片想いとお菓子『2』
あれから数日後の夕方。
明日、優香さんの家に行く約束をしていたので、持っていく荷物を準備していた。着ていく洋服も選ぼうとも思ったが、時間がかかりすぎてしまいそうなので、明日の自分にまかせる事にした。時間がかかって選べないのなら、行く前の直感で選ぶ事にしたのは逃げてしまっているわけはない。
ドアをノックする音が聞こえて、母親の控えめに声をかけてくる。
「幸来、入るわね」
「……はい」
「今日の夕飯だけど……あら、もう準備しているの?」
「早めに準備しておきたくて」
「えらいわね、誰かさんとは大違い」
誰かさんとは、父親の事だ。行く直前まで準備をしていて、いつも家からでるのはぎりぎりになってしまう。そんな父親の姿を見ていたせいか、早めに準備をしておく癖がいつのまにかついてしまっていた。
「明日、なんだけど……もしかしたら泊まるかもしれなくて」
「うちはいいけど、夕飯の準備までには連絡ちょうだいね」
「分かった」
我が家ではいつも何時までに帰宅をし、誰とどこで会っているのかを伝えるか、家族が不在の場合は家族専用のカレンダーに自分の予定を書き込むようになっている。食事の準備があるからで、その習慣は今でも守っている。
「それで、今日の夕飯だけど…肉と魚どっちがいい?」
「……肉」
「じゃあ、今日は焼肉定食にするわね。準備が終わったら降りてきて」
「分かった」
母親が部屋から出ていくと、ドアを閉める。
鞄の中に荷物をしまい終わった後に声をかけてくれて、助かったと安心してため息を吐き出す。別に見られて困るような物なんて準備していないのだが、なんとなく見られたくなかった。
母親には、自分の恋愛の事を話している。
いつかは、話さなければいけいない、さけては通れない事だったからだ。まだ、優香さんという存在については話せていないけれど、あなどれない母の事だから何か察してしまっているのかもしれない。
「いらっしゃい、どうそ」
当日に優香さんの家を訪ねると、いつもはかけていない眼鏡をかけていた。
招かれて家の中に入ると、テーブル上だけが作業中だったようで、いろいろなビーズが転がっていた。
「今、片づけるね」
「あ、じゃあ、飲み物入れますね」
「ありがとう」
茶葉を取り出して、ポットからコップにお湯を注ぐ。
「眼鏡、なんですね」
「普段はけなくてもぎりぎり見えているけど、家で作業する時は時々かけている」
「眼鏡姿も似合っていますね」
「頭良さそうに見える?」
「見えます」
二人分のコップをテーブルに持って行き、それぞれの場所に置く。わざと眼鏡をくいと持ち上げ、冗談のように笑っている表情を見て、「可愛いな」と思い、見とれてしまう。
「ありがとう。いっそ本当の天才になりたい。煮詰まってない時は、すらすらできるのに、煮詰まると時間だけが虚しく過ぎていくから、そんな時間が嫌い」
「……そうなんですね」
「どうぞ、座って」
すすめられた場所に座って待っていると、チョコの山がお皿に盛られて出てくる。
「チョコ好きなんですか?」
「頭が疲れてくると、どうしても甘い物が食べたくなって」
「今度よかったら、クッキー焼いてきましょうか?材料さえあるのなら、今からでも作れますけど…」
「えーと…ごめん、我が家の中で、揚げ物、お菓子、餃子は買ってくる物になっていて」
ふと遠い目をして優香さんが言う。なんとなく、後片付けと準備がかかる面倒な事はしなくなったと語っているのが見て取れる。美空みたいだなと思いつつも、作ってあげたくなってしまう。
「じゃあ、今度持ってきますね。売っているのも美味しいけど、焼き立てはまた違って美味しいです」
ふと笑みを浮かべると、優香さんも笑みを浮かべていた。
あと6話で、「live」も無事に完結する予定です。
遅くとも3月中に書き終わる予定でいます。
お読みいただきありがとうございます。




