片想いとお菓子『7』
諦めそうにないのなら、覚悟を決めた方がいいのだろう。
『責任がとれないのなら、軽はずみにしない』と彼女は言った。
それなら、責任がとれるのなら、そういう事を仕掛けてもいいと都合よく私は解釈してしまう。二十歳をすぎていても、彼女にとっての私は成人していない対等の立場だと思ってくれていない事が悔しいけど事実だ。学生全員に対して、同じ態度なら仕方ないと思えるのに、美空に対してはそうではなかった事にいらついてしまう。
「ごめん、勘違いなら悪いけど…私の事が好きだよね。そういう意味で」
淹れた紅茶を受け取りにきた優香さんは、言いづらそうに口を開く。
「……はい」
「私にとっては、そういう風に思えなくて。他に好きな人がいるの」
「美空、ですよね?なんとなく察してしまいます」
「好きな人がいるから、そういう対象では思えない」
「はい」
正論を言われて、会う事を拒絶されてしまうのだろうか。
「だけど、大切な存在だと思っている。……もともと、私が美空に距離を置こうって言ったのは私自身の弱さが原因で、弱いから、小細工のなくああいう事を言われると、つい、うっかり…その、ふらっと触れてしまいそうになるから、やめてね」
「……嫌では、ないですか?」
「嫌ではないから、困る。……今度やったら、責任とってもらうから」
しどろもどろになりながら言葉を選び言う彼女の姿が、愛しいと感じてしまう。
優香さんはテーブルにコップを置き、焼きあがったクッキーをいれる皿を選び準備したところでちょうど焼けた。焼き立てのクッキーをお皿に盛って、テーブルに持って行く。
つまり、今度やってもいいという事だ、そう自分の都合のいいように解釈した。
紅茶がはいったコップを持って、テーブルに移動する。
「さくさくで美味しい」
「よかった」
食べる時、本当に幸せそうな表情を浮かべているのを見ると、私まで心が、あたたかく感じてしまう。
クッキーを作る時に、人によって気を付けるところは違うかもしれない。
私の場合は、すべての材料を塊もなく、優しくまろやかに溶かしこむように混ぜる部分に気を付けている。この作業を丁寧に行わないと、焼きあがって食べた時に、なんか塊があると感じてしまうからだ。
恋愛も同じなのかもしれない。
焦らず、じっくり、丁寧に進めていく事が、ふくらみつつある恋を美味しくする。
「私、諦めませんから。優香さんのこと」
「でも、私は……」
その先の言葉を聞きたくなくて、クッキーを彼女の唇におしつける。
「かまいません。困られてしまう事はあっても、迷惑はかけないようにするので、時間がかかっても、振り向いてくれる可能性があるなら、好きで、いさせてください」
彼女はカリッという音をたてて、押し付けられていたクッキーをかじる。
「……つらいだけ、なのに」
「そうでしょうね。でも、その分、きっと美味しくなると思います」
押し付けていたクッキーを彼女に渡して、私も自分のクッキーを食べる。ほのかな甘みと温かさが口の中でなくなると、自分で作ったものなのに心があたたかくなるような気がした。
「バカだね」
「……バカです」
先の事がどうなるのか、分からない。
それでも、もしも、優香さんに出会う事がなかったら、何事も無関心なふりをして、自分の心を騙して、冷めていたかもしれない。
このクッキーのように、ほのかに温もりを心に感じる事ができるようになったのも、この約一か月があったからだ。今、願うならば、責任をとってもらうなら、彼女がいいという事だけが確実に分かっている事だった。
いつか、この齧られたクッキーのように、 齧られてしまう日は訪れるのだろうか。
あと1話で、liveの連載が完結する予定でいます。
お読みいただきありがとうございます。




