺麗だよね」
そう言うと、ルルさんはにっこりと笑った。嬉しかったらしい。
金髪だし、この世界の人はなんか髪の質が違うのか、私と同じような黒っぽい髪の人でも陽に当たると輝き方がなんか綺麗なのである。一度でいいからあんな綺麗な髪になってみたい。
「ご歓談中ですが、食事の用意ができています」
「うわびっくりした」
すっ……と出てきたのはジュシスカさんだった。ルルさんよりは少し薄い金色の髪は、整えたのか肩につかない程度に揃えられている。その髪型のせいで、いつもの憂い顔がちょっと若く見えていた。
ジュシスカさんも旅の汚れを落としたらしく、こざっぱりとした雰囲気だ。ちらっとアマンダさんを見たジュシスカさんは、特に話しかけることなく私たちを部屋へと促した。ジュシスカさんが先導し、私は左側のルルさん、右側の少し離れた位置のアマンダさんに挟まれる形でついていく。後ろにはフィデジアさんが歩いてきていた。
「ジュシスカさん、少しは休めた?」
「ええ、たんまりと眠りました」
「たんまりと……」
最後に会ったときからそれほど時間は経っていない気がするけれど、しっかり頷いたからにはいい感じに疲れが取れたのかもしれない。髪の毛もツヤツヤである。短くなった分軽やかに動いていて、私の周囲のキューティクル率が半端ない。
部屋に入ると、食卓の準備を整えていたピスクさんとルイドー君がこっちを見る。知らない人が増えたので不安になったのか、アマンダさんが華奢な指で私の手首を掴んでいる。
これが守ってあげたい系ヒロインに頼られた主人公の気持ちか……
私は責任感に浸りつつ、面々に話しかける。
「えっと、とりあえず自己紹介してからご飯食べよう。彼女はアマンダさんで、私と同じ世界から来た人。みんなのこともアマンダさんに紹介するね」




