神の世界の光と闇
俺は無力化されたスサノオをなんとか動かそうとしていた。
「くそ、動け、動け、動けぇ!」
だが、スサノオは動かない。
『無駄だ、なぜ其のメカが動いていたか
なぜ動かなくなったか、
言霊と言うのは決して弱い力ではない』
「だからといって、はいそうですかと従うわけにはいかないんだよ!」
俺が叫ぶとスサノオの動力が戻った。
俺の気合でなんとかやつの呪縛を打ち破れたようだ。
「よし、立ち上がれ、スサノオ!」
ぐぐっとなんとか起き上がるスサノオ、しかし、相手の懐に迂闊に踏み入ることもできない。
「なら、これならどうだ!
轟け雷、我が敵を撃て!
いくぜぇぇぇぇ、破壊の稲妻!。」」
『我を害すものよ、汝飛ぶこと能わず』
やはり敵が呪文のようなものを唱えると雷は地面に吸い込まれるように消えた。
「くそ、どうすりゃいい?」
焦る俺に無情に相手は宣言してきた。
『あきらめよ、そして汝らの犯した罪の重さを噛みしめるがいい。
我は国之常立神。
地上の秩序と法則を定めしものである』
仙人のような道着を着た男がそう言うともうひとりも言った。
『私は豐雲野神
風と雨と雷の豊穣を司るものです』
俺は二人の名乗りに首を傾げた。
「国之常立神と豐雲野神?
聞いたことがないんだが?」
美貴姉さんが俺のセリフにため息を付いて答えてくれた
『これはまずいわね。
鉄也くん国之常立神は、日本の秩序や法則を作り出した神よ
そして豐雲野神は地上に恵みを与えた豊穣神すなわち生命を司る神』
朧姉さんがさらに付け加える
『国常立尊は非常に厳格な神で、その厳しさに耐えかねた
八百万の神々が一致して御引退を願った。
結局多くの神々の世論に抗しかねて
御引退になったということになっている」
『ふん、騙して封印しておきながらぬけぬけと
そのようなことをよく言えたものだ
貴様らが私を排斥し北東へ押し込めた日を
わざわざ節分として残している理由はなんだ?」
その言葉に俺は首を傾げた。
「ん、節分って言うと炒った豆を
鬼は外福わうちって言って巻いたり
恵方巻きを食ったりするアレか?」
『恵方巻き?』
なんか敵も首を傾げてるぞ。
もう一人のほうが説明してくれた。
『私の調べた所恵方巻きというのは最近でっち上げられた節分に
行うべき風習とされるものですね。
因みに冬から春に変わる、
すなわち節が分かれるから節分というのですよ』
「ほう、そうだったんだな」
姫乃がなんか呆れたような顔をしてるぞ。
「いや、鉄也ちゃん、仮にも神の転生体なら其れくらいしっておこうよ」
「お、おう、すまん」
国之常立神のほうはこほんと咳払いを一つすると言葉を続けた。
『儂は天若彦により、儂は世の中に出られないように
艮(東北)の方角に押し込められ
“炒豆に花が咲いたら出てもよい、
さもなければ永久に押し込めてしまう”という
呪いをかけられた、そして北東は鬼門とされ
儂は冥界にて裁きを行う閻魔となった」
「因みに年の数だけ食べるのはなんの意味があるんだ?」
『しらん、自分で調べろ』
「お、おう」
『それ以来、儂は鬼として恐れられ、また、疎まれるように
人間からはその存在すらも忘れ去られた。
だが、あまりにも人間は欲にまみれすぎた。
炒豆に花が咲き、咲いた花は種を実らせることがなくなった。
ゆえに、儂は元のあるべき姿にこの地を戻すため日常に出てきたのだ』
「なん……だと?」
『もはやあなた達の役目は終わったのです。
やはり人間の欲は制御できるものではありませんでした。
ならばこの世界を清めふたたび静かな世界をいまこそ取り戻すべきなのです』
「そんなことは……」
『まだわからぬか、世界中で起きていることは地球の意思によるものだ』
「だからといってはいそうですかと従うほど諦めは良くないんだよ!」
俺はナンバに剣を構えすり足で足が地面から離れないようにしながらすっと踏み込んで斬ろうとした。
『我を害すものよ、剣を禁ずれば、すなわち傷つけることあたわず』
剣がやつを捕らえたと思ったのもつかの間俺は蹴り飛ばされた。
やつには傷一つついていない。
「くそ、なんでも禁ずることができるのかよ。
卑怯だぜ」
『ふむ、まだ抗うとは、諦めの悪いことだ』
そして突如通信が割り込んできた。
其れはなんと戸部からだった
『須王くん、私も手伝うわ』
戸部は以前に神戸で乗り込んだ下半身が馬のメカに乗っていた。
「ありがたい、が、きをつけてくれ。
あいつには攻撃が通用しない」
『なら二人ががりならどうかしら』
戸部が助太刀にきてくれたのは助かる、だが、そうは問屋がおろさなかった。
『私もいることを忘れてもらっては困りますね。
貴女の相手は私ですよ』
俺達はスサノオだけでなく、ツクヨミやアマテラスの形態の全ての武装を使い攻撃したが、やつにキヅをつけることはできなかった。
一方の戸部は豊雲にダメージを与えていたが其れを上回る速さで豊雲は自己修復指定しまい倒すことはできなかった。
「ぐああっ」
『きゃああ』
『ぐうぅ』
「ああっ」
『うううっ』
スサノオとニシキトベがぶつかるように弾き飛ばされ、地に倒れ伏した。
「くそ……」
国常立尊がゆっくり歩み寄り、スサノオにとどめを刺そうとその手の中に杖を生み出した。
『ではさらばだ、しばらく冥界で頭を冷やすといい』
そして杖が振り下ろされ……
”bakooooooooooooooooooooooooooooooon!”
国常立尊の足元から人影が人の姿を取ったかと思うとその拳の一振りで国常立尊は上空高く吹き飛び、やがて頭から地面に落ちた。
「うちの愛しい息子にてをですんじゃないわ、あほんだら」
『だ、誰だ?』
よろめく国常立尊にその女性は俺の母親だった。
「母さん」
『イザナミ……だと、ばかな、貴様は冥界から出られるはずが……』
母さんはフットせせら笑うように言った。
「うちの鉄也への愛は海より深いんよ
鉄也ちょっとまっときや。
うちがあいつを居てこましたら
一緒に冥界に戻ろうなぁ。
静かでええところやで」
こうして俺の母親であり日本最古のヤンデレ女神であり日本最強の死神でもあるイザナミは地上に姿を表したのだった。
俺は思わずつぶやいた。
「じょ、状況が改善した気がしねぇ」




