12話 贈り物
ちょっと小話。
───明け方
酔いつぶれて重なるようにソファで寝ているブランジェさんと母さん、気付けば反応がなくなり隣の椅子の背もたれに頭を預けて眠っているシルヴィア。
彼女たちを起こさないよう、静かに俺は片づけをしていた。さすがに洗い物をすると起きてしまうかもしれないので、ごみを籠に入れて集め、せっせと裏口から外に運んでいる。それを見て楽しそうだと思ったのかどうなのか、コノコが後ろについて回り一緒にごみを集めてくれていた。
「ふむ、すっかり親子の様じゃの」
ブランジェさんも底なしだと思ったが、ジョカさんはさらにその上を行っていた。まるで今まで飲んでいたのは水であったかのように、色白の顔には紅すら浮かんでいない。
「お酒強いんですね」
「顔に出ぬだけじゃ。ちゃんと酔っておるぞ」
果たして本当なのか、ふふんと笑い、手酌で注いだ酒をあおる。
「そうじゃ、コノコに土産があったのじゃ。どれ、今渡してしまうのがよいかの」
椅子からぴょんと跳び下り、椅子の下に置いてあった鞄をもそもそとあさり始める。
「うむ、これじゃ」
ジョカさんが鞄から取り出したのは、真っ黒な錐状の細く小さな石がいくつもつけられた首飾りだ。
「わらわなりに小洒落た意匠を心がけたつもりじゃが、コノコにはませて見えるかもしれんのう」
そういって俺の後ろで隠れているコノコにちょいちょいと前に出てくるよう手で合図する。
「ほら、コノコ、ジョカさんが何かくれるって」
後ろ手でコノコの頭をぽんぽんとたたいて、両肩を支えて前に引っ張り出す。
「うー…」
コノコはジョカさんが苦手なのだろうか。怖がって俺の袖をつかんで離さない。
「ふむ、嫌われてしまったものじゃのう。仕方あるまい、フレッド、お主から首にかけてやってくれんかの」
差し出した手に怯えるコノコを横目に首飾りを受け取る。
「ほーら、コノコ、似合うといいな」
しがみ付かれている手で頭を撫でて、首飾りをかけてやる。
「あうー…」
おとなしくなった。
「フレッド、それには吸魔の術式が組まれておる。以前に大魔法を使ったと言っておったが、街中を連れまわすときに万が一何かあっては困るじゃろ?それがあれば体の外に魔力を放出できなくなるゆえ安全なはずじゃ」
要するに魔法が使えなくなる魔道具のようだ。
「その石一つ一つが繰り返し使える魔石でできておる。貯蔵ができるゆえ、着けておれば自然放出の魔力を吸収していざとなったときに使えるじゃろう」
説明を受けて魔石をつまんでみる。
「もらっていいんですか?」
壁に掛けてあったとんがった帽子をとり、被るジョカさん。
「よいよい。研究の一環でできた副産物じゃからの。本来は遺跡の魔法生物を捕縛する装置を開発する予定だったのじゃが、依頼人が研究費を持ち逃げして消えてしまったゆえお蔵入りしたのじゃ」
さらっと裏話をはさみ、さして変わりない身長差のコノコの顔を覗き込む。
「がうぅー…」
怯えながら威嚇するコノコはさながら小動物だ。その顔を見てジョカさんがふっと笑う。
「やれやれ、かわいいものじゃの。わらわにも撫でさせてくれんかのう」
「──!?」
ジョカさんがコノコの頭の上に手を出そうとすると、目にも止まらぬ速さでその手をコノコの手がはたき落す。
「痛った!これコノコ!」
自分がはたき落したこと自体にびっくりしたのか、すぐさま俺の後ろに隠れた。
「まったく、まるで人見知りの猫の様じゃ」
幸い強くは叩かれなかったようで、ジョカさんの小さな白い手に痕はなかった。
「あはは、なんかすみません」
「まぁよい。産まれてまださほども経っておらぬ赤子じゃ。可愛がってやるのじゃぞ」
そういうと鞄の蓋を閉めて紐に肩を通す。
「さて、わらわは先に帰るぞえ」
ぴょんぴょんと跳んで鞄の位置を調整した。
「あれ、寝ないでそのまま帰るんですか?」
唐突に帰ると言うジョカさんに驚く。
「うむ。そこに転がっておる妹に石板の解読を急かされておる。あれでなかなか、好奇心の多い娘じゃ。ま、他にも案件がいくつかあるでの」
まだ開いていない酒瓶を一本テーブルからひょいと取る。
「楽しかった旨、母上によろしく伝えておいてもらえるかの」
「こちらも楽しかったです。うちでよければまた宴会しましょう」
そういうとジョカさんが笑った。
「ではまた近いうちにの。おっと、まだ妹に手を出すのは時期尚早じゃぞ?」
人差し指を口に当てにやりと笑い、扉を開けて出て行った。
わずかに閉まりきらなかった扉からは、柔らかい朝日が一筋、部屋に差し込んでいた。
更新止まりまくってて申し訳ないうえに短い話ですが、ちょっとだけお話進めました。
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