片想いとお菓子『8』
そんな夜の意味で食べられてしまうリアルな想像が頭の中に浮かび、なかなか頭の中から消えない。自分の妄想力に呆れて、ため息を吐き出す。
「そういうバカは、嫌いじゃないよ」
「ずるいです。その言い方……」
「嫌いになる?」
「なれませんよ、そのぐらいで」
なれるわけがないと思ったところで、まだ、出会ってから一か月も経過していない事が不思議だった。そんな短期間でこの人は、心の中での存在が大切になっていて、消す事ができないところまできてしまっている。
ありふれた言葉だけど、人を好きになるのに時間は関係なくて、むしろ、一緒に過ごした時間が大切なのだと実感できる。
「……雰囲気、変わった。話しかける前まで、年齢のわりに悪い意味で老けているみたいで、心配だった頃と今は、違うね」
「え?」
お茶を飲みながら、優香さんは苦笑を浮かべている。
「一年前から、あの路上で露店出しているって言ったでしょ?その頃、なんか、危なっかしい感じがして、心配で気になっていた」
「気づきませんでした」
「だから、あの時、作品を気に入ってくれて、声をかけてきてくれて嬉しかった」
「そうだったんですか」
「うん」
「今は?」
「雰囲気が落ち着いていて、優しく穏やかなところがあって、魅力的に感じるかな」
「……ありがとう、嬉しいです」
創作するのが好きな人は、全員表現がこんなストレートなのだろうか。いや、美空と優香さんだからこんなに表現がストレートなのだろう。
その日は、クッキーがなくなったところでお開きとなった。
自分の部屋で開いていたお菓子のレシピ本を閉じた。
あれから、しばらく経過していて、もう4月になっていた。
晴れていて散歩日和だ。
待ち合わせの時間にあわせて、家を出ないといけない時刻になり春用の上着を着ると、家を出た。
待ち合わせの最寄り駅までに植わっている桜が咲き、ピンク色の絨毯が敷かれている。
私たち三人の関係は相変わらず三人で会う関係が変わっていない。
優香さんと出会った頃に比べて、変わった事と言えば二つある。
一つ目は、美空が私に曲を贈ってきた事。
『好きです。付き合ってください』と言葉で告白するのではなくて、ラブソングを作って贈ってくるあたり、なんとも美空らしい行動だ。
私はたった一言「ごめん」とだけ返事をして、美空は「分かっている」の一言だけで、それでも十分だった。
二つ目は、自分の進路の中で、お菓子を作る仕事を夢として加わった事。
夢を見る事すら、諦めていたけれど、勉強してみようと思えただけでも、大きな心境の変化だと感じている。
優香さんにたいする気持ちには、長期戦で挑む気でいる。彼女が自分で自覚しているという弱さを包むには、どう考えても今の私では力不足だ。
それに、あの天然な美空に勝つためにも、もっと、私にはいろいろな経験が必要だと感じている。かといって諦めてしまうには、まだ早い。
最寄り駅に到着すると、二人はすでに到着していた。
「あ、珍しい。可愛い髪型にしている」
「そういう美空は、いつも通りだね」
「私は……このままでいいから」
「じゃあ、そろったし、行こうか」
優香さんがそう言って、駅に向かって歩き出す。
春の何かが始まりそうな予感がする風が、ふわりと吹いた。
これで、「live」の連載を終了致します。
最初の設定から、書いていくと違う人に恋していたのは美空でした。
最後までお読みいただきありがとうございます。




