片想いとお菓子『1』
『4』片想いとお菓子
幸来は、優香が怪しい笑みを浮かべているのを見て、怖いとは思わなかった。
本人はそういう部分を見られる事も、あまりよくは思わないのかもしれない。それでも、欲が見え隠れするその表情に、魅せられている自分がいた。その対象が自分であればいいのにと思ってしまうのは、私が優香さんの事を好きだからだ。
この優柔不断な天然な人たらしの美空に対して、少しだけ感じる苦い感情は、飲み物を飲みながら一緒に奥に押し込める。
「何?」
「なんでもない」
視線に気づいた美空がそう言うので、そのまま視線を他にそらす。
「……おかわり淹れましょうか?」
「お願いします」
雫が綺麗な仕草で紅茶を淹れる。
話されたわけでなくても、なんとなく、雫と美咲がカップルで、夏美とルカがカップルであろう事は空気で察しがつく。
喫茶店に来るようになってから、なんとなく感じている事がある。美空、優香、雫、美咲、それぞれ世間一般から見れば、女性として女性が好きな人が自分の他にも、身近に存在している事を、ここに来るまで実感する事ができずにいた。
自分から情報を探そうとしても、最初の入り口を見つけてしまう事が難しく感じていた。最初の入り口さえ見つけてしまえば、後はどう探せば見つかるのか分かるのかもしれない。
それもこんなに自然に、寄り添うような温かさのある人達と出会う事ができて、その事については美空に感謝している。
「美味しい」
「ありがとうございます」
紅茶を飲み、落ち着くために深呼吸をする。
目の前で二人の世界になっているように見える空気に、こめかみが反応している。
二人とも夢中になれる「何か」がすでにあって、夢中になれる事が羨ましいと感じている。作る作品がアクセサリーと音楽作品だったとしても、通じ合うものがあるだろうと感じている。そこが悔しいと感じているのもあって、尚更、いらつく。
人に出会えた事に感謝している。だが、悪いけど、恋愛のバトルは別問題だと思う。
「私にもアクセサリー作り教えてもらえませんか?」
「……いいけど、何を作りたいの?」
優香さんは驚いた表情を浮かべている。
「何か簡単で、初心者でも作りやすいものを」
「んー…何を作るのかは、考えてみるね」
「幸来、興味あったの?」
「挑戦、してみようかと思って」
半分本当で、半分嘘の回答をする。自分にとっての何かを見つけたくて挑戦したいのも本当なのだが、半分は、優香さんの部屋で長く過ごすための口実を作り出しただけ、でもある。動機としては不純なのだが、結果それで作る事が好きになれたら、いいのではないかと感じた。
「ふーん」
珈琲を飲む美空を見ながら、自分の残りの紅茶も飲み干した。
あの後、他愛もない話をしてから、自分の夕飯の買い出しをして帰宅する。
部屋の中には、つい買ってしまった恋愛関連の書物が数冊置かれていた。
私がこういう本に手を出す事になるとは、高校生の頃には思いもしなかった。本の知識だけで恋愛がうまくいくのなら、世の中カップルだらけだと批判めいた感想を抱いていた事もある。
実際、自分がその立場になってみると、友人に相談するのもいいけれど、本の知識に頼りたくなってしまう気持ちも分かるような気がする。
ルカにそれとなく相談したところ、苦笑を浮かべてこう言った。
『恋愛にマニュアルなんて存在していない。俺の個人的な意見だけど、人として誠実に相手に接する事。相手がどんな人間なのか、じっくり丁寧に知っていく事。じっくり知っていくうちに距離なんて勝手に縮まる。あ、あと簡単に得たものは簡単に失ってしまうものだから…恋愛感情の相手に触りたい感情を刺激するのも必要だとは思うけど、相手と心でつながる事の方が失くしにくいから』
恋愛関連の本に手を出す前に、この人に相談してからにすればよかったと後悔した。
世の中にあふれている恋愛関連の文章を、あの人は独自の観点でこの数行にまとめてしまっているあたり、私にとって謎が深くなっている。
あの人たちに出会ってから、自分の冷めた感情にも少しは熱を感じるようになってきているのは、美空のおかげだと感じている。
「でも、それとこれとは別だから」
美空に対して、優香さんをめぐり、正々堂々と戦いを挑む事を選択しようとしている事に自分でも驚くような変化を感じていた。
再び、幸来視点でのお話になります。
恋の行方はどうなるのでしょうか?
不定期更新になりますが、お読みいただきありがとうございます。




