恋煩いと歌『5』
優香が寂しそうな表情を浮かべて私に視線を向けている事に、この時気づいていなかった。後から、幸来からその事を聞いて知った。
「お待たせ致しました。本日のケーキセットでございます」
「ありがとう」
生クリームをあまり使用していないケーキがお盆の中に四個、並んでいる。
「あれ、ケーキは三個のはずだけど」
「これは、美咲に」
ルカはそのまま三つのケーキをテーブルの上に置いていく。四個目のケーキを美咲のテーブルの上に置く。
私たち三人は、それぞれ、目の前に置かれたケーキを食べ始めた。
「頼んでないけど?」
「たまには、俺からのおごりで」
「……素直に喜べない」
「というのは冗談で、雫からのプレゼントです」
「あ、それなら嬉しい」
美咲さんはケーキを一口食べると、幸せそうな表情を浮かべる。
「美味しい」
それを見ていたルカは、飲み物を持って来ている雫に視線を向けた。
「だってさ、作ってよかったね」
「……よかった。いつもの飲み物です」
少しだけ表情に出して喜んでいる雫は、どちらかと言えば美人の部類に入るのに可愛いと感じる。二人とも幸せそうな空気をだしていて、見ているとほのぼのとしてくるのは、優香も幸来も同じみたいだった。
「相変わらず、お似合いの二人だね」
なんというか、「ごちそうさまです」と言いたくなる雰囲気だなと、ケーキを食べながら、スマートフォンで時刻を確認する。
日付を見て、今日が何の日なのかを思い出した。
三月十四日、デパートではお菓子よりもアクセサリー関連を売る人たちが活気づく日だった。当日よりも当日までにいかに売るのかが勝負なところもあるのか、当日は前日までに比べて静かな雰囲気になっている事が多い。
あ、そうか。だから、今日は夏美もいないのか。ルカと夏美もお似合いなんだよなぁ。そう思いながら、珈琲を一口飲む。
そういえば、ちゃんと話してなかったな。
横目で幸来の事を見る。
お互いに、言葉に出して、恋愛対象が同性なのだという事を言った事がなかった。
お互いがはっきりさせるのを誤魔化すような、どちらにでもとれるような言葉使いをしていて、ぶつかってなかった。
そして、私が優香と付き合っていた事があるということも、まだ、好きなままだという事も話していなかった。
「いいな、あんな感じの二人…憧れる」
「そうよね…あ、今日、美空から曲聴かせてもらえて」
「……よかったじゃないですか」
「今度は本人が直接歌っているのが聴きたいな」
からかう気で話かけてきている幸来に秒速で断りをいれる。
「却下します」
「お願いしているのに…」
「なんで却下?私たちの集まりの中での話だよ?」
「うぅー…嫌なものは嫌だから」
見ず知らずの人前で歌うのも緊張するものだろうけど、この二人の前であの曲を歌うのは無理だと感じている。
「何の話?」
ラストオーダーの時間も過ぎ、ルカはあいているテーブルから整理整頓をしながら話しかけてくる。
「趣味で美空が作詞作曲をしていて、その曲を歌って欲しいっていう話」
「あぁー…なるほど。んー…無理に聴かない方がいいんじゃないか?」
「自分の作品じゃなくても、ルカも歌う事は逃げますよね」
雫も閉店作業を進めながら、会話に参加してくる。
「えーと…それとは別に、今度夏美さんに曲を聴いてもらおうと思っていて、アドバイスもらえると助かるなと思って」
私は、話題をそらそうと、今日ここに来た目的を言う。
「そういう事なら、伝えておく」
「助かります」
珈琲を飲みながら、甘すぎないケーキを食べていく。
この喫茶店に幸来を呼ぶ事にしたのは、ここの雰囲気が落ち着くのもある。夏美さんに相談したかった事もある。それでも一番の目的は、こういう場所もあるのだという事を知ってもらいたかったからだ。
個性的な味のある喫茶店だが、人柄が温かいから、楽しい時間を過ごすと気分が前向きになる気がした。




