13話 報奨金
説明の多い回です。
「おや!一週間ほどぶりですね~お待ちしておりましたよ~」
ちょうど通りかかったのか、遺情院に入るなり以前に見かけた小さな事務官が声をかけてきた。
「お久しぶりです」
軽く会釈して返事を返す。
今朝、ギルド経由で家に連絡が入った。なんでも、マルゼ丘陵遺跡について手続きがあるということで、資格章をもって遺情院に来て欲しいとのこと。
「ささ、あちらに。準備ができ次第奥にお通ししますのでしばらくお待ちください~」
前回来た時のテーブルに通され、事務官の女性はカウンターの奥に小走りで去って行った。
「(相変わらず人が多いなぁ)」
一人できたのは初めてだ。シルヴィアも呼ばれたのだろうと思ったが、ギルドが違ううえに『時間の都合が良い時に』とあったため単純にタイミングがずれたのかもしれない。
周囲を見回してみると、マルゼ丘陵遺跡対応のカウンター上の立体模型が大きくなっているのに気付く。測量作戦前であるからか、確定されているほかの部分と色分けされて魔方陣の様な遺構が宙づりになっていた。
「(話ってなんだろうな)」
せわしなく行き交う人々を眺めながらそんなことを考える。あの時はゆっくり全体を見回す余裕もなかった。ひっきりなしに資料の本棚から人が出入りし、複製の依頼が飛び交う。
「(おっ?)」
奥から脚立を持った事務官とその他数人が現れ、二つ隣の『クラムセン森林遺跡』と書かれた立体模型の足元に設置し始めた。
「おまたせしました~こちらへどうぞ~」
立体模型が修正されるのだろうかと期待したところで、事務官に呼ばれる。名残惜しいもののその場を後にすることになった。
「ご足労頂きありがとうございます、フレッド・グレンゼル殿。冒険者となって早々に、すでに数々の功績を挙げられたことは遺情院でも話題になっております。さ、そちらにお座り下さい」
40代位だろうか、眼鏡をかけた柔らかい口調の男性に促されるままソファ腰かける。家にあるものと比べ物にならないくらいの上等品だ。緊張を通り越してこのまま寝たい。
「私は支局長をしているフラムスというものです。まずは此度お呼びした件について説明いたします」
「はい」
支局長も腰かけると、給仕の女性が飲み物をテーブルに運んできた。
「そう固くならないで。お話と言うのは、冒険者の皆さんが単純にお喜びになる『報奨金』についてのことです。今回は『開拓』を成功させたフレッド殿、および同行なさったシルヴィア殿に支払われる、ドーニゲッツ領規定の報奨金のお支払いについてですよ」
そう言われて、そういえば、とシルヴィアの言葉を思い出す。
───『あら、もうお金のことならきっと心配いらないわよ』
「あはは、まぁ、まだピンと来ないかもしれません。私も支局長について3年目ですが、『開拓』に関する『報奨金』に関わるのはまだ数えるほどです。冒険者の方々も近年は首都付近の最前線以外での開拓は進んでいないようですし、どこも進捗は芳しくないと聞いております」
「そうなんですか」
ジョカさんやブランジェさんが参加している最前線。そういえばジョカさんが『しばらく探索は休止』と言っていた。何かあったのだろうか。
「さて、そんな中での久しぶりの『開拓』の一報です。遺情院もそうですが領主様も大変お喜びになったそうです。そんなわけで、普段であれば遺情院で行う『開拓者』の称号授与式を領主様自ら行いたいと申し出がありまして、日程が決まり次第再度連絡が行くことになっております」
よほどうれしいのか、自分のことのように語る支局長に思わず笑みが出た。
「あ、それで報奨金についてですが、こちらになります」
そういってテーブルに書類を差し出してくる。
いつもはおやっさんから前払い金として受け取っていたため、きちんとした金額を提示されるのは実は初めてである。
「……えっ?」
書類に視線を落とすと同時、変な声が出た。
「おや、ご不満でしたかな?一応規定なのですが」
いや、不満は無かった。というより、桁が一つほど違う様な気がした。
「あ、いや、その。こんなにもらっていいんですか?」
俺がそういうと、支局長が満足そうに笑った。
「もちろんです。ああ、しかしながら一括にとはいきません。初期のころは受け取った直後の帰り道や自宅で賊に襲われるといった事件が多発しましてね。賭けごとに使ってしまって大変なことになった方もいらっしゃいました。そういったこともあって、借金や大きな買い物の予定などを除き、報奨金は日々の生活がちょっと豪華になる程度の金額で月ごとに分割してお支払いすることになっております。あ、『家を建てたい』といったご相談もお受けできますよ」
書類に記された金額に目を白黒させる。家族四人、コノコも増えたから五人か、ひと月過ごすのに切りつめて小金貨7枚ほどだ。金貨一枚あればすこし贅沢な食事も取れる日があるといった程なのだ。
「ああ、言い忘れてましたが、今後この開拓した個所に関わる依頼が発生するごとに、わずかばかりですが開拓者に印税といった形で報奨金の一部が支払われます。もちろん、ご自身が更に開拓なさっても構いませんよ」
これが、冒険者が今もなお一定数以上存在する理由なのだろう。正直、あまり報奨金や名誉などは気にかけていなかったが、こんな大金を見せられたら流石に心臓が止まりそうになる。
「こちらはフレッド殿おひとり分となります。シルヴィア殿も同額が提示されますので、喧嘩などはなさりませぬよう。あ、そうそう、報奨金の受け取りに関しまして、遺情院の真正面の建物、『ドーニゲッツ領信用金庫』にて口座の開設をお願いしております。詳しいことはそちらでご相談ください」
それからいくつか説明を受けて支局長室を後にした。
手には手続きに関わる書類。
もう一度金額を確かめる。
「規定八の三・攻略閉鎖遺跡開拓・広域を達成せし者に『金貨200枚』の報奨金を授与する」
呟いて、はっと周囲を見回す。近くにはだれもいない。
ため息をつく。
「(あ、コウザ…コウザってなんだろう?)」
思い出して、支局長が言っていた遺情院の真正面の建物に向かうことにした。
信用金庫で頭が混乱する程の説明を受けつつ、口座を開設して最終的に自宅に帰って家族と相談してこいと書類を押しつけられた。
帰って書類を母さんに見せたら一時間ほど気絶したのち、起きるなり開拓に関わっていたことを叱られ、次に毎月家にかかってるお金について長々と説明されて日が暮れたのだった。
フレッドの母は、息子が危険な冒険に繰り出していた事を知らなかった様です。
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